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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第二話 新宿駅 「おじさん、パリピな若者たちの尻拭いをする」
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 新宿口ダンジョン第二十八層。


 通称「シンジュク・ギョエン」


 地底に広がる広大な空間は、枯れきった池の窪地を中心にどこまでも岩肌が広がる荒野だ。ドーム状の天井が覆いかぶさり、その天井からライトのように赤い光が降り注いでいるが、その光は弱く視界良好とはいえない薄暗闇の空間が広がっている。


 その薄暗闇を切り裂くスポットライトの強い光。


 ギョエンの出入り口は高さ3mほどの小さなトンネルが一本あるだけ。そのトンネル出口の前方に鉄パイプで組み立てられた櫓が立っている。高さは八mほどある。


 その櫓には前方を照らすためのスポットライト、櫓の上の人物を照らすフットライト、大音量でBGMを流すスピーカーと音響装置、メインスタッフ用のドリンクバー、休憩用ソファー、応援用の巨大な旗、用途不明な巨大な槍を持った騎士のコスプレイヤー、撮影スタッフと大量の設置型カメラ


 場違いなものが全て揃っていて、場違いでないものは一つもないといったという有様だった。




 そのライブ会場のステージのような櫓の前には、逆に場違いと言われそうな、冒険者たちによる軍隊的な戦陣が作られていた。


 五〇名の傭兵部隊を作る派遣冒険者たち、二五名の魔法使い、一五名の弓矢部隊。


 傭兵たちは背丈を超える巨大な盾を構え、横三列で並んでいる。横に並ぶ盾どうしを接続し三列の巨大な盾の城壁を築いている。


 その背後にいつでも射撃可能な魔法使いと弓矢部隊。即席の城塞がそこに出来上がっていた。


 その後ろにパリピな櫓が立っていてる


 その頂上に立ち勢い良く叫んでカメラの向こうの視聴者を喜ばせようとしているのが、本作戦の最高責任者であるチーム「ホーリーフーリガンズ」のリーダー、ミシマという男だ。




 人間の壁、城壁チームの最後尾から魔術チームの方に一人の男が移動する。


 城壁チームのトップ、頭を任されている尾地だ。彼は魔術チームの頭である、マキという男に近づき声をかける。


 「どう?」


 仕事をする者同士、同じ現場に立つ者同士の、重要な情報のやり取りの要請が、この短い一言だ。


 マキは三〇代そこそこの魔法使いだが、現場歴は長く、経験と勘に優れた男だと尾地は見ていた。


 「ヤバイっすね。 上、駄目っすよ」


 マキはまだ若さが抜けきらない語彙で状況が悪化していることを尾地に告げた。


 「私もさっきミシマさんに、もっと前に出ないと駄目だって進言したんですが、聞いてもらえなくて」


 「聞かないっすよ、大軍率いる器じゃないっす。尾地さんがやったほうがまだいいですヨ」


 マキは冗談のように言ったが、半分本気だ。現場を扱う、まとめるということなら、尾地の方が上だというのはすぐに分かった。とにかくミシマという男は現場を知らないし、この異常なまでの大所帯を扱いきれていない。


 「来るぞー!」


 前方から声が上がる。城壁チームの兵士たちがギュッとひとつにまとまる。彼らの作る人間の壁の密度と強度が上昇する。


 「来るぞー」


 頭である尾地やマキも声を上げ、全員に情報を行き渡らせる。その声は最後尾に立つ櫓最上段の男にも伝わる。


 「防御固めろー!今度こそ倒すぞー!」


 ミシマの発した無責任かつ軽薄な声がスピーカーにより大音量の命令として響き渡る。気を利かせた音響スタッフが盛り上げる効果音を鳴らす。


 ホーリーフーリガンズのメンバー以外、雇われた傭兵たちは全員「無理だって」という諦めの言葉を口の外に出ないようにこらえた。


 薄暗闇から、重低音が響く。


 ドコドン、ドコドン


 城壁チームの全員の顔色が悪くなる。


 盾を構えこらえている脚が震えと振動で揺れている。


 ドコドンドコドンドコドン


 音は大きく近づいてくる。


 尾地も人間城壁の最後尾に付き、壁の一部になる。


 「来るぞー!」


 尾地は叫び城壁チームの力を一つにまとめようとする。


 ド!


 暗闇から飛び出したのは巨大なゾウガメ。その顔は巨大なハンマーのついた龍の顔。


 大きさは新幹線の車両を二台横並びにしたような巨大さ。これがこのシンジュクギョエンのヌシ。ギョエンドラゴンの姿だ。


 その巨獣が走ってきた加速のまま、人間の壁に突撃した。


 頭部のハンマーが盾に衝突する。


 ドラゴンの口から飛び出したよだれが、にわか雨のように降り注ぐ。


 崩れそうになる一列目を二列目三列目が押さえて支える。


 盾を持つ傭兵たちはみなエグゾスケイルアーマーを着ている。衝撃に耐えた瞬間、その体の運動エネルギーを再イメージし、メモリーの力を使って二倍にする。一人の力が二倍になる。それを五〇人全員が同時に行った。


 「ドッセイ!!」


 全員が声を合わせて、盾を上に持ち上げる。この力も倍加している。頭どころか前足まで傭兵たちの上に乗り上げていたギョエンドラゴンはその体を上に弾かれて、無防備な喉元から腹を櫓に向かって晒した。


 「ぅてェーー!」


 魔法使いチームの頭、マキの号令により火炎魔法が一斉に巨獣の腹と首、喉元に打ち込まれる。矢も何十と放たれる。


 それに怯んだように後ろに転がったギョエンドラゴンは、ドタドタと暴れた後、体をひっくり返して体勢を立て直し、闇の中に戻っていった。


 ため息と冷や汗、疲労の中、再び巨獣の攻撃を跳ね返すことができた事に安堵する傭兵たち。


 「ヒャッホー!おととい来やがれ~!」


 その上をバカみたいに喜んでいるミシマの声が響いた。






 新宿駅エントランス吹き抜け二階の喫茶店。


 時間夕方は五時ごろ、一つのテーブルを長時間占拠しているのはホリーチェ、シンウ、ニウ、スイホウの四人。


 彼女たちはポテトやアイスを思い思いに食べながら、それぞれの携帯に流れる「ギョエンドラゴンを倒してみた」の中継映像を見ていた。


 押して引いての戦いはすでに一時間近く行われている。


 駅のそこかしこで、皆がこの中継を見ているのがわかる。映像でなにか起こるたびに同じ様なリアクションがさざなみのように起きるからだ。


 


 スイホウがもう飽きた顔で言った。


 「倒せるの?これ」


 画面に流れる応援チャットは、始まった当初は応援とギフトが大量に流れていたが、今ではその先行きを不安視するものが増えていた。


 「私だったらもう帰ってる」


 ニイは自分視点で答えた。


 「でも派遣の傭兵じゃそういうわがまま言えないしね…」


 シンウは画面を凝視している。


 「オジサンいた?」


 ニイが聞いてきたが、さっきちょろっと見えた、という返事をしてシンウは画面から目を離さなかった。


 「ホリーチェだったらどう指揮する?」


 スイホウが自分たちの若いリーダーに聞いた。


 「私ならこんなバカ正直に戦争ごっこでモンスターとは戦わない。だいいち、こんな馬鹿騒ぎもしない」


 文庫本を読み、画面には一瞥もくれず、めんどくさそうに少女は答えた。片手に紅茶のカップを持ち本を読む、絵になる美少女だ。


 「あ!映った!」


 突然シンウが叫んだため、ホリーチェは飲もうとした紅茶をこぼしそうになった。





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