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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第6.5話 駅前ファミレス ネーミング会議
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2 【第6.5話 完】


 「で、どうなの最近、あっちの方は?」


 ワイン片手にニイがシンウに聞いてくる。


 成年と青年の違いは、アルコールでタガが緩んだ姿を晒すかどうかの違いだ。


 「え?あっちですか?まあ、普通ですよ」


 「普通ってことないよねー。心も体も普通なんて許さないでしょ~普通~」


 「そうだな、体も心もいつだって逸脱を求めてしまうものだ。それに冒険者という仕事はつねに死と隣り合わせであり、過剰に分泌されるアドレナリンは肉体をさらに開放せよと迫る…」


 スイホウも三杯目のビールで緩んでいる。


 「異性がないんだったら、お姉さんたちが相手してもいいんだけどな~」


 ニイとスイホウがテーブルの下でシンウの靴をトントンと叩く。


 酔った仲間のダメな姿を何度も見ているシンウはその程度では動じはしない。


 そもそもこの三人を前にして自身の恋愛話などする気はない。 


 このファミレスに陣取って五時間、入ってくる客は男性女性問わず、まずこの三人に驚き、三人を見ながら席に付き、食事中も三人をチラチラと見て、帰る時は名残惜しそうにに三人を見ながら帰るのだ。


 そんな同性に自分が恋の話をするなんて。




 「最近、男と話した?」


 急にニイはスイホウに聞く。


 「コレの弟、あと尾地」


 「尾地、弟…あとギルドの団長と支部長。名刺もらった」


 ニイは指折り数えても五指に届かない現状に嘆いた。


 「絵画のモンスターも男でしたよ」


 シンウはこのまま話をずらそうと会話に加わる。


 「男だった?」


 「男ですよ、全裸のいたし、付いてたじゃないですか、でっかいのが」


 「でっかい?スイホウは、ちんちん見た?」


 「見てない。見てる余裕なかったし。下手したらちんちん切ってるし」


 夜のファミレスで死にそうになった乱戦を思い出す。たしかに全裸もいたような気がするし、局部も見たような気がするが、形を思い出せない。ニイは悔やんだ。


 「ちんち…」


 御眠になっていたホリーチェが寝言のようにつぶやく。汚い言葉を言わせないようにニイがその口を塞ぐ。


 「じゃあなにかい、私らが最近会話した異性って尾地の中年だけかい」


 スイホウがため息をつく。


 「だからギルド長と支部長とも話したって」


 「老人だ!」


 スイホウはニイの男性経験をカウントに入れなかった。


 会話に参加しているシンウだったが、ジンクの友達の同年代の男の子が家にやってきて、一緒にゲームなどをして遊んでいるということは、この二人に言わないほうがいいな、と情報開示をしなかった。


 「ここは合パですね…」


 ニイが悪い顔で提案する。


 「合パ…(ゴクリ)」


 スイホウがつばを飲む。


 「合パじゃなくて、レイドじゃないですか?」


 シンウのツッコミにニイが反論する。


 「レイドは対ボス用の複数パーティーの共同戦線だ!しかし、合同パーティーは…ベストなパートナーと出会うためのイチャつきメインのダンジョンデートだ!」


 「だいたい合パすると、複数のパーティーが同時に瓦解するんだよな…二つのパーティーの男女が入り乱れる結果になって、両者共倒れ。カップル同士で新パーティーを作ってもジョブのバランス悪くなるし、カップルが破綻するとまたパーティー崩壊…」


 「ダメじゃないですか!」


 スイホウの補足にシンウが突っ込む。


 


 いきなりホリーチェが怒鳴る。


 「パーティーでの恋愛禁止!これは決定事項だ!」


 なぜか飲んでない彼女もグダっている。


 すでに時間は夜の9時に迫り、早寝早起きのホリーチェには御眠の時間であった。飲んでいたものを紅茶からブラックコーヒーに変えていたのは彼女のリーダーとしての覚悟の証であったが、隣で酒を飲んでいる連中のアルコールを含んだ排気に当てられたのだ。


 「パーティー内で恋愛あると、大抵崩れるよね」


 「ああ、ギルドの調査報告でもあった。パーティー解散の理由一位は恋愛のいざこざ」


 「二位は冒険感の違い。なんだよ冒険感って!」


 ニイとスイホウが言っているように、二十代がほとんどの冒険者業界において、恋愛ご法度は冗談抜きで真剣な問題だ。


 「恋愛するなら、カタギになって結婚まで視野に入れろってことだろ。ギルドとしても貴重な若者を冒険者業界が囲ってると思われるとまずいからな」


 ホリーチェは御眠の状態でも会話に加われている。


 「結婚ねぇ。冒険者やって社会の文化的基盤を支えた後は、子供を生んで社会の生産基盤を支えろってことね…」


 ニイが醒めた口調で文句を言う。


 「男たちは一生バカやってていいが、女はそうではない。社会は常に私達に無言でそう言っている」


 スイホウもやるせなさを感じている。


 突然、空のコーヒーカップを掲げたホリーチェがアジりだした。


 「いいか、お前ら!たとえ社会がお前たちにそんな役目を押し付けたとしても無視しろ。私達はたしかに社会の歯車だ、それはいい。だが歴史の歯車になってはいけない。ただ歴史を過去から未来につなぐだけの無意味な歯車になるな。自分の求める人生を生きて、人の歴史に豊かな一石を投じろ。文化と文明の意味を自身の幸福という形で記せ。望めばそれは叶うし…叶わなくたって、叶ったと答えろ…」


 ついにエネルギーが切れてホリーチェが轟沈した。


 崩れるホリーチェをニイとスイホウが抱きとめ、娘のように慈しむ。


 シンウは無駄に終わってしまったノートをカバンにしまい、宴の片付けに入った。




 立川駅前、多くの人がこの暫定首都から帰宅するために駅の中に消えていく。


 ホリーチェとニイとスイホウはバス。シンウだけが中央線の電車で帰宅する。


 ホリーチェをおぶったスイホウ、その傍らのニイ。二人とも酔いはだいぶ醒めたようだ


 「結局、名前決まらなかったじゃん」


 「また今度の宿題だな」


 ニイトスイホウに別れを告げて、シンウは帰路につく。


 電車の中で、弟のジンクにメッセージを送る。


 「今から帰ります。会議の成果はありません。お土産もありません。ごめんね」


 電車は未だ廃墟も多い国分寺当たりを通過する。


 シンウは揺れる車内でうつらうつらとしながら、大変だったが楽しかったこの数時間を思い返した。


 パーティーの名前を決める会議は一年前にもあった。そしてそれは不発に終わり、今年も開催された。


 シンウはこの会議が来年もありそうに思えた。


 それも悪くない。皆と一緒にもう一年いられるのなら。





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― 新着の感想 ―
[一言] >社会の歯車 この表現は社会の礎となるという「自らの意志でなる者」とセットで使われ始めた言葉だと記憶しています。 戦前に徴兵で国民を戦地に送り出すとき「国の礎になる兵隊」という美辞麗句が…
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