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案の定、レスニア妃の反対は凄まじかったが、さしたる支障もなく、セレスティアの婚姻は国の承認を得るに至った。
父王であるバルモア三世が、長女の請願を受け入れる形を取ったのだ。
長年に渡って強いて来た不遇への謝罪からなのは相違ない。
久方ぶりの対面で、亡き愛妃の面影を見出し、一層の哀れさを覚えたのだろう。
だが、充分な嫁入り支度を整えるには至らなかった。
それこそ、レスニア妃が許さなかったのだ。
彼女は、国の財の何一つ、「道に反した生まれた王女」に差し出す謂われはないと、強硬に主張した。
よって、持参金は皆無。
それどころか、かろうじて所持していた離宮や領地のロールウェルを没収され、王位継承権までも剥奪される次第となった。
だが、サナレーン侯爵は、むしろ事態の推移を歓迎する。
「神聖な内親王殿下を頂戴するのです。御身お一つにてお越し願えれば、これに優るものはございません」
こうした表現を用いて、彼は生国との絆が完璧に断ち切られる成り行きを、言祝ぎすらした。
ともあれ、いっそ異常ですらある輿入れなので、事前準備の必要は皆無。
嫁入り道具さえ持たないまま、セレスティアは帰国するサナレーン侯爵と共に、ティアモラを後にする次第となったのである。
そして、予想通り、セレスティアの有していたわずかばかりの財産のほぼ全てが、エテルティアへ引き継がれた。
ロールウェルの領民たちは涙ながらに引き留めてくれたが、王命が下った以上、何ができるはずもない。
領地を手放し、住む家をも失ったセレスティアは、サナレーン侯爵の逗留先であるイブリール大使邸へ移った。
その際、最後まで暇に否を訴えていた従者たちも同行したものの、さすがに高齢の乳母と下男を、未知の隣国へ連れて行くのははばかられ、母の実家へ、受け入れを依頼している。
侍女たちも、そちらへ出向くように説得しているが、二人は、断固として首を縦に振ろうとしない。
「姫さまのお身の周りのお世話を、他の者になど、託せません」
「どうか、わたくし共をお連れくださいませっ!」
姉とも慕う二人の必死の嘆願は嬉しいが、やはり、これ以上不遇に巻き込むのはセレスティアにとってもつらい限りなのだ。
だが、またも「気心の知れた近習は、金銀に優る宝にございましょう」と、サナレーン侯爵が快い口添えをした。
真理ではある。
本音では、やはり嬉しく思い、セレスティアは彼女たちの訴えを聞き入れた。
そして、主従一行が大使邸へ身を寄せた翌日には、国に残る乳母と下男を迎えるための客人が到来する。
特別な存在であると示すように、腰までの長い白髪を背に降ろす彼こそが、マヌエラ前妃の実父・ゼルフィード大神官だった。
ローディアナ神殿における聖職者の階級は、下層より、神官、神官長、大神官、そして大神官長の順のピラミッド構成となっている。
そして巫女が別枠で存在していた。
巫女は、志願による修行の果てに認定される神官たちと異なり、神の示唆によって拝命するものであるため、高位の聖職者として、「かんなぎ」に準じる扱いを受ける、大変尊重される存在だ。
いずれにせよ、神へ仕える存在は、国境を凌駕するもので、大神官ともなれば、大陸中にわずか十二人のみ選出される高位の聖職者だった。
それすら、定員を満たさない時代が大半である。
更にその頂点の大神官長は二百年弱前に誕生したイブリールの斎王と並ぶ存在とされており、任命されるのは稀だった。
ゼルフィードは、その座に、百四十年ぶりに就くだろう逸材と噂された傑物である。
しかし、実娘であるマヌエラ前妃の不遇な失脚によって身を慎み、周囲からの進言にも否を告げて、祈りの日々を過ごすに至っていた。
そして、神の教えを説く傍ら、哀れな孫へかなう限りの援助を……レスニア妃の許す範囲であったため、実にささやかながら……続けていたのである。
レスニア妃の意向によって、祖父と孫が顔を合わせるのを禁じられ、こうして嫁ぐ日を目前に、高齢を案じて国へ残して行く従者たちの引き渡しを名目に、王より特別な許可が降り、対面がかなったのである。




