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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
最終章 アリア ~僕と晴希の愛の軌跡~
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77話 僕の小さな太陽

 僕達が出会った、あの日から2年……僕の32回目、晴希の20回目の誕生日に結婚式は執り行われる事となった。


「直樹さん、いよいよ明日だね」

「ああ……楽しみだな」


 満面の笑みを浮かべた晴希が、僕の目を真っ直ぐと見つめて来た。その愛しさ溢れる澄んだ瞳を見ていると、僕の心は穏やかで温かな気持ちになった。


 ――いよいよ、明日は結婚式だ。


 結婚前夜……逸る気持ちを抑え、晴希と共に歩む幸せなバージンロードを想像しながら、僕は静かに眠りへと就いた。



 ― 結婚式当日 ―


 目を覚ました時から、得も言えぬ幸福感に包まれていた僕は、歯を磨いてもシャワーを浴びても覚める事は無く、まるで夢の中にいる様だった。


「おはよう、直樹さん。体調は大丈夫かな?」

「うん、大丈夫」


 晴希の笑顔は、僕を照らしてくれる小さな太陽……

 晴希がいるから、僕は笑顔でいられた……

 夜空に浮かぶ月の様に、穏やかな笑顔で……


 人は絶望に見舞われると生まれた意味を問い、幸福で満たされた時、生きてきた意味を悟るのだと言う。


「直樹さん、早くしないと遅れちゃうよ」

「うっ、うん。急いで支度するよ」


 僕は晴希と出会い、幸せにする為に今日まで生きてきたのだと実感していた。そして、これからもずっと変わらないのだろうと……


 玄関の扉を開けると空は晴天……雲一つ無い青い空だった。この幸せな時を噛み締めながら、僕達は式場までの歩みを進める。


「晴希……後悔とかしてないか?」

「ん? どうして?」


 何故、こんな答えが分かりきっている質問を僕はしてしまったのだろうか……惚気(のろけ)だったのか、ただ安心したかっただけなのか、質問した自分自身ですら、意図が分からなかった。


「いやぁ、マリッジブルーとか、あるのかなって思って……」


 咄嗟に思い付いた事を返すと、僕の目の前に立った晴希は、後ろで手を組みながら悪戯っぽく笑い……


「ふふっ……後悔してるよ。私のせいで、直樹さんの人生を縛っちゃったからね。直樹さんの方こそ、後悔してるんじゃないですか? こんな私と一緒になって……」


「そんな訳、無いだろ」


 ――そんな晴希の事を好きになったんだから……


「本当ですか? 浮気とかしても私、怒りませんよ」

「いや、浮気とかしないから……」


 晴希と一緒にいると、不思議と退屈しなかった。それは今までも、これからも……10年、20年と時が経とうが、変わらないだろう。



 ― ウェディング会場 ―


 僕達が選んだのは、大聖堂チャペルがある結婚式場だった。家から近かった事もあるが、晴希の希望したお城の様な式場のイメージにピッタリだったからだ。


 予定の時間より早めに到着した僕達が、スタッフ達に挨拶をしていると……


「おめでとう、ハル」

「おめっとさんな」


「あっ、桃香に陽菜。今日は来てくれてありがとうね」


 二人は同じ学校は通っていた晴希の友人で、今回は無理を言って受付をお願いしていた。僕が会うのは、これが初めてだったのだが……


「今日は朝早くから、ありがとうね。二人が受付を引き受けてくれたから助かったよ」


「かまへん、かまへん。他でも無い、ハルやんの結婚式やから」


「結婚式に、ご招待いただけただけで光栄です。これぐらいのお手伝いはさせて下さい」


 一方、新郎側からは……


「草原君、春日野さん、今日はおめでとう」

「二人の晴れ舞台を見るのが、今から楽しみだよ」


 なんと駆け付けてくれたのは、元テンダイと城崎だった。僕には中々、受付をお願い出来そうな人がおらず、二人に相談すると快く引き受けてくれたのだ。


「あっ……元テンダイだ。今日は、私達の為にありがとうございます」


「城崎さんも忙しいところ、すみません。助かります」


 僕達がペコりと頭を下げると、4人はスタッフに連れられ、受付席でレクチャーを受けていた。


「さて、僕達も準備しようか」

「うん」


 僕達は、別々の部屋に誘導されると着替えを済ませた。白いタキシードに、白薔薇のブートニア……桜を象ったピンのアクセントがお洒落で僕も気に入っていた。


 ――なんか、緊張して来たな……


 晴希を待つ間、どうにも落ち着かず、僕は立ったり座ったり、歩いたりをずっと繰り返していた。窓越しに中庭を覗くと、来賓者がチラホラとゲストハウスに入っていくのが見える。


 すると……


「新郎様、新婦様のご準備が出来ましたので、宜しければ、こちらのお部屋へどうぞ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


 スタッフの誘導で晴希のいる控え室へと向かう。何度も衣装合わせで目にしていたが、いざ対面となると、緊張で手が汗ばんでいるのが分かった。


「こちらです」


 扉が開いた瞬間だった……

 僕は目の前に広がる光景に……

 息を飲んだ。


 ――きっ、綺麗だ……


 身支度を終えた晴希は白く輝き、眩しくて、まるで……地上に舞い降りた天使の様であった。


「そのウェディングドレス……凄く似合ってるよ」

「ふふっ、そう言って貰えると嬉しいな」


 晴希が着ていたのは、オーソドックスなデザインながら華やかなドレスだった。大きな花をモチーフにしたフワッとした見た目とは、対照的に美しくも繊細で高級感のあるシルクの光沢は、見る人全てを魅了してやまないだろう。


 このドレスには、ちょっとしたドラマがあった。


 ドレス選びで迷走していた僕達は、衣装の参考になればと、晴希の両親の結婚写真を拝見していたのだが、そこで運命的な出会いを果たす事になる。


「晴希のお母さんのドレスが、こんな綺麗な状態で保管されてるなんて、夢にも思わなかったよな」


 晴希の実家の衣装部屋(ワードローブ)の一角にあった小さなショーウィンドウの中で……黒い布で覆われていたのが、このドレスだった。


「なんか娘の形見だからって、お祖父ちゃんが残しておいてくれてたみたいなの。凄く綺麗だし、サイズもぴったりだったから本当に良かったよ」


 母から娘へと受け継がれたドレス、晴希はこれも運命だと喜びを感じずにはいられなかった。きっと天国にいるお母さんやお祖父さんも喜んでいる事だろう。


 そんな幸せいっぱいムードの中で……運命の糸は、静かに(ほころ)んでゆくのだった。

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