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議場を後にしたセルアを戸口にて迎えたのは、女官長ともう一人の腹心の侍女、シノンだった。
セルアの、私室への移動の供をするために、女官長と共に控えていた彼女は、蒼白になっている。
慌ただしく出入りする重鎮やその配下たちから、事態を察したためである。
「ひ、姫さまっ」
姿を見せた主に、シノンは縋る目を向けた。
彼女とアレノーワ。
この二人のみが、未だセルアを姫と呼んでいる。
母子二代に渡る忠勤への感謝として与えた特権だ。
セルアもまた、かつてセレスティアだったころを忘れないため、また、敬愛する祖父への思慕を共に抱く二人を大切に思い、むしろそれを歓迎さえしていた。
セルアにとって、アレノーワもシノンも、実の姉同然の存在なのである。
「……もう、わかっているようですね……」
セルアが言外の肯定を告げた途端、シノンの瞳から涙が溢れ出た。
常日頃、冷静でいる女官長さえも、痛ましげに表情を歪める。
彼女からの無言のいたわりを受けて、セルアは小さく顎を引いた。
「何と……何と言うひどい! アレノーワが、大神官さまを害するはずなどありませんっ! どんな目に遭っているのか!」
シノンは両手で顔を覆って、泣きじゃくる。
「うっ……ううっ……。大神官さま……おいたわしいっ……」
「シノン……」
その場にうずくまる侍女に、セルアは唇を噛み締めた。
泣きたい気持ちは同じだ。
しかし、今はそのような余裕すらない。
女官長を含め、周囲の人々は、哀れみの眼差しを注ぐ。
わずか三人で、今は敵国となったティアモラからやって来た主従を、彼らは心から歓迎したものだ。
神の導きによる輿入れは、この上ない瑞兆。
実際、少年帝レスヴィックは、優しく賢しく美しい妃を得た後、自らの研鑽に一層励むようになり、セルアもまた、歴代の皇后たちを深く尊敬し、皇帝の伴侶として称賛に足る働きをこなしていた。
そして今、皇帝代行を立派に果たしている。
そのセルアを私的な部分で支えているのが、身内同然の侍女たちなのだ。
現状を思えば、同情する以外、術がない。
「アレノーワ……。あんまりです……。どうして、このような……」
シノンは、ティアモラに赴くのが自分でなかったのを、責めているようだ。
セルアにも気持ちはわかる。
「どうか、……姫さまっ。アレノーワを、お助けくださいませっ」
「案じられるな、シノン殿」
見かねた重鎮の一人が声をかけた。
「妃殿下は、我が国の威信をかけて、アレノーワ殿の奪還を命ぜられた。ティアモラにおいでの宰相閣下や、巫女君ファウラ姫さまも尽力くださっておいでのはずじゃ」
他の重鎮も続く。
「そうですとも」
女官長も口添えした。
誠実に皇妃へ仕える侍女たちを、この場の人々も好ましく思っているのである。
「……皆さま方……」
一介の侍女ためにこれほどの厚情を示されて、シノンが歓喜に心を震わせたその時、セルアがうずくまった。
「姫さまっ?」
即座に気を取り直したシノンは、大切な主の異変に竦み上がる。
セルアは、膨らんだ腹部を両手で抱えた。
そこは小刻みに震え、小さな光りがドレス越しに発せられている。
「……触れを、お出しなさい。……わたくしに、陣痛が訪れたと」
「なっ!」
「妃殿下!」
「姫さまっ!」
その場は騒然となった。




