プロローグ
何本、何百、いやもっとあるであろう"光のタクト"は全てこちらに向けられたものだった。会場一面に広がる光の海には統一されてないカラフルな色々が広大で淋しい会場を華やかに飾り、各々タクトを縦に横に動かしたりしてワクワクした気持ちを表現する。このコンサートは"彼女たち"が主役。私たち演奏隊は主役より先に観客に魅了されてはならない。焦らしを不満に思ったメンバーは始めからお客様の顔がステージから見えるのを演出に加え、演者と観客との間に布一枚挟まない希望が採用された。バックバンドはアイドルの方とは別のタイミングで本番ステージへ上がる。その為、一足先に上がる私らを見た一部のお客様からは僅かに歓声が上がった。ステージの照明は暗転している。主役と勘違いをしての歓声だろう。暗がりの中、自分たちの担当楽器まで辿り着くのは案外簡単なことだった。一般のお客様の通る通路の端に集められた私たちは顧問から担当楽器までの道案内をしてくれる会場スタッフの方々を紹介された。他にも来場されたお客様を座席まで案内する会場案内スタッフの方々が居ることも伝えられた。私ら演奏隊はここではスタッフ同様裏方の立場。私たちのファンはここには来ないことも宣告された。その傍ら、こちらに向かって観客に担当する楽器で呼ばれる部員もチラホラ。その様子をみた顧問は私らに隠そうとすることも無く頭を搔きながら俯く。真に受けていた私らは一気に心が軽やかになった。
感謝を忘れず!心と記憶に残る演奏を!
ホールを会場とした"演奏会"では経験したことのない無数の眩しい照明がアイドルを照らす。さあ、本番本番。後列のパートは観客の目に届かないよう下部で横一列に手を繋ぎ合う。恐いのは今のうち。呼吸を整えると始めの一音を会場全体に力強く響かせる。緊張はどこ吹く風、上々なスタートだ。ー