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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
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65話 ブルージンジャー

和訳は『神社での過ち』

※今回は箸休め回なので、気楽に御覧ください。

「はぁ……まだ、会えないのか」


 チャラチャン……


 僕が退院してから一週間程が経過したが、依然として晴希との面会は叶わず、無事を祈っていると、一通のメールが届いた。



【緊急招集】


 メールは『中年童貞の集い(ファントムグリフ)』からの招集であった……恐らく、新年会だろう。


 晴希の入院中に参加するのは、あまりにも不謹慎なので、僕は断ろうとしたのだが……


【集合場所:三富神社の参道 ※祝賀会は延期】


 腰痛の悪化で安倍が欠席する事もあり、祝賀会は延期、毎年恒例の参拝だけ残りのメンバーで行う事となった。


 この辺りでは有名な神社であり、商売繁盛、金運向上、健康長寿のスポットである。


 この神社を参拝先に選ばれたのには、理由がある……祈願に恋愛成就が無いからだ。女は不要を理念に掲げている集団としては打ってつけの神社なのである。


 ――そうだ、参拝の時に晴希の御守りを買おう。


 僕は、そう心に決めるとすぐに出掛ける準備を始めた。



 ― 三富神社 ―


 少し早めに着いた事もあり、僕は先に御守りを買う事にした。正月シーズンもピークを過ぎていた事もあり、人出は疎ら僕が御守りを手に取り悩んでいた。


 ――うーん……どれが良いかな。


 授与所で御守りを探していた僕は、数ある中から、可愛らしいピンク御守りを購入した。


「草原君が御守りを買うなんて珍しいね」


 声を掛けて来たのはメンバーの一人、城崎だった。どうやら城崎も買い物をしていた様で巫女さんから紙袋を受け取ると、いつも通りの穏やかな口調で話し掛けて来た。


「あっ、明けましておめでとうございます。城崎さんも買い物ですか?」


「ふふふ……それは、秘密です」


 そう言いながら人差し指を立てると、城崎はどこかへと消えてしまった。その場に一人取り残された僕が、辺りを散策していると……


「あで、草原君。今日は早いだにね」


「あっ、太田さん。明けましておめでとうございます……それは、いったい何ですか?」


 話し掛けて来たのは、なんと太田であった。太田は参道の出店でグロテスクな茶色い物体を頬張っていた。


「これは、魚粉餅だによ。草原君も食べるだにか?」


「魚粉……餅?」


 太田の説明では、コレは究極の珍味らしい。


 きなこ餅の様に上からマブしてるのではなく、予め一緒に練り込む事で独特の食感と風味を餅の中へと閉じ込めた逸品なのだとか……


 かなりクセはあるが、一度、嵌まると抜け出せない旨味があり、近年、リピーターが増え続けているらしい。僕が、興味本位とばかりに、餅へと手を伸ばそうとすると……


「いっただき!! うわっ不味いでござる」


 なんと、茂みから現れた土井が、魚粉餅を奪ったのだ。僕が驚いて仰け反っていると……今度は目の前に黒い壁が現れた。


「テメェ、年明け早々から醜態を晒してんじゃねぇよ」


「さっ……佐武殿、すまん……でござる」


 僕の目の前に聳え立つ壁の正体は、佐武だった。その尖った角刈りと目で激しく睨み付けると、土井は小さく縮こまってしまう。


「どっ、土井君……きききっ君も、かなり大変だね」


 そんな土井に対して小声で呟いたのが『人見知童貞(シャイネスブルー) 水嶋』だった。


 小柄でやせ形……

 光る黒渕メガネ……


 物陰から、ひょっこりと顔を出す、存在感の薄いこの男は、まるで不気味な座敷童子の様であった。


「テメェ……どこから、ひょっこりしてやがんだよ」

 

「いひぃぃぃ……」


 佐武の脚の隙間から顔を覗かせていた水嶋は、その怒号に驚くと、彼方へと消えてしまう……どうやら、かなり臆病者の様だ。


 待ち合わせの時間になると……徐々に集まりを見せるメンバー達。水嶋以外のメンバーが集まったところで城崎が号令を掛ける。


「さあ、みんな揃った様ですし、初詣をしますか」

「城崎さん。まだ、水嶋さんが……」


「ぼぼぼっ……僕ならココにいるよ」


 突如、城崎の背後から現れた水嶋は、まるで亡霊の様に顔を出した。僕が驚きを隠せずにいると……


「テメェは、隠れてねぇで前に行きやがれ」

「いひぃぃひぃぃぃ……」


 佐武に首根っこを掴まれた水嶋は、まるで猫の様に扱われ、拝殿へと突き出される。すると、水嶋は目を泳がせながら激しく震え出し……


「あひゃ……あひゃ……あひゃひゃひゃ……」

「おっおい、大丈夫か?」


 何かを振り払う様に激しく腕を振り出した水嶋は止まらない……まるで取り憑かれたかの様に辺りを飛び回ると突然、俯きながら静止した。


 ゴニョゴニョ……


 何かを呟いた水嶋だったが、上手く聞き取れない。一同が恐る恐る近付いてみると……


「ヘイ! ヨー!! 皆サーーン。今日も、アゲアゲでシャイネーースか?」


「はいっ?」


 突如、人格が変わった様にラップ調で語り出した水嶋は止まらない。鈴緒でターザンを決めると狛犬の上でブレークダンスを始めた。


 これには、流石の神主も怒ってしまい……


「お前は、何しとるんじゃ。サッサと降りて来んかい」


「ヘイ! ヨー!! ノリの悪いGサン、ココは俺達の天下楽園ベイベー」


 神主の話すらまともに聞けない水嶋を、今にも殴りそうな佐武だったが……


「水嶋君にはトラウマがあって極度の緊張状態に陥ると、あの様に変貌してしまうんです。元に戻すには、意識を失わせるか、顔に水を掛ける必要があるのですが……」


「俺は世界を駆け巡る、アクティブ! ホッパー!! 縦横無尽の捕獲はNOイージーゲーム」


 そう言うと、水嶋はまるで獣の様に神社内を駆け回り出した。唖然呆然とするメンバー達……


「困りましたね。阿倍さんはいつもバナナを持参していたので簡単に捕えられましたが、今は持ち合わせがありません」


「猿かよ」


 どうにか水嶋の気を引く為に試行錯誤を繰り返すメンバーだったが、捕えるには至らず、内心諦め掛けていると……


「お神酒は、如何ですか?」


 神社の前で巫女姿の女性が、お神酒を配っていた。余程、喉が乾いていたのか、水嶋は近寄ると……


「動き疲れて、喉はカラカラ、お嬢ちゃん、その水、俺にもくれYO」


 すると水嶋はお盆の上に置かれたお神酒を両手に持ち、飲み干してしまったのだった。


「ふわぁ……なんか眠気が……ZZz……」


 水嶋の顔が見る見るうちに赤くなり、その後、地面に転がると幸せそうな顔をしながら寝てしまった。そんな水嶋を子猫の様に掴んだ佐武は……


「そう言えば、コイツ……下戸だったな」


「神主さんは怒らせてしまいましたが、実害もなくて良かったですよ」


 一時はどうなる事かと思われたが、水嶋の泥酔により、何とか事なきを得た。参拝だけ済ますと解散となったのだが、僕の胸に悲痛な想いがあった。


 ――来年こそは、晴希と一緒に……


 凍てつく冬の寒さを越え、新芽は地面から顔を出しスクスクと育つ。春の訪れ、また桜が満開に咲き誇る頃には、晴希と共にこの道を歩んで行けたらと、僕は強く願うのだった。

ご覧頂き有り難うございます。

第四章も、これで完結となりますが、如何だったでしょうか?


『第五章 セレナーデ 〜巡る季節と紡いだ絆〜』も引き続きお楽しみ下さい。


【ファントムグリフ 構成員紹介】

五十路童貞(ワイズマン)(リーダー)

情熱の童貞(マスターレッド) 安倍


四十路童貞(ハイマジシャン)

激情の童貞(バイオレンスブラック) 佐武

博愛の童貞(ピースホワイト) 城崎

大食漢の童貞(ハングリーイエロー) 太田

自然派童貞(ナチュラルブラウン) 土井

人見知童貞(シャイネスブルー) 水嶋


三十路童貞(ローマジシャン)

若葉の童貞(ピュアグリーン) 草原

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