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国母セルア  作者: 小松しま
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 皇太子誕生の喜びに沸き立つイブリールに、更なる朗報が響き渡った。

 何と、同日に、「かんなぎ」が降臨したのだ。

 イブリンの都。

 父母も知れぬ赤ん坊が、大聖堂の奥室にひそかに安置されていたとの報は、瞬く間に王城へと届けられた。

 これぞ神の祝福だと、国中が寿いだ。

 セルアは急ぎその赤ん坊を招き、皇子と共に育てると宣言する。

 黒髪の皇子とまるで対に作られたかの、白銀の髪の幼子は、怯えも知らず、すやすやと眠るばかりだ。

 愛する夫が横たわる聖櫃の傍らで、同じく眠りを貪る二人を両手で抱き、セルアは新たな覚悟を噛み締める。

(神よ……)

 遙かな天をあおいだ。

(この二人に……帝国を譲り渡す……。それが、あなたの御采配なのだと……わたくしは信じます……)

 「かんなぎ」の、まさかの降臨。

 類い希な瑞兆を前に、人々の心は皇帝不在の狼狽を捨て去ろうとしている。

(けれど、それは、わたくしの役割りではない)

 神の思いがけない叡慮は、恐らく、もう一人のレスヴィックである皇太子に、この「かんなぎ」を娶せる計らいにあるのだろう。

(陛下の御手が、担うべきもの……)

 セルアは、静かに、そう自らを戒めた。

(その日を迎えるために、わたくしは、わたくしにかなう全てを果たさなければ……)

 ティアモラに生きた遠い祖先たちが守り続けた神器の全てが、このイブリールに与する結果となったのにも、何か意味があるのかもしれない。

 もはや全ては動き出している。

 逡巡の暇すら惜しまれた。




 寸暇を惜しんでいるのは、逃亡の途にあるサナレーン侯爵一行も同様だった。

 彼らの場合は、捕縛がそのまま生命の危機、更には、国益を損なう重大な要因となるので、その緊迫度は一層大きい。

 夜明けを経て、速度を更に上げ、まともな休憩すら取らず、ひたすらに国境を目指す。


 別働隊たちが今どうしているか。

 ティアモラ王家の動向は。

 何より、イブリール本国からの指示は。


 ……いずれもが全く見えない中、彼らはただただ疾走するばかりだ。

 アレノーワの意識はすでにない。

 途中、昼食のために下馬した時、無理矢理叩き起こして、熱冷ましの丸薬と水を含ませたが、ようよう飲み下すと共に、彼女は再び失神した。

 限界に達しているのは、誰の目にも明らかだ。

 元よりの傷口のみならず、振動を最小限に抑えるために縛り付けられている各所の鬱血も痛ましい限りである。

 血が通わなくなっている指先の冷たさは、哀れ極まりなく、わずかな休憩時間を徹して、ファウラをはじめ、同行者たちが必死にさすって血の巡りを確保した。

 だが、いつまでも時を浪費はできず、頃合いを見て、再び一行は騎行する。



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