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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
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53話 クルセイド

和訳『聖なる戦い』

「僕が負けたら、君達に二度と危害を加えないと約束しよう。その代わり、僕が勝ったら……」


「??」


「夏稀君の処女(ヴァージン)は、僕が貰い受けてあげるよ」


 不条理な賭けだが、冨幸は止まらない。政斗の懐に入り込むと、鋭く拳を打ち込んだ。


 ――絶対に、負けられん……


 政斗は、体で攻撃を受けながらも冨幸の体を掴むと、力任せに地面へと叩き付けた。凄まじい衝撃にも、冨幸は何事も無かったかの様に、高笑いしながら立ち上がると……


「あはは……そう来なくっちゃ。僕に逆らった事を死ぬ程、後悔させてやるよ」

 

 二人の戦いの火蓋が切って落とされた。交戦を始めてから数分……冨幸の動きに異変があった。


「ふははは……動きがキレが悪くなってるぞ。何処か怪我でもしたか……ん? ぐぅおおぉぉ……」


「!?」


 昨日のダメージが大きかったのか、動きの鈍っている冨幸を一方的に攻め続ける政斗だったが、冨幸の腕に触れた瞬間……突如、変な声を出して膝を付いてしまう……いったい、何があったのだろうか?


「あははは……君みたいな筋肉バカを相手に、真正面から向かう訳が無いだろう。どうだい、僕の雷神之篭手(ガントレット)の威力は……痺れるだろ?」


 冨幸が腕を捲ると、そこには黒いサポーターの様な物が巻かれており、小さな金属がドット柄の様に散りばめられていた。


 どうやら、この金属部分は帯電している様で、政斗は電撃の餌食になってしまった様だ。


「てっ……テメェ……」


「あれっ? まだ、平気なの? 護身用スタンガンの10倍は強力なはずなのに……ゴリラに、常識は通用しないみたいだね」


 立ち上がった政斗を見て称賛しつつも、冨幸は少し納得がいっていない様子だった。


「大丈夫か、政斗!!」


 慌てて駆け寄った夏稀だが、政斗は平気だと言わんばかりに腕を返すと……


「へへへ……これぐらいのハンデは、くれてやらんとな」


「あははは……強がりは勝ってから言えよ」


 再び相まみえる二人だったが、政斗の様子が可笑しかった。ダメージを受けた右腕が肩よりも上がらず、冨幸の攻撃を受け切れずにいたのだ。


 ――腕が痺れて、上がらねぇ……


「どうしたんだい? そんなにコイツを喰らうのが、そんなに恐いのか?」


「てっ……テメェ。だったら喰らえよ『真・鉄拳制裁(スチールクラッシャー)』……ぐぁあああ……」


 政斗は再び構えた右腕で、今度は胸部狙いで渾身の力で殴ったのだが、体に触れた瞬間……右腕を抑えながら崩れてしまった。


「あははは……バカな奴。誰が帯電してるのは腕だけなんて言ったんだよ。考え無しに襲ってくる君が悪いんだからな」


 なんと、冨幸はこのサポーターを腕だけでは無く、全身に着込んでいた。しかも、この電撃は衝撃に比例して大電力を発生させるらしく、政斗の渾身の一撃は、奇しくも致命のダメージへと変換されてしまった様だ。


「うぐぐぅ……」


 あまりにも凄まじい衝撃に、地面へと倒れ込んだ政斗は腕を抑えながら苦しんでいた。赤く腫れ上がった腕は1.5倍程に膨らんでおり電撃の恐ろしさを物語っていた。


「あははは……もう負けを認めなよ。降伏すれば、良い病院ぐらい紹介してやるからさ」


 甘い言葉で誘惑する冨幸だったが、政斗はそれでも食い下がらない。まるで餓狼の様に冨幸を睨みつけながら、歯をキシりと食い締めると……


「チッ……何だよその目付きは? 僕は好意で言ってあげてるのにさ」


 冨幸は冷たい目で見下すと、徐に政斗へと近付き、傷付いた右手を上から踏み付けた。


「ぐぁああ……」


「この卑怯者。こんなズルして勝って、お前は嬉しいのかよ」


 堪らず夏稀が、冨幸の胸ぐらを掴み問い掛けると、冨幸は不気味な笑みを浮かべながら顔を近付け……


「あははは……嬉しいね。僕は強がってる奴を一方的に痛ぶるのが、好きなんだよ。そんな事より、君は自分の心配をした方が良い。これから僕の16人目の奴隷(メイド)になるんだから……大和やれっ」


 ガシャ……


「なっ?」


 冨幸のニタッとした気持ち悪い笑顔に、夏稀が悪寒を感じていると……後ろからやって来た大和が夏稀な襟元を掴み、手摺に手錠で括り付けてしまった。


「テメェ……大和、何をふざけてやがる。政斗がヤバいだ、早く手錠を解きやがれ」


「男同士の戦いに、お前が首を突っ込まない様に首輪をしただけだ。分かったら、最期まで見届けろ……テメェの愛した男の闘いをな」


「…………」


 既に涙ぐんでいる夏稀を他所に、大和は凛とした表情をしながら、二人の戦いの行く末を見守っていた。


 倒れていた政斗がフラフラと立ち上がると、冨幸は両手を広げながら呆れた様な顔をしていた。


「懲りない奴だね。こんな男勝りな女の何処に魅力があるわけ?」


「……全部だ。お前にナツをやる訳には行かない」


 ピピピッ……


 すると、緊迫した空気を裂くように冨幸の腰からアラーム音の様な響いた。


「もう充電切れかよ。おい、トドメを刺すからスペアの電池と雷神之手甲(グローブ)を持ってこい」


 すると、冨幸の手下の一人が大きな箱を持って来た。中から出てきたのは長細い電池と金属が張り巡らされたボクシンググローブだった。


「コイツは強力だよ……スタンガンの100倍の威力があるからね。流石の君も一瞬で昇天出来るはずさ」


 最早、これは凶器……直撃を受ければ病院送りでは済まないだろう。


 それでも政斗は夏稀を想いながら……


「ナツは、絶対に渡さねぇ」


「あははは……だから、それは勝ってから言えよ。さよならだ、ゴリラ君」


「政斗ぉ……あっ!!」


 ドゴーン……バチバチ……


 二人が拳を合わせた瞬間……何かが爆発する様な音がした。拳の間にあったのは、なんとスマホ……ぶつかる瞬間に一か八かで夏稀が投げた物だった。


 (ひしゃ)げたスマホにより、電撃は政斗に届かず、グローブからは大量のスパークが弾けた。


「あだだだ……」


 大慌てでグローブを外した冨幸だったが、その腕は赤く爛れていた。鋭く目を尖らせながら政斗を睨み付けると……


「よくも僕の大事な右手を傷付けたな。お前ら、ボサッてしてないでサッサとコイツを始末しろよ」


 怒り狂った冨幸が、政斗へトドメを刺す様に、手下へと指示を出すと、数人の男達が政斗を取り囲んだ。


「あははは……悪あがきもここまでだよ。やっぱり最後に勝つのは、この僕……えっ?」


 ボゴッ……


「ぐぁああ」


 ドガッ……ドゴッ……ボゴッ……


「ぐおぉぉ」


 ドサッ……ドサッ……


「はっ?」


 すると、冨幸の手下達は次々に倒れて行く……想定外の事態に理解が追い付かない冨幸は、ポッカリと口を開けながら目を凝らすと、そこには……


「大和……どうして、お前がそっちに付いてんだよ」


 冨幸の手下を倒したのは、なんと大和だった。取り乱した冨幸が問い掛けると、大和は口角を引き上げながら思いも寄らない事を口にした。


「タイマンなんだろ? 俺は邪魔者を排除しただけだ。それよりお前は、自分の身を案じた方が良い……」


「チッ、減らず口を……ん?」


 すると、冨幸のすぐ後ろに大きな影が迫っていた。口角を上げた大和は……


「この世で、俺の次に怒らせちゃならん奴の逆鱗に触れちまったんだからな」

 

 冨幸が振り返ると、そこには政斗が構えていた。その冷徹な瞳は……冨幸を捉えて放さない。


「ちょ……ちょっと、待ってくれ。今の僕は、腕を怪我してるんだ。とても戦える状況じゃ……」


「歯を食い縛りな……極限・鉄拳制裁(フルメタルグレネード)


 ドゴーン


 政斗の渾身の一撃は、冨幸の左頬へとヒットし、数メートル先までその体を吹き飛ばした。


 ブオーン……ブオーン……


 決着がつくと、辺りにはバイクの唸り音が響き渡った。どうやら夏稀がコッソリ仲間へと連絡していたらしい。


 白目を剥きながら泡を吹いて倒れている冨幸を他所に夏稀達は夜の闇へと消えていった。

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