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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第八話 上野駅 「おじさん、殺人鬼とダンジョンで対決す」
44/103

1 【第8話 開始】

挿絵(By みてみん)


 繁盛する上野駅に新たに作られたフードコート。昼時もだいぶ過ぎた時間帯なので、数多く並ぶテーブルに客はまばらである。


 そこで一人の中年が美味くまなく不味くもないラーメンをすすっていた。


 尾地である。


 冒険者は若者が多いため、品揃えも若者向きなものばかり。質より量。淡白より脂ギッシュ。とにかく甘い。そういったメニューの中から尾地が選んだのが、この何一つ変わったところのない、普通のラーメンであった。


 「不味くもない、上手くもない」


 そういう感想しか出てこない代物だ。


 彼のすぐ背後では、若い女性が無駄に大きいパフェをテーブルに置いて、ひたすら写真に撮っている。なにが楽しいのか尾地には全く分からなかった。


 「待たせたな」


 背広姿の伊達な男、ザンゾオが現れ、尾地の前に座る。


 「ラーメン?上手いの?」


 「いや、普通」


 すぐにザンゾオは尾地のラーメンの味を確認した。美味くないなら注文はしないようだ。


 「なんだよ、わざわざ呼び出しやがて」


 ラーメンを食べながら今日の呼び出しの理由を尋ねる。


 「お前も知っているように、俺がいる遺跡調査課はダンジョン自体の管理を任されている」


 「知らなかった。管理してるなら早くダンジョンからモンスターをなくしてくれ」


 「管理といっても、それは主に人間の手が及ぶ範囲、簡単に言えばダンジョンに入った冒険者の行動の管理と、冒険者が手に入れた知見と、ゲットしたお宝に関しての管理だ」


 尾地のイヤミをザンゾオはテーブルの上のナプキンをいじりながらスルーする。


 「ギルドで充分だろ。ダンジョン泥棒の俺たちの上前をはねるのは」


 「ギルドは冒険者の労働団体だ。ダンジョン自体をどうこうしようって組織じゃない」


 「そのダンジョンの管理人が俺みたいな店子を呼び出して…要件言えよ」


 「ま、その店子の一人の行動に問題があるって話だ。お前、今、食事中か?」


 「見りゃ分かるだろ」


 尾地は食べているラーメンの麺を見せた。


 「食事中にする話ではないが、殺人の話だ」


 「だったらこんな所に呼び出すな。昼飯食っちまってるぞ」


 「気にするな、ただの殺人事件の、ただの惨殺死体の写真だ」


 懐から数枚の写真を取り出し、尾地の手元に投げる。


 「データでよこせよ。いや、よこすな、食事中に」


 尾地は平然と言い返したが、写真を見て一瞬眉をひそめた後、麺をすすって、


 「ヒデェな」


 一言で返した。


 「冒険者たちを惨殺。冒険者といえど、同じ人間を警戒しない、背後から襲って執拗に痛めつけている。その残忍で執念深い切り口からモンスターの攻撃でないのは明らかだ。その死体があった周辺に出没するモンスターの攻撃による傷でないことも確認ずみ」


 「定位置をもたず彷徨うタイプのモンスターって可能性もあるだろ」


 尾地は食事を再開している。


 「それが一駅のダンジョン区画で行われたのならその可能性もあるが、複数区画で同一の事件が起こっている」


 「単発じゃなくて連続なのか?」


 「池袋、渋谷、原宿の順で、そして今回は上野だ」


 「ダンジョン内連続殺人ねー」


 尾地は汁を飲もうとしたが、体を気遣って汁は残した。


 「俺の仕事じゃないな」


 食事が終わったので断った。


 後ろの女性はパフェの写真をまだ撮っていた。


 「ザンゾオ、お前の仕事だろ。俺に振るなよ。だいたいなんで俺がそんな警察の真似事をしなくちゃならん?」


 「正直言って、遺跡課だけでは手に負えない。ダンジョン内の警察権なんていまだ確定していない話だ。ほんとならギルドに丸投げして、お前らでなんとかしろといいたいところだが、遺跡課としてもこれを放置してダンジョンのイメージが悪化することは避けたい」


 「モンスターが跋扈して、コロシアイが日常のダンジョンのイメージが、これ以上どう低下するというのだ」


 「人殺しは不味い。人間がモンスターを狩るのはいいが、人間が人間を狩る行為は全くの別。市民社会に対する脅威だ」


 「だとしてもなぜ俺だ?お前の部下をつかえよ、もしくはお前自身でいけ」


 「餅は餅屋、箸は箸屋。仕事は専門家にやらせるのがつねに最善だ」


 箸屋とはなにか、尾地は一瞬悩んだ。


 「お前のダンジョン内でのスカウト能力は業界でもトップクラスだ。さらに俺の身内となればギャラのコストダウンも見込める」


 「殺人犯を追跡したことはないし、値引きにも応じない」


 「快楽殺人を定期的に行ってるような奴だ。それはもうモンスターといっていい。必ず行動条件があるはずだ。そして、その行動追跡と捕獲はお前にしか出来ない。安心しろ、お前一人じゃ心配だから、俺の弟子もつけてやる」


 「弟子?」


 「メイビ」


 ザンゾオは尾地の後ろに声をかける。


 パフェの写真を取りまくっていた手が止まる。


 立ち上がった女性の背は尾地よりも高かった。ショートヘアーの死んだ目の女性を、尾地は椅子の背にもたれかかって見上げた。


 「俺の弟子の、加持メイビだ」


 尾地の頭の真上から、冥い目が見下ろしていた。






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