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国母セルア  作者: 小松しま
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 ……正直、これも意外と言えば意外だった。

 かの国の戦力は、ティアモラを大きく下回る。

 単純な国力の比較のみならず、軍備に投入している国費の割り合いが全く異なっているのだ。

 ティアモラでは、エテルティアが長らく腐心していたため、備えも万全。

 必然、イブリールは戦闘を回避するべく尽力すると踏んでいた。

 いずれ決戦の日の到来は、ティアモラの采配によるものと信じて疑っていなかったのだ。

 それがかなうだけの国力を、蓄えている自負がある。

 ある程度の流血は避けられまいが、遠くない未来、広き大地は正しい姿を取り戻すはずだったのだ。

 その布石として、エテルティアは歴史改竄の手を染めていた。

 ゼルフィードの死の混乱の隙をつき、反対勢力が動くのに先んじて、公式文書より、マヌエラ妃とセレスティアの名を削除したのだ。

 個別に記されているだろう日記や書簡等、宮廷人たちの記録全てを抹消するのは不可能だが、王家の系譜についてはより徹底して、完璧を期した。

 果たして、非公式の記録たちが、近く勃発するだろう戦火において、どれほどの被害を受け、焼失するか定かでないが、所詮は散逸の資料。国史との乖離はいずれ意味を失うはずである。

 気の長い話しだが、現時点でかなわなくとも、遠い時代まで神への冒涜が語り継がれる愚だけはどうにか避けられるだろう。

 そもそも、マヌエラ妃の存在自体が、忌まわしい。

 信仰の名門出とは言え、彼女はあくまでも平民に過ぎない。

 本来、王妃として迎えられるような身分ではなかった。

 けれど、巫女の生まれは、理不尽をまかり通らせてしまうのだ。

 それと言うのも、伝説の時代にティアモラを大陸屈指の強国に押し上げた「賢王バルモア」の前例に由来する。

 彼の業績は未だ高い評価を受けており、大陸中の国々が後に続いた政策姿勢など素晴らしいものだったのは事実ながら、「君主の理想」の誉ればかりが独り歩きして、問答無用で全ての行いが称えられるのを、エテルティアは実に苦々しく思う。

 王は、紛れもない名君だった。

 しかし、その妃が問題だ。

 よりにもよって、隣国出身の貧しい娘だったのだから。

 優れた巫女として周知の人物であり、王の補佐として傑出した存在だったのは確からしいが、あまりにも身分が不釣り合いだ。

 であっても、王妃としての公務のみならず、三人の王子に二人の王女、そして「かんなぎ」まで産み落とした手柄の前で、歴史ある名門貴族たちの理にかなった真っ当な意見は黙殺されたらしい。

 曰く、修行により聖職者となる神官たちと異なり、巫女は神の配材による存在であるため、人間の序列の範を凌駕する……と。

 正当な血筋を先祖より受け継ぎ続けた者からすれば、とんだ言いがかりだ。

 けれど、現在において、エテルティアの主張は完全に少数派だ。

 「賢王バルモア」の成婚以降、どの国においても、いかな生まれであっても巫女でさえあれば、高貴な家に嫁ぐのを歓迎されるようになって久しい。

 王妃となった者も多く、国によっては生粋の貴族から迎えられた数を上回るほどで、実に嘆かわしい限りだ。

 そのような悪しき前例がなければ、マヌエラ妃のような偽りの婚姻など、断じて果たされなかっただろうに……。

 しかし、それもまた、神の叡慮なのか?

「今は、違うのでしょうか?」

 ラーダの問いは、尤もなものだろう。

 わずかな沈黙を経て、エテルティアは首を振った。

「……わからぬ……」

 ここは、胸中にどのような悩みが渦巻いていても、否を告げるべきだと、彼女にも理解できている。

 けれど、ただ一人の腹心の前にあって、素直な思いが言葉になって唇から漏れ出た。

 神の本当の意志は、どこにあるのだろうか?


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