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深夜にも関わらず、エテルティアはラーダ一人を伴い、王の軟禁先を尋ねた。
ホーレスト伯爵夫人である女官長の計らいで、件の侍女は今、役目を解かれて彼女の監視下に置かれている。
よって、本日の午後以降、バルモア三世の身の回りの世話は、暫定的な処置として、女官長が直々に行っていた。
ちなみに、共謀の危険を案じて、エテルティアは両親をそれぞれ隔離していたが、その計らいが裏目に出た結果なのだろうか?
王と王妃の生活圏を厳密に分け、行き来を禁じていたのだ。
「……エテルティア……」
就寝中、前触れもなく突然現れた次女を前に、バルモア三世は、寝台に上体を起こしてひたすら瞬く。
「……一体、このような時刻に、何用なのじゃ? ……国政に行き詰まり、今更、余に助力をあおぎにでも来たのか?」
彼は、現状の国難を知らない。
それこそ、エテルティアの厳命で、政に関する一切の情報から、王と王妃を閉め出しているのだ。
だからこそ、呑気な問いも出る。
彼は、理由の詳細は定かでないものの、何らかの事情で国を牛耳ろうと野望を持った娘が、自らを幽閉したと捕らえていたのだ。
情報が皆無なため、その後ろには母である王妃が黒幕として控えているとまで思い込んでいる。
つまり、妻と娘による共謀で、自らは実権を失ったと判断していた。
でありながら、特段の憤りもない。
すでに、国政への情熱も冷めて久しく、いっそこのまま、楽隠居の身になっても良いとまで思っているバルモア三世だった。
ただ、「国王であること」への自負を失っている訳でないため、少々ならぬわだかまりを抱いてはいるが。
よって、このような時分に娘が訪問したのは、父を頼る心から……と、何ともめでたい思い込みに至る訳だ。
「……お父さま付きの侍女が……懐妊したとの報を受けました……」
父と対峙するエテルティアは、表情を消し去った顔で、淡々と告げる。
室内に他にいるのは、ラーダのみ。
女官長は下がっており、王側の付き添いは皆無だった。
後は、部屋の扉の向こうに、警備の兵が控えているのみ。
バルモア三世は、事実上の孤立無援にあった。
「何と! ラモーディが!」
王は、目を見開く。
その奥底に、喜悦の光りがさしたのを、エテルティアは見逃さなかった。
侍女の名がラモーディなるものだと、今の今まで知りもしなかったが、即座にこうした反応が返るところから、身に覚えがない訳でないのだろう。
エテルティアは、奥歯を噛み締めた。
「……よりにもよってその侍女は、宿した子が、お父さまのお種だなどと、おぞましい偽りを口しているとのこと。神と王家……そして、ティアモラの民全てを侮辱する妄言。到底、捨て置く訳にはなりませぬ」
「なっ……」
たまらない感情の波立ちを必死に御して、エテルティアは淡々と告げる。
バルモア三世は、蒼白になった。
「無論、お父さまも同様のいきどおりをお抱きと存じ上げます。国王陛下に醜聞を強いるなど、この上ない不敬。よって厳罰を以て、」
「余の子に間違いない!」
娘の言葉を遮って、彼は叫ぶ。
途端、エテルティアは般若の形相を見せた。
「身に覚えのあろうはずのない讒言を真に受けられますな! あなたはティアモラ国王陛下であらせられるのですよ!」
「っ……」
凄まじい気迫に、バルモア三世は息を呑んだ。




