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国母セルア  作者: 小松しま
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 重臣たちは喉を鳴らした。

 実際、その通りだった。

 また、跡取りのいない国がどうなるかなど、イブリール建国の際の一幕を思い出せば、容易に想像できる。

 そう……。

 イブリール帝国の礎となった国を治めていたラジアナ王家が断絶したのは、後継者無きまま、当時の王が崩御したからだった。

 それも、神の怒りを買った結果だと言う。

 あの時は、「黎明のかんなぎ」こと「水晶の御使い」の采配によって流血を免れたが、それでもラジアナと言う国の事実上の消滅は避けられなかった。

 約一世紀の時を経て、イリウス帝の御代に、その皇子の一人が空位となっていたラジアナ王室の後継役を担い、世襲の大公位の称号を受けて、今に至る家門の存続を果たしているものの、こちらにしたところで、一度は断絶の憂き目にあっているのだ。

 血脈によってイブリールがラジアナの継承権を有していたのは即ち、同門から新たなラジアナの施政主を生み出す資格があったことを意味する。

 よって、政情の落ち着きを待って、皇室は、本家とも言うべきラジアナ王室を大公家として復興させる配慮を示したのだ。

 これは、極めて稀な、温情とも言える采配だ。

 イブリン主導の国状にあって、ひどく心許ない思いをしていたラジアナ出の人々が、どれほど安堵を覚えたかなど、言及するまでもない。

 蛇足だが、その筆頭こそが、スィーナー公爵家である。

 無論、今度は、イブリール自体が消滅してもおかしくない。

 だが、その際に同様の厚情は求められるものでないだろう。

 それどころか、周辺諸国が鋭い牙や爪で利権の奪取を望み、その果ての争乱が起こるのは、必定である。

 その全てを回避する手段は、誰もが認める正当な嫡子が後継を担うのみ。

「……民を……諸国を、たばかるのですか?」

 サナレーン侯爵は、泣きそうな顔で問う。

 他の策を奏じられない彼の立場は複雑だ。

 安易かつ、重大な懸念である「問題の先送り」でしかないと理解しているからこそ、セルアの提案を受け入れられない。

 しかし……他に、どのような解決策があるのだろうか?

 仮にも、第二位の皇位継承権を持つため、サナレーン侯爵の懊悩は一層に深まる。

 そう……。

 代案はあるのだ。

 自身が、仮の皇太子として立てば良い。

 けれど、そうなると、また先行きが闇に覆われてしまう。

 神に対して生涯不妻帯を誓った身では、正当な嫡子など、設ける術もない。

 今更誓いを反故にする意志はなかった。

 できるとも思えない。

 神への宣誓だ。

 生半可な覚悟で奏じたものではなかった。

 それを違えでもすれば、存在の根元が揺らぎ、誰からの信頼も得られなくなってしまうのである。

 つまり、サナレーン侯爵が皇統を担ったところで、結局、一時的な救済措置にしかならない訳だ。

 無論、彼の姉が設けた甥……つまりは、自らの後継者に内定している人物を据えるのも可能だが、それでは完膚無き下克上になってしまい、国の内外を問わず、人々の心証を悪化させるだけだろう。

 誰もが納得など、するはずもない。

「偽りなど、どうしてこの場にて口に出せましょう」

 セルアは、一同を睥睨した。

「……わたくしは、神の祝福を受けて誕生せし者。……有史以前より、神器を賜り、継承し続けた一族、最後の末裔……」

 セルアは、ゆっくりと両手を開き、最後の神器である聖杯を彼らに示す。

「神器……?」

「あの……目映い輝きの?」

「突然現れた、陛下の柩や、……胸に輝く鏡、のようなものを……?」

 誰もがしどろもどろになるのは、当然だった。

 理解しがたい神秘に対し、畏敬を抱くと共に、躊躇を覚えて無理はない。


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