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国母セルア  作者: 小松しま
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「おおっ! 意識が戻られたようですぞ!」

 朦朧とした心地の中、声が響く。

 憔悴のアレノーワは、懸命に意識を取りまとめた。

(……わたくしは……一体?)

 激しい詰問と、容赦ない拷問に晒される彼女だ。

 もはや心身は限界に近付いており、遠からずこの世との別れがあるのかもしれないと、一種の諦観すら抱いていた。

 敬愛するゼルフィード大神官が、目の前で絶命した直後、待ちかねていたかのように現れた役人たちに拘束され、以降、取り調べと称する暴行が繰り返され続けたものだ。

 あれからどれほどの時が過ぎているのかすら、定かでない。

 ただ、彼らはアレノーワに対して、身に覚えのない自白を強要させようとしたが、それには屈していないはずだ。

(……大神官さま……)

 かの偉人を思うだけで、アレノーワは、たまらないつらさに苛まれる。

 悲劇の現場となったのは、救済小屋の一つとなった、小さな民家だった。

 多忙を極めるゼルフィードへ小休止を促すため、アレノーワが差し出した茶に、毒が仕込まれていたのである。

 それから先は、「真犯人」の思惑のままだった。

 役人たちは声高にアレノーワを罵り、何とか時間を稼いで、別の救済小屋に赴いているファウラたちを呼び寄せようとした人々を蹴散らして、捕縛の彼女をヴァストォール城へ引っ立てた次第だ。

 その後、恐らくサナレーン侯爵やファウラが抗議をしてくれていると思うが、アレノーワは解放されなかった。

「アレノーワ。気分はいかがですか?」

 覗き込む幾つかの顔の中に、サザルにいるはずの、そのファウラのものもある。

 何と、彼女は常ならば長く背を彩る見事な黒髪を一つに束ね、庶民の青年がまとうような身軽な装束でいた。

「……ファウラ……姫、さま……」

 高貴な姫君の前で横たわったままである不敬に気付いて身体を起こそうとしたアレノーワだが、ほんの少しの身じろぎで恐ろしい激痛が走り、硬直してしまう。

 改めて認識するが、全身のどこもかしこも熱く疼いていた。

「……あなたは、ティアモラの奸計に陥り、ゼルフィード大神官さまを暗殺した下手人に仕立て上げられ、取り調べを受けていたのです」

「……あ……は、はい……」

 アレノーワの覚醒に安堵を見せながらも、すぐさま冷静な表情に戻ったファウラがそう告げる。

 傍らに弟のサナレーン侯爵や、見覚えのある随行の騎士たちの姿に混じって、従姉のミアも姿もあった。

「……ミ、ア……姉さま……」

 ここがどこなのか、アレノーワはまだ把握できていないが、責め立てられたこの身体で長距離の移動などできるはずはないのだから、ヴァストォール城下に違いない。

 となると、面々は、サザルから馬車で半日離れたここまで出向いてくれたらしい。

「かわいそうにっ……アレノーワっ!」

 ミアは、両手で顔を覆った。

 ようやく周囲を見渡す余裕を得たアレノーワは、ここが全く見知らぬ場所であると確認する。

 粗末な馬小屋、だろうか?

 独特の匂いと気配が立ち込めている。

 その隅にある床に、かろうじて渡された板の上に、自らは寝かせられていた。

 そして、ミアを除く人々のほぼ全てが、本来の貴族や騎士に相応しからぬ身軽な装いでいるのに違和感を抱く。

「わたくし……は、一体……?」

 訳のわからないアレノーワに、サナレーン侯爵が状況を説明した。

 ティアモラ側は、サザルから急ぎ駆け付けた全権特使であるサナレーン侯爵の抗議も、更には巫女ファウラの苦言も一切取り合おうとしなかった。

 当然、皇妃セルアの要求など呑むはずもない。

 これ以上の交渉は無意味と判断したサナレーン侯爵は、イブリールからの返答を待つ間を惜しんで、独断でアレノーワを奪還したのだと言う。


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