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国母セルア  作者: 小松しま
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「……何を恐れておいでです? わたくしは、神の恩寵を受けし者。……それは、こうした奇跡を体現できる身であらばこそ、なのですよ」

「!」

 この上ない説得力を持つ言葉だった。

 弾けたように目を見開いた重鎮たちは、一瞬を経て、その場にひざまずき、心からの恭順を示す。

 セルアは、一層気を引き締めた。

「……無論、お生まれになられるのが皇子だと、決して口外なされませんよう。常ならば、まだ明らかにはならないことですから」

 その通りだ。

 本来、赤ん坊は、その誕生の際、性別が判明するのだ。

 セルアのように、この世に現れるより先に、「神の祝福を受けし神聖な王女である」と認定を受けていた例など、そうそうあるものでない。

「ともあれ、直系の皇族が確かに存在する事実が、浮き足立つイブリールを一つにまとめる、何よりの力になるはずです」

「はっ……」

「おおせの通り!」

 全く以て、セルアの言う通りだった。

 生まれて来る赤ん坊が男女どちらであろうと、イブリール皇室の直系にて、最上の皇位継承権を持つ身であるのは間違いない。

 まして、その「母」が神の祝福の元に誕生した神聖なる皇妃とあっては、その立場に一層の重みが増すと言うものだろう。

 もし、皇女だったとしても、その姫に相応しい夫を宛えば良いだけだった。

 イブリールの法は、女児の皇位継承を認めていないが、継承権は保証されている。

 もし、直系に男児がいない場合、女児の息子、あるいは配偶者を皇帝に即位させる旨が定められていた。

 ともあれ、男女の別なく、たった一人でも直系が存在すれば、民は充分な安堵を得られるのである。

 セルアは、その核心をついたのだ。

 しかし、不安はある。

 神器を駆使するのに、逡巡の暇はなかった。

 直系にて最後の継承者として、その御業に縋りはしたが、……間違った行いでなかったのだろうか?

 無論、何を言っても今更である。

 もし、神の罰を受けるのだとしたら、罪を犯した我が身一つにそれを授かる覚悟を、セルアは抱き直した。

 忍び寄る心許なさを、決して表面には出さない。

 それでも、「読み取ってしまう者」はいるものだ。

「……ただ……」

 活路を得た重臣たちの表情に安堵が広がるが、その中でただ一人、サナレーン侯爵のみが懐疑的な様子を見せた。

「下世話な噂と言うものは、とかく出がちでございましょう。妃殿下に御子を設けるのが難しいのは、布告済みでありますがために周知の事実。時宜が時宜だけに、そうした朗報を受けて、忌まわしい推察を繰り広げる輩が現れない保証はございません」

 つまり、セルア自身の懐妊でなく、手を付けられた侍女なりが孕んでおり、それをセルアの子と公表したのではないか、

 あるいは、皇室の直系欲しさに、セルアが間男を招き、正当な血筋でない子を宿したのでないか、

 いっそ、そのどちらでもなく、素性も明かでない子供を調達して、皇太子に仕立て上げるのではないか、

 …………等々、幾らでも邪推ができる訳だ。

 サナレーン侯爵の憂慮は尤もだろう。

 それだけ事態は逼迫しているのだ。

「閣下!」

「何と言う、慮外を!」

 重臣たちは蒼白になった。

 あまりの侮辱である。

 しかし、セルアは全く動じない。

「いいえ。サナレーン侯爵閣下のおおせの通りです。……むしろ、そうした噂が出回らない可能性の方が低いでしょう」

 冷静な判断だ。

「妃殿下っ……」

「御身は、我らが陛下のお妃さまであられますぞ!」

「誉れ高き、神の祝福を受けし御方!」

「このような侮辱は、断じて許されません!」

 セルアはいきり立つ一同に、首を振る。

 気持ちは嬉しいが、神の権威のみで、邁進できるような問題でない。

 性的なことがらについて、自らに恥じる行為がないのは事実だが、万民に証明する術など、どこにあるだろう?

 結局、信頼されるか否か。

 日頃の行い以外、彼らに示せるものはない。

「申し上げましたでしょう? これより誕生なされます御身は、陛下御自身……。もうお一人の陛下であらせられます」

 クローンならば、それは当然だ。

「魂は、神が新たにお授けくださいますため、同一の存在とは言いがたいものの、肉体そのものは、陛下に瓜双つであらせられるはずです。不快な噂も、それによって、いずれ消え失せましょう」

 レスヴィックの血筋である事実は、すぐさま周知されると告げた訳である。

 ……ただ、セルアの子だと言う確証は得られるものでないため、外腹説は、生涯、皇子に付きまとうかもしれないが、それは達観する以外、術がないだろう。

 それでも、イブリール皇室の血筋であるのは、一目瞭然の事実として受け止められるに違いない。

「……お生まれになる皇子を、陛下の御快癒まで、時を稼ぐ求心力の象徴とし、その間、できる手立ての全てを講じなければなりません」

 下卑た噂話しなどに翻弄されている暇はないと、セルアは言外に告げた。

 実際、その通りである。

 しなければならない業務は山積していた。

 何より、国の最高権力者とその後見の暗殺未遂と暗殺は、許されざる憂慮だ。

 国辱を雪ぐためにも、解明・報復を行わなければならない。

 徹底捜査を命じられた一同は、すぐさま動き出したのだった。


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