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国母セルア  作者: 小松しま
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 毒薬の極秘流通ルートを明らかにしたこと。

 そして、下手人たちの家族が領主の館へ軟禁状態にあること。

 ……実際には、すでにその何人かは消息がつかめていない。

 恐らく、もはやこの世の者ではないのだろう。

 更に、王室より謝礼と思われる加俸があったこと。


 しかし、いずれにしたところで、捏造とサザル領主が言い張るのも無理はない。

 と言うか、彼の立場にあって、そう主張しない方があり得なかった。

「サザルには……我が国の、小麦を輸出していましたね」

 いきり立つ重臣たちを制するように、セルアが確認する。

「え、は、はい」

「確かに」

 その通りだった。

 ティアモラ自体が、あまり小麦の耕作に向いていない土地だった。

 一方、イブリールは元々農業国だったが、ここ百年の間に、「黎明のかんなぎ」の指導の賜物で改革が進められ、飛躍的に生産力を増していた。

 よって、一大産出国に成長し、周辺諸国の主食のかなりの割り合いを担うに至っている

 ティアモラ全般については五分の一。

 中でもサザルは三分の一以上を供給していた。

 それを取り引きの材料……つまりは、圧力をかける道具にするのは充分意味を持つ。

「それから……酪農用の様々も、毎年卸していたはず」

 セルアは更に告げる。

 重臣たちは、そちらにも即座に同意した。

 「黎明のかんなぎ」は、農家への指導で、一種のみの栽培に専念する一毛作を戒めていた。

 その道の専門家の育成が、作業効率の向上に役立つのは周知の事実だが、より以上に優先されるのは、民を飢えさせない備えの徹底だ。

 二毛作あるいは多毛作で時期をずらす別種を収穫するようにすれば、一方が不作となっても、残る作物までがそうなる可能性は低く、何とかそちらで生活が賄われる。

 そして、他の地方の作物との交換を頻繁に行う商業活動を奨励して、流通経路の確立を果たしたのだ。

 取り引きに付随する問題の多くが、そのころに解消されている。

 何と言っても度量衡の統一は大きい。

 イブリール国内で徹底されたそれに、他国が追随する形となって、広い地域で同一の物差しが用いられるようになったのだ。

 それまでは不均等で不平等な物々交換を余儀なくされていた人々に、共有できる価値観が生じた。

 これは、商業活動を活性化させる最大の起爆剤となったのだ。

 そして、いざ人や荷の往来が増えると、また新たな商売が生じる。

 更に、国際分業の意識の芽生えもだ。

 それぞれも土地に最も適した商業活動が賄われるに至り、農業大国たるイブリールの及ぶ勢力範囲は、 今、徐々に広がりつつある。

 結局、「食べ物を作る」に優る強さはないのだ。

 いざ、それの供給を切り札に出されれば、抗う手段は限られて来るだろう。

 また、「黎明のかんなぎ」は肉食を奨励したため、それまでの狩猟頼りから、畜産業に重きが置かれ、育成に関する技術も飛躍的に上がった。

 彼女の提案によって畜産及び酪農が盛んになり、農作物の栽培に不向きな土地での放牧が広がっている。

 イブリールは周辺諸国にも惜しみなくノウハウを伝えたものの、どうしたところで、土地ごとの特性はあり、むしろその違いを逆手に取った商業活動が活性化するようになったのだ。

 サザルは、自然環境の厳しい痩せた土地柄。

 岩場も多く、まともに耕作がかなわないため、イブリールより技術を学び、羊を生産させるようになっていた。

 ようやく軌道に乗って来たばかりで、牧草そのものと種、更には繁殖用の個体をサザルは例年購入している。

 ここでの援助及び取り引きの打ち切りは、凄まじい打撃となるだろう。

「……妃殿下……」

 一同は喉を慣らした。

 セルアが言外に告げた一切をあやまたずに受け取った誰もが、意見を呑み込む。

 今、イブリールがティアモラに対して輸出を停止させたら、こちら側とて無傷では済まないが、先方に一体どれほどの損害が出るか、想像もできなかった。

 凄まじい混乱が起こり、場合によってはティアモラの根本すら揺らぎかねない。

 これに乗じて周辺諸国が援助の名目で、新たな穀物輸出ルートを開拓する可能性も考えられなくないが、イブリールほどの余裕はどこにもありはしない。

 そうした前提があるからこその提案だった。

「……畏まりました……」

 誰もが絶句する中、サナレーン侯爵が一礼する。

「……その意向を以て、臣が交渉に赴きましょう」

「なっ!」

「宰相閣下直々に?」

「そのようなっ……」

 その場は騒然となったが、これ以上ない人選だ。

 臣下として最も地位の高い彼が直々に足を運ぶのは、イブリールの覚悟と姿勢をティアモラに見せ付けられる。

「……あなたに、交渉の全権を与えます」

 それを充分理解しているセルアは、腹心に対して、この上ない信頼の証を見せたのだった。


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