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「で、では……妃殿下が、正式な摂政に立たれると?」
幼君即位の際、最も近しい立場にある成人皇族・あるいは外戚が、その後見役をするのは定石だ。
実際、レスヴィックも、叔父に当たる大公が、死の直前まで精勤していた。
病没後は、相応となる目上の尊属がいなかったため、幼い皇帝の助け手となったのは先代宰相たる亡きスィーナー公爵だったが、ここでセルアがその役目を担うのにはばかりはないだろう。
何より、「確かに存在する皇帝」は、明確な旗印となる。
そして、実務に変更はなくとも、セルアは「皇太后」となり、より確固たる権力を有するのだ。
だが、セルアは首を振った。
「……わたくしが皇太后に即位して摂政を担う考えは、現時点においてありません。けれど、イブリールには、目に見える形の皇帝が必要なのです。ティアモラに対して公式な抗議をし、それが受け入れられない場合、勅命を以て、こちらから宣戦布告をしなければ、理屈が通じません」
全く、その通りではあった。
皇帝と前宰相の暗殺未遂と暗殺。
更に、皇妃の侍女に冤罪を強いた上で、大神官を葬った事実を、世間に広く流布してはじめて、イブリールの主張は正当な権利を持つ。
「非は、あくまでもティアモラにあるのです。受けて立つなどと言う消極的な姿勢でなく、イブリールの正義を大地に示さねば、列強の侮りを受け、各国の次なる標的にされるだけです」
「うっ……!」
これまた尤もだ。
唯々諾々と、理不尽なだけの戦いを強いられるような国家に、対等な主権は認められまい。
「急ぎ、イブリンに戻り、戴冠の告示を行います」
結論だ。
無論、セルアにとっては、無念極まりない。
この役目を果たすべきは、あくまでもレスヴィックのはずだった。
彼が偉大な皇帝として確固たる業績を築き上げた後、後継者たる息子へ全てを譲り渡す日の到来を、セルアはどれほど待ち望んでいただろう。
まさか、このような形で、彼から至尊の座を奪おうなど、考えもしなかった。
更に、重大な懸念がある。
「しかし、皇帝冠を、いかがなさいます?」
戴冠をしようにも、肝心の冠は、眠れる幻の皇帝の頭上にある。
今から急ごしらえで設えようにも、日程的に無理がありすぎた。
何より、イブリールの皇帝冠は、「黎明のかんなぎ」下賜の至宝である。
神の意志を宿す尊上の品。
その権威を以て、イブリールは帝国として確立したといっても過言でなかった。
「案じることはありません。……我が国には、もうお一つ……我らが神よりの拝領である冠があるではありませんか」
セルアはゆったりと微笑する。
途端、一同は絶句した。
確かに、存在する。
斎王冠だ。
伝説では、建国の際に降臨した「水晶の御使い」あるいは「黎明のかんなぎ」は、神よりの贈り物として、両手に二つの冠を抱いていたと言う。
一方のそれを用いて、初代斎王となった「かんなぎ」・イレーネの戴冠をレテオラにて手ずから行い、もう一方のそれを授けながら、後日のイブリンでの皇帝即位を命じたと伝わっていた。
「し、しかしっ……」
「あれはっ……「かんなぎ」さまが、斎王猊下となられる際の、象徴となるべきもの……」
「おのずと、役割に違いがあられましょうに」
「間に合わせの取り替えなど行っては……」
誰もが躊躇するのは無理もない




