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「……過分なお申し出に存じます……」
少なからぬ惜しさを感じないでもないが、やはりここは、思わせぶりな態度などを見せて余計な波風を立てるべきでないと、セレスティアは判断した。
「なれど、わたくしは石女の身。お世継ぎを設けることがかないません」
途端、どよめきが走った。
王や廷臣たちが驚くのも無理はない。
うち捨てられて来た王女が、更に生殖能力に支障があると告白したのだ。
同様に息を呑んだ王妃が、直後、高い声で笑い出した。
「何と、何と!」
彼女は、表情を輝かせ……しかし、心根の醜さをひけらかしつつ、憎い義娘を蔑む。
「サナレーン侯よ。わざわざ足労されたと言うに、とんだ見込み違いであったの」
レスニアは、楽しくて仕方がないと、隣国の使者にそう告げた。
「まあ……仕方あるまい。思い違いの勇み足……過ちによって生じた、無用なる王女だ」
「思い違いの勇み足」。
この王妃は、夫と前妃との婚姻を、ことあるごとにそう嘲笑している。
本来、神の祝福を受けて結ばれるはずだった自らとの出会いを待ちきれず、夫が別の女に心を惑わされたのだと、彼女はそう受け止めているのだ。
だからこそ、神殿は離縁を認証し、「正しき王妃」である自分と、王は真実の契りを交わしたのだと、信じて疑っていない。
「我らが神も、その真実にお心を傷められたのだろう。ゆえに、過ちがこの先の未来の禍根とならぬよう、そこな娘に子を産ませまいと、お慈悲をくだされようじゃ」
勝手極まりない理屈だが、この場にいる誰一人として、王妃を諫められはしない。
彼女の背負う西ティアモラは、国土の約七割をも占める。
東ティアモラの優越性は、歴史と伝統を誇る首都を擁するぐらいものなのだ。
「とは言え、遠路はるばるお越しになられたのじゃ。手ぶらでお帰しするのも忍びがたい。……いかがであろう? 我が娘エテルティアを、つかわしてしんぜようか?」
レスニアは、とことんまでセレスティアを貶める。
憎くてたまらない前妃マヌエラの忘れ形見だ。
これを好機として、その立場にかなう限り泥を塗り、二度と衆目を浴びさせずに済むよう、王女としての名誉の徹底した失墜を望んだのだ。
名目のみならず、いっそ、生命すら奪いたいのが本音である。
実際、幾度となく暗殺を試みているほどレスニアの憎悪は強かった。
「エテルティアは、正当な王と王妃の娘。神の真実の祝福の元に生まれ落ちた王女ゆえ、これな哀れな無用なる王女などとは、比べものにならぬ高貴さを誇る。当然、神の恩寵によって、健やかなる後継者を設ける未来は疑いないのじゃ」
誕生時、「王女であったこと」を憤り、以降、全く顧みていない実娘を、彼女はそう持ち上げる。
勝手極まりない主張だが、やはりそれを指摘できる人間はいなかった。
「本来、イブリールごとき新興国に嫁がせるのは惜しまれるが、無用な王女を望まれるほどにお困りならば、格別の慈悲を与えるに、やぶさかでないゆえの」
よくもまあ、ここまで思い上がった傲慢さを振りまけるものだと、セレスティアなどは内心で呆れ果てるが、もちろん、表情に出すような真似はしない。
しかし、屈辱に顔を歪めない義娘へ、レスニアは一層の憎しみを募らせた。
何をしても無反応な姿ほど、腹立たしいものはないのだ。
セレスティアは、小さく一礼した。
自らの肉体の秘密(子をなせないのは事実なので、全てを公にした訳でなくとも、そう表現して構わないだろう)を明かした以上、この場にいる意味は失われた。
よって、退出の許可を得ようとしたのだ。
しかし……。
「はばかりながら、セレスティア殿下におかれまして、容易に御子が望めぬであろうとの御懸念、すでに承知済みにございます」
サナレーン侯爵は、静かにそう告げる。
これがまた、セレスティアの告げた「石女」なる断定の言葉を避け、「子供を産むのが容易でない」と、より柔らかな表現にすり替える老獪さは、見事なものだろう。
「なっ……」
ただ、隣国の重鎮があっさり告げるには尋常でない大事であるため、誰もが言葉を失った。




