61話 タッグロワイヤル
和訳『合同混戦』
ボックスに入った僕は、揺れていた……壇上で晴希との婚約を宣言するには、何としてでも勝たなければならなかったからだ。
だが卑怯な真似をして、勝利する事に躊躇いを感じていた僕が葛藤していると……
――えっ!?
「大変ながらくお待たせ致しました。これより、上位ランカー達によるサドンデスマッチを開始します」
それぞれの思いを胸に……
今、戦いの火蓋が切られた……
第一ステージは、制限時間内に数百はいるNPCの中から、プレイヤーを探し出して倒す事が条件となっており、上位二名が決勝戦へ進める模様だ。
― 始まりの丘 ―
不安はあったが、まず僕はスランとリオルドの待つ丘を目指した……これは、二人の共闘の意思を確かめる為だ。
僕の操るオキナの姿に気が付いた二人は、足早に駆け寄ると……
【ありがとう、オキナ】
【共に、ブロスを倒そう】
【…………】
バチバチ……
ブォーン……
すると二人は、あろう事かオキナへ向けてトラップを発射してきた……どうやら、これは罠だった様だ。
【悪く思わないでくれよ】
【ライバルは、少ない方が良いんでな】
【…………】
その場から動けなくなったオキナに、ひたすら攻撃を繰り出す二人だったが、これもゲーム内では戦略の1つ……恨む事など出来なかった。
最早、絶体絶命と言うタイミングで現れたのは、なんとテンダイの操る『白銀の剣士 バズラス』であった。
【呆気無い終わりだったね。せめて僕の手でトドメを刺してあげるよ】
どうやら三人は共謀者であり、僕を陥れる為に、この作戦は企てられていた様だ。そして、バズラスがトドメの一撃を叩き込んだ瞬間だった。
ドッゴーーン
【どう言う事だ、スラン、リオルド】
【分からないです。取り敢えず、アイテムで回復を……】
その場で突如、自爆したオキナ。状況を把握出来ず、3人が戸惑っていると……
スパッ……スパッ……シューン……
なんと爆風の中から現れたのは、最強の男……ブロスであった。ブロスは、スランとリオルドを瞬く間に切り刻むと、バズラスの下へと歩みを進めた。
【くっ……クソッ……】
反転して、その場から逃げ出したバズラスであったが……
ドスッ!!
今度は、前方からの槍撃によりバズラスが倒れた。目の前にいたのは先程、爆発したと思われたオキナ……つまり、僕であった。
突然の奇襲に、驚きを隠せなかったテンダイは暫し、固まっていたが……冷静になり、全てを理解すると苛立ちを隠せずにいた。
【何故、君達が組んでいるんだ……卑怯じゃないか】
【俺はただ機を伺ってただけだ、共謀なんてしてないぜ。それに、お前等なんか3人で組んでたじゃねぇか】
ブロスの反論に、テンダイ達はすっかり黙り込んでしまい、そのまま退場を余儀無くされた。僕がスラン達の誘いに乗らなかったのには理由があった。
― ゲーム開始の直前 ―
――あれっ、メッセージが来てる……晴希か?
思い悩んでいた僕の下に一通のメッセージが届いていた事に気付いた。受信日は昨日、送信元は……なんと、ブロスからであった。
【明日は、君と戦える事を楽しみにしているよ】
何でもブロスは金銭目的では無く、純粋に僕との対決を楽しみにイベントへ参加したらしい。戦いの邪魔をされたく無かったブロスのメッセージには、勧誘があっても乗らない様に書かれていた。
ずっと手合わせしてみたいと思っていた相手だけに、本当は正々堂々と勝負してみたかったが、僕は揺れていた……この闘いには、晴希の人生が掛かっていたからだ。
頭を悩ませていた僕だったが、メッセージの最後に書かれた一文を見て、決意を固める事となった。
【Game doesn’t lie(ゲームは嘘をつかない)】
これは、僕が初心者だった頃、幾度となく窮地を救ってくれた恩師『ロキ』の言葉だった。
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今、フィールドに残っているのは、僕とブロスのみ……勝負は既に決していたが、僕達のボルテージは更に上がって行った。
【オキナ君、そろそろ始めようか】
【はい。負けませんよ、ブロスさん】
向かい合った僕達は、己のプライドを賭けて勝負を仕掛けた。
キン……キンッ……
タタタッ……ビュオーン……
衝突する度に舞い散る火花……
受ける……避ける……
斬る……突き上げる……
激しい攻防の嵐……
その力は拮抗しており、互いに譲らない展開に会場のボルテージは更なる盛り上りを見せていた。ジリジリと体力と精神力を消耗した僕達は、ついに大勝負を打つ事にした。
【正直、ココまで出来るとは思ってなかったよ】
【やっぱり、ブロスさんの実力は本物ですね。でも負けませんよ】
『奥義 軋轢之槍撃』
『奥義 戦花之太刀』
交錯した剣と槍が、互いの急所へと叩き込まれると、僕達は同時に倒れた。
よもや相討ちかの様に見えたが……
【勝者、ブロス選手】
コンマ数秒……僅かにブロスの斬撃の方が早く決まっていた様だ。激闘を繰り広げた僕達がボックスの中から出てくると、進行役がブロスへとマイクを向け……
「ブロス選手、今のお気持ちを……」
「そんな事より何故、オキナ君がアイテムを使わなかったのかを先に聞きたい」
喜びのコメントが聞けるかと思いきや、ブロスが発したのは、僕に対する率直な疑問だった。
公式戦と同様に、今回のイベントでもアイテムを2個だけ所有する事が許されていたが、スラン達の撃破に全てのアイテムを使用してしまったブロスと違い、僕は回復アイテムを残していたからだ。
アイテムを使用すれば、楽に勝てていた展開だけに疑問を深めたブロスだったが、僕は……
「同じ条件で勝ちたいと思ったからです」
僕は対等な条件で戦う為に、わざとアイテムを使わなかった。正々堂々と闘って勝ちたかったからだ。
すると、ブロスは大笑いをしながら……
「あははは……それでこそ我が永遠のライバルだ。俺達の闘いはまだ、始まったばかり……今度はワールドゲームクラシックの決勝で勝負しような」
そう言い渡すと、ブロスはそのまま会場を後にしようとしたのだが、慌てた様で進行役の男が近付くと……
「ブロス選手、お待ち下さい。賞金100万円を賭けた決勝戦がまだ残ってますよ」
「僕は十分満足したし、眠いから棄権するよ。賞金は……オキナ君にでも、あげたら良いんじゃないですか、そんじゃ」
ブロスは、進行役の制止を振り切ると、そのまま会場を後にしてしまった。どうやら、本当に僕との勝負を楽しみに来ていただけの様だ。
――でもこれで、当初の目的を達成する事が出来る。
何とも歯切れの悪い展開だったが、無事にイベントで優勝する事が出来た僕が安心しきっていると……控室から誰かの怒鳴り声が聞こえて来た。




