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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第一話 池袋駅 「おじさん、若者たちの窮地を救う」
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挿絵(By みてみん)


 池袋駅の駅ビルはその外観は維持していたが内部は崩壊している。しかし駅構内と地下部分は再建は再建され「池袋ダンジョン入り口」として新生している。


 電車から降りた四人のパーティーはそのまま地下コンコースに降りた。


 コンコースには冒険帰りと思われるパーティーがそれぞれに集まり、ダンジョンからの収集物の分配を話し合ったり、疲れた体を休めつつも、一仕事終えた興奮で高まった声で和気あいあいと歓談していた。その光景は歴史書にあるコミケ終了直後の風景のようでもあった。


 その中を四人のパーティーが足早に進む。彼らは自分たちがこの連中とは違う、明確な敗者の側に落ちた事を感じていた。ダンジョン内で敗北を喫し大事なメンバーを置いて地上に逃げ帰った。


 今また救出するためにダンジョンに向かってはいるが、他のパーティーの様な陽気さも高揚感もない。焦燥感と命というものを背負ってしまったプレッシャーだけが彼ら包んでいた。


 そんな若者の活気あふれる人混みの中に一人の中年男が立っていた。


 「山宮様御一行」


と書かれた紙を胸にかざした私服の男。鎧を着た冒険者だらけの、若者だらけの池袋駅でその姿は実に浮いていた。そんな浮きまくってる男がもっている紙に書いてあるのは、自分の名前だったことに少女は驚いた。


 このパーティーの暫定リーダーである山宮シンクは、遠くにその男の姿を確認した瞬間、男の方から大声で話しかけてきた。


 「あ、山宮様ですか?わたくし、ギルドから派遣でまいりました尾地と申します。本日はよろしくお願いします!」


 元気よくハキハキとした声で近づいてきたのは、依頼していた派遣冒険者のようだ。


 このレスキューミッションの成否を握るかもしれない傭兵。その人物は、どう見てもただのサラリーマンという感じの人物だった。




 「あ、ハイ、私が山宮シンクですが、よくわかりましたね」


 今まで姉と呼ばれていた女性が驚きながらも答える。中年男の声は駅コンコースに響き「派遣」というワードに反応した幾人かがこちらに冷たい視線を飛ばした。


 見た目には普通の中年男性にしか見えない。若者にとって中年男性の年齢測定ほど難しいものはない。四十代と推定しても文句を言われることはないだろう。メガネ姿も野暮で、この人物が戦闘で活躍する様を想像することはなかなか難しい。


 「本日、4時半、池袋駅コンコースで集合とありましたのでお待ちしておりましたら、ひときわ真剣な面持ちのパーティーが降りてきましたので、これはと思ったのです」


 「はぁ…そうですか。あ、私は山宮、シンウ。一応今回の暫定リーダーです」


 「よろしくおねがいします!」


 中年、尾地と名乗った男は深々と頭を下げ、その薄くなりはじめた頭頂部を衆人に晒した。


 「こっちは弟の山宮ジンク、こっちが魔法使いのニイで、あっちが剣士のスイホウ」


 焦りと失望からか、雑にパーティーメンバーの紹介をするシンウ。派遣の冒険者と必要以上のコミュニケーションは不要といった感じであるが、尾地はそれに構わず全員に笑顔を向けた。


 その前髪もかなり後退していた。


 「時間がありませんので道すがら説明します」


 リーダーであるシンウは尾地にそう言うと、全員に冒険の準備に入るよう命じた。




 池袋駅コンコースの隅にある冒険者用ロッカールーム。男女別に別れて入りそれぞれの装備を行う。すでに外部強化装甲「エグゾスケイルアーマー」を装着しているので、動力源である「メモリー」を装填して、バックパックから各種冒険装備を取り出しアタッチメントに装着していく。各員がケースから武具を取り出す。


 マッパーとシーフを兼任するスカウトのシンウは多層構造、複合素材の小型アーチェリーとショートソードを手早くバックパックのサイドハンガーに取り付ける。


 黒魔法使いであるニイは伸縮式の杖を伸ばす。カーボンを主体とした黒い杖だが、所々にカラーのラインが走り魔術的と言うよりもスポーツ用のガジェットのようだ。電子装置を組み込んだ現代のマジックワンドだ。


 剣士であるスイホウはひときわ長い武器を背中のハンガーに装着する、折りたたんだ二刀の薙刀だ。これもカーボンなどの軽量でしなやかな素材で作られ、曲線と直線の混じり合った複雑な形状をしていた。


 一方男性側ロッカールームでは、弟こと山宮ジンクと今回暫定的に仲間となる尾地とが一緒に着替えていた。ジンクは装着していたエグゾスケイルを一度ずらして、裸の体にパウダーを塗布していた。強化外骨格であるアーマーは人を冒険者と呼ばれる存在にまで強化してくれるが、その装着する箇所はどうしても擦れて痛い、肌の弱い彼は出発前に常にパウダーを入念に塗っているのだ。


 彼の体は若者だけが持つことを許された、しなやかさと柔らかさに満ちた筋肉の結晶だった。対して尾地の体は、これまた中年男性にだけ許されたゆるく緊張感にかけた肉体。たしかに厚い筋肉の存在は感じられるが、それを緩んだ皮膚が包み隠している。


 その体を見つめるジンクの視線は苛立ちと不信が混じったものだった。その視線に気づいた尾地は「イヤン」と胸元を隠す仕草をする。中年の中年による中年のためのギャグだ。


 ジンクはそれを無視しながら準備に勤しむ。ギャグが通じなかった事を後悔する様子もなく尾地も冒険用のウェアを着込み、その上からエグゾスケイルアーマーを装着する。それはじつに手早く、じつにこなれた動きだった。


 それぞれが準備に費やした時間は短かった。冒険に持っていかないケースや荷物をロッカーにしまい鍵をかける。ジンクは一振りの剣を背中に装着しポリカーボネイト製のスモールシールドを腕に付けロッカールームを後にした。


 全員が同時に揃う。


 尾地は完全に私服の状態から装備を開始したにもかかわらず他の皆と同時に現れたのだが、その事にに気づく者はいなかった。


 尾地を入れて五人になったパーティーは、ダンジョン改札前に集う。


 「じゃあみんないいね?時間の猶予はまだ十分にあるし、ルートもしっかり設定してある。慌てず落ち着いていけば問題なくクリアーできるから。暫定のリーダーだけど、私を信じてね、みんなで協力していきましょう!」


 シンウは全員を見渡す、よく知った顔たちとまったく知らない顔。不安はあるが成功の確率のほうがはるかに高いことは明白だ。


 「それじゃあみんな…」


 「ご安全に!」


 素っ頓狂な大声を出したのは、このメンバーの中で最年長の男性で、中年であった。


 若者たちに見つめられて、さすがに中年も頬を赤らめた。


 「ほら、現場に降りる時にやりません?ご安全にって確認…みんなで…」


 「やりません、すみません」


 若い暫定リーダーはとりあえず謝ることでこの場を高速で収拾させた。


 「私達とは文化が違いますね~」


 黒魔法使いのニイはこの変な中年を面白がり始めたようだ。暫定リーダーであるシンウにとっては、今求めているのはユニークさよりも実用性であり実戦性能だった。


 シンウは大切なミッションを開始する前に、初めて派遣冒険者を依頼したらハズレを掴まされたのではないか、という不安との戦いを開始せざるをえなかった。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 臨時リーダーの名前は『山宮シンク』ですか? それとも『山宮シンウ』ですか? 前半はシンク、後半はシンウになっています。
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