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国母セルア  作者: 小松しま
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「……であっても、御兄弟となられたはずのお生命が失われたこと、お悔やみ申し上げます」

 彼が人として当然の弔意を告げれば、シノンもまた、ドレス……無論、陣中とあっては質素なものだ……の裾を持ち上げて一礼し、哀れな御霊の冥福を祈った。

 ここで、胎児の母に対しての弔意がないのは、仕方のない自然な成り行きだろう。

 特別な感情の持ちようもない相手だ。

 ともあれ、ルスズ副元帥の言葉の通り、失われた生命は、セルアにとって弟ないし妹となるはずのものだったのだ。

 しかしセルアは、何の感慨も抱いていなかった。

 そもそも、すでに存在しているエテルティアとイルストに対しても、妹であり弟であると認識すらしていない。

 会ったことさえないのだから、肉親の情云々を持つ方が難しいとは思うが、興味のかけらもないのには、我ながら呆れる思いがあった。

 しかし、それを惜しむ心もまたない。

 セルアにとって、レスヴィック以上に大切な存在はない。

 彼を愛する心があってこそ、イブリールのためにかなう尽力を全て果たすと誓ったのだ。

 そう思いつつ、視線を寝台の横へと向ける。

 ここにもまた、愛しい夫の眠る聖櫃を運び込んであった。

 セルアが自ら運搬を果たせない場合、甚だ尽力を要するそれを陣中に同行させるなど非常識極まりない判断だが、たっての願いとして幕僚や兵たちに願い出、快諾を得た結果である。

 国母セルアは、あくまでもレスヴィック前帝の名代である……との名目も立つ行いだった。

 また、セルア自身が、愛しい夫とかなう限り共にありたいと希ってやまないのだ。

 そして、詳細な布告がなされていないために、前帝の容態の真実を知らない者たちは、まともに身動きができずとも、横たわったまま妻である国母に采配の指示を出しているのではないか……と、勝手な得心に至っている。

 つまり、セルアは心の底から夫君を頼りにし、その名代として女の身で戦場にまで供をしている……と、解釈の飛躍に至っているのだ。

 正直、セルアとしては、そうした説を歓迎しないでもない。

 息子と「かんなぎ」はイブリンの臣下たちに託しても、夫だけは傍らに連れて来ずにいられなかったのだから……。

「……エテルティアは、何としてもこの醜聞を漏らしたくないようです」

「当然でございましょうな」

 こうして敵陣へ報告が来ている皮肉な事実の前では無為の願いであっても、全く以て尤もである。

 セルアもまた、同じ父の子として、彼女の判断を尊重するのが道理だろう。

 ごく自然な計らいでそのよう判断したルスズ副元帥も、到来の情報を何らかの手段に用いるつもりはなかった。


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