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国母セルア  作者: 小松しま
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 隣国のイブリールは、建国よりまだ二百年を経ていない若い国だ。

 ティアモラが東西に分裂したのもほぼ同時期ながら、それぞれが選んだ姿勢は全く異なる。

 イブリールは新興国として立ち、ティアモラは過去の歴史の継承者たらんとしていた。

 そもそもイブリールは、かつて、大陸有数の大国だったラジアナ王国の後継者が絶えたため、小さな都市国家に過ぎなかったイブリンの王室が、所有していた継承権を用い、かの地の領土を傘下に加えて創設に至った帝国である。

 劇的な建国の際には、ローディアナ神よりの特使たる「かんなぎ」が降臨して、労を執ったとも伝えられている。

 その後、大陸の勢力地図は二度に渡る大戦によって大きく書き換えられており、ティアモラの周辺で諸国の統合や分裂が繰り返された中、イブリールはそこそこの中堅国家の地位を保っていた。

 東西ティアモラとの比率は、七対四程度のものだろうか?

 隣国と言っても、歴史の浅い規模の劣る地として、ティアモラの人々が無意識の侮りを持つ国だった。

 だが、新興国の常として、若々しい力に満ちており、列強の注目を浴びる「看過できない国」なのも周知である。

 そんな国の主が、なぜ、隣国の、うち捨てられた王女へ求婚などするものだろうか?

「はい。セレスティア内親王殿下を、我らが陛下の御正室にお迎えいたしたく、まかりこしました」

「正室……」

 サナレーン侯爵の言葉をまたも繰り返しながら、セレスティアは脳裏を探った。

 隣国イブリールのレスヴィック皇帝と言えば、まだ八才の幼い少年のはずだ。

 先の皇帝夫妻が若くして亡くなったために、唯一の忘れ形見として誕生直後に即位しており、つい先頃逝去した叔父の後見を受けていたと聞いている。

 もう一人伯母がいたはずだが、そちらも故人であり、先代のサナレーン侯爵へ降嫁したはずだ。

 つまり、このレオニードなる青年は、その内親王の息子にて、皇帝の従兄たる身なのである。

「ご存じでしょうが、我らが陛下はまだ御幼少の身。賢しさで知られた殿下に伴侶となって頂き、より良い未来のための道標をお務め頂きたいのでございます」

「……な……」

 つまりは、優れた統治を行っているセレスティアの実績を見込んでの、教育係りを兼ねた人選なのだろう。

 白羽の矢を、光栄と思うべきか否か、セレスティアは正直なところ、判断できない。

 普通に考えれば、王女として生まれた身が、隣国の君主より求婚されるなど最良の幸運だろうが、生憎セレスティアの境遇は、「普通」にほど遠い。

 どのような返答……いや、それ以前に相槌を打って良いのかすら判断できずに、セレスティアは玉座をあおいだ。

 父王は、ただただ戸惑うばかりの様子だが、王妃は不快げな様子を隠しもしない。

 彼女にとって、歓迎できかねる申し出であるらしい。

 セレスティアは苦笑を堪えた。

 良い感情を持っていない彼女への意趣返しになるならば少しは溜飲も下がるのだが、だからと言って短絡的に飛び付ける話しであるはずもない。


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