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国母セルア  作者: 小松しま
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「……何か言いたいことがあるようじゃな?」


 人払いをされたエテルティアの自室にて、部屋の主は腹心の騎士に尋ねる。

 座椅子に身を投げ出す王女は、立ったまま控える従者を頬杖の目で斜めに見上げた。

「いえ……。何も……」

 ラーダは、恭しく一礼した。

 本来、幾ら人払いをしたところで、王女ともなれば、密室における異性同席の場では、侍女なり女官なりを配するものだが、彼は特例とされる。

 ラーダが護衛であるから許される訳では断じてない。

 理由など言うまでもなかった。

 また、このところは「安全な」彼を随行させる機会が増えたため、女官や侍女たちが遠ざけられる傾向もある。

 ……実際、重要な懸案の取りまとめに、余人の介在は疎ましい限りだ。

 それに、どこから秘密が漏れるともわからない。

 女の口の軽さを重々理解しているエテルティアなので、一層ラーダを重用するに至っていた。

 ただ、特例には、皮肉な事実もある。

 王女の閨の客人となる者たちの全てが、彼の立ち会いの元で、「ことに及んでいる」のだ。

 特殊な香を焚いての秘め事。

 予め、その作用を増幅させる薬酒を含ませた上での計らいであっても、エテルティアは決して相手に気を許さず、どこまでも警戒を忘れなかった。

 我が身を与えるのは、断じて無条件の信頼の証ではないのだ。

 無論、ラーダもこれ見よがしに控えるのではなく、天蓋に身を潜めているため、気付いていない当事者さえいる。

「御立派な采配と存じます」

 ラーダが更にそう告げれば、エテルティアは皮肉げに微笑した。

「厚顔無恥と……言われているような気がするのは、……即ち、自らの行いに言い訳がましい思いがあるからなのかもしれぬな……」

 静かに、しかし、明かな自嘲を込めて零す。

 エテルティアはもう一度息を吐いて、そして瞬いた。

 確かにその通りだろう。

 これまでなして来た全ての工作の真実を弁えていれば、言い訳さえ虚しい。

 それでも、エテルティアに後悔はなかった。

「だが、わたくしは、自らの言動を恥じてはおらぬ」

 きっぱりと言い切る。

 彼女には、強い自負があった。


「必要だったから」。

「唯一かなう手段だったから」。

「それを自分が果たし得る状況にあったから」。


 ……だからこそ、エテルティアは行動を起こした。

 それすらもまた、神の叡慮のはずだ。

 正攻法云々と、手段を選んでいられるような悠長な状況では断じてなかった。

 今も、それを間違っていたとは思えない。

 そうしていなかったら、自らの意志を踏みにじられ、母の道具に成り果てていただろう。

 レスニア妃にとって都合の良い采配で、好きに扱われていたに違いなかった。

「ただ……神の過ちは、人が正さなければならぬのだと……ずっと、思うておったが……」

 神の過ち。

 即ち、バルモア三世に、後日、真実結ばれるはずの伴侶・レスニアがいながら、王妃の地位を希求する巫女風情のマヌエラとの結婚を、ローディアナ神殿を経由する形であっても、結果的に許した事実だ。

 真実の叡慮が働いていたのなら、その最初の婚姻そのものが果たされなかったはずである。

 いかに、実娘を王妃にし、孫を次代の王へと熱望した(無論、レスニア一派の勝手な決め付けだが)ゼルフィード大神官の思惑があったとしても、森羅万象を司る神ならば、容易に妨害できたはずだ。

 それをせず、看過した一点を、エテルティアは過ちと断言したのである。

 後、神殿は、あり得るべきでなかった詐意の婚姻に祝福してしまった事実を認め、……それでも自らたちの失態としなかったのは小賢しい限りだが……偽りの王妃との離縁を許し、正当にて真実の王妃との再婚を祝福した。


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