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国母セルア  作者: 小松しま
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 セレスティアが離宮とは名ばかりのロールウェルの住まいに向かったのと同時刻、王城の奥室にて、驚愕の報を受ける者がいた。


「……お母さまが……そのようなっ!」


 侍女の手によって、髪にブラシを当てられていたエテルティア王女である。

「は、はいっ」

 耳打ちをした女官は、畏まって一礼した。

 まだ公の場への出席を許されていない王女は、そうした席には必ず手の者を配するようになっているのだ。

 王宮の一切を把握したいとの強い好奇心からの采配であり、その奥底には父母への思慕の念があった。

 親に顧みられないと言う点では、異母姉セレスティアと同様な彼女だが、王女として与えられている境遇、そして権力は、比べようもない。

 城の人々からの尊重もあって、いつか、父母の目も醒めて、自らの重要さを認識してくれるはず……と、彼女は年頃の娘相応の期待感を育て上げているのだ。

 それに相応しくあるため、我が身を常に磨き上げてもいた。

 よって、公の場に起こったあれこれの報告を受けるのを、いつも心待ちにしていたのだが……。

「……わたくしを……イブリールごとき、新興国へ嫁がせると……?」

「え……ええ……」

 女官は、狼狽を隠せずに同意する。

「あんまりでございますわっ!」

「王女さまは、東西ティアモラ融合の証たる御身でいらっしゃいますのよ!」

「あのような小国にっ……!」

 侍女たちも、いきり立つ。

 だが、これも大国の人間として歪んだ目で物事を捕らえている発言だろう。

 イブリールは、確かにティアモラより規模が劣っているが、別段小国の域ではない。

 けれど、彼女たちにとっては、そのように侮って良い存在でしかないのは事実だった。

 歴史と伝統を誇る王国に生まれた者の無意識の傲慢なのかもしれない。

 ……二百年を区切りとするならば、長短に意味すらないのだが……。

「先方は、よりにもよって、セレスティアさまをお望みになられたのです。……恐らく、一応なりとも第一王女であられるからでございましょう」

 女官は、口元を歪めながら訴える。

「ですが、あのような……道を反してお生まれになられた王女さまを娶るようでは、国の民までが哀れと、王妃さまはお考えになられたのかもしれません。ですから、正当な王女さまであらせられるエテルティアさまを、格別な慈悲を以てつかわそうと……そう……」

「!」

 エテルティアは、侍女の手からブラシを奪い取ると、激しい怒りを込めて、それを床に叩き付けた。

 女官も侍女たちも息を呑む。

「わたくしが、なにゆえ……あのような汚らわしき者の尻ぬぐいをせねばならぬ?」

 道を反して生まれた王女。

 汚らわしき者。

 ……王城でのセレスティアの呼び名だ。

 正しき王妃の登場前に、王の心を惑わせた毒婦と、マヌエラなど称されている。

 よって、セレスティアも、過ちから生じた罪の娘とされるのである。

 特に、エテルティアの周辺では、罵りの声が大きかった。

 マヌエラの呪いによって、彼女が娘として誕生したと、信じられているからだ。

 そのために、エテルティアは父母より蔑ろにされたのだと。

 マヌエラ亡き今、全ての恨みは、遺児であるセレスティアに向けられている。

 だからこそ、エテルティアは、セレスティアの有する領地ロールウェルを欲しいと父に願い出てもいた。

 セレスティアの有する全てが、本来は自分のために存在するものだと、彼女は強く信じている。

「そ、そうですわよねっ」

「王女さまが、あのような国に嫁ぐなど、あり得ませんわ」

「……所詮は、にわか仕込みの新興国」

「……セレスティアさまには、相応しい地やもしれませんこと」

 侍女たちは、そう嘲笑する。

「それと王女さま……。セレスティアさまでございますが、実は……」

 罵りが一段落したところで、女官が再び奏上する。


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