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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
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50話 レイチェイサー

和訳『希望の探索者』

 ― 自宅 ―


 ベッドの上に寝転びながら、僕は亜紀との会話を思い出していた。


『晴希ちゃんのご両親は事故で他界しているので、誓約書は保護者である晴希ちゃんの祖父が管理しているはずですよ』


 ・

 ・

 ・


 亜紀の説明により、現在の誓約書の持ち主が、晴希のお祖父さんだと知った僕は益々、混乱していた。


 もし誓約書を口実に、僕達を別れさせる様に仕向けたのならば……当然、その所有者であるお祖父さんも深く関わっているはずだからだ。


 これは、冨幸の陰謀なのか……

 傍また、お祖父さんとの共謀なのか……

 僕は、頭に手を当てながら苦悩していた。


 ――晴希と……話をしたい。


 真相は深い闇の中……

 僕は晴希に会って確かめたかった。


 晴希の、本当の気持ちを……



 ― 翌日 ―


『朝だよぉ! 朝だよぉ!! 直樹さん起きて〜』

「おはよう、ハルルンちゃん」


 今日もハルルン人形は、元気な声で僕を目覚めさせてくれる。今日は、バイトも休みだった事もあり、僕は晴希を探しに行く事にした。


 カラオケ、ファミレス、アーケード……


 晴希の行きそうな場所は、全部探したけど……どこにも、いなかった。


 ――晴希に……もう一度、会いたい。


 僕の悲痛な思いも虚しく、気付けば夕闇の中……辺りはスッカリ日が落ちていた。


 肩を落としながら、帰宅していると駅前の雑貨屋に背丈程の小さな『もみの木』があるのを見つけた。


 綺麗な装飾で飾られたクリスマスツリー


 町にはカップルが溢れ、賑わいを見せている……そう今日は、クリスマスイブだった。


「良かったら、これどうぞ」

「あっ、はい……ありがとうございます」


 駅前で手渡されたのは、ベルの形をした小さな色紙だった……どうやら、これに願い事を書いてツリーに括り付ける様だ。


 ――なんか、七夕みたいだな……


【晴希と会えます様に 草原 直樹】


 願い事を書き終えた僕が、もみの木へ色紙を括り付けていると……


 ビュゥー


 突然、吹いた風が木を揺らすと……

 一枚の色紙が僕の足下に落ちた。


 ――このままにしたら……ちょっと可哀想だよな。


 拾い上げた色紙を、再びモミの木へと括り付け様とした、瞬間だった……書かれていた文字を見て、僕は目を丸しながら驚いた。


【直樹さんに会いたい 春日野 晴希】


 同姓同名の可能性も無いわけでは無かったが、そこに書かれていたのは紛れも無く、晴希の文字だった。


「晴希は、まだ僕の事を……あっ!!」


 僕は拾い上げた色紙をポケットにしまうと、晴希への想いを胸に走り出した。


 ――晴希はきっと……あの場所にいるはずだ。



 ― パン屋 (ル・シエル) ―


 パン屋のあるビルへ到着すると案の定、非常階段の扉が開いていた。


 ――晴希……晴希……


 微かな望みを賭けて……

 逸る気持ちを抑えながら……

 僕は階段を駆け上がった。


 あと数段、屋上へと続く柵の前まで辿り着くと、僕は……戸惑っていた。


 ――いったい、何て声を掛ければ……


 不安はあった、何を話して良いかも正直、分からない……だけど晴希に会いたいと言う強い気持ちだけが、僕の体を突き動かしていた。


「あっ……あれっ?」


 晴希と一緒に花火を見た椅子……

 あの日、告白した手摺……

 そこに……晴希の姿は無かった。


 僕は唖然呆然としながら……

 暫くの間、その場で立ち尽くしていた。


 ――晴希の心には、もう僕は……


「えっぐっ……えっぐ……ううぅぅ……」


 僕が諦めて帰ろうとした時、啜り泣く小さな声が聞こえた。暗がりをジッーと凝らして見ると、屋上の隅の方で泣いている晴希を見つけた。


「晴希っ!!」


「!?」


 ずっと泣いていたのだろう……僕の声に反応にした晴希の目は、赤く腫れ上がっていた。


「どっ、どうして直樹さんがココに……」

「どうしても晴希と話がしたくて……」


 僕の出現に驚きを隠せなかった晴希は、少し戸惑っている様に見えた。そして、また辛そうな顔をしながら……


「わっ……私達は、もう恋人同士じゃ無いんだよ。はっ、早く帰ってくれないかな」


「…………」


 視線を横に反らしながら、素っ気無い言葉を返す晴希を……僕は、ただ真っ直ぐに見つめていた。


「本当の事を話してくれないか?」

「私、直樹さんに、嘘なんて……」


 言葉とは裏腹に、晴希の目には寂しさと切なさの入り混じっていた。そんな晴希を見て僕は、いても立ってもいられなくなり……


「だったらどうして、そんな辛そうな顔をするんだよ。どうして、そんな悲しそうに涙を流すんだよ」


「…………」


 晴希の目からは止めどなく涙が流れ、足下に小さなシミが出来ていた。


 そんな晴希を見て……

 僕もまた、涙を流していた。


「どうして、僕に会いたいなんて願い事を書くんだ……こんなの、おかしいだろ?」


 僕は、ポケットの中から黄色いベルの色紙を取り出すと……晴希に見せながら強く訴え掛けた。


「…………」


 それでも晴希は、何かを必死に堪える様に歯を食い縛ると、目を強く瞑りながら無言を貫いていたのだが……


「僕達の仲を引き裂こうとしているのは、冨幸じゃ無くて……晴希のお爺さんなんじゃないのか?」


「えっ? どうして直樹さんがその事を……あっ!!」


 晴希は一瞬驚いた顔をすると、反射的に出てしまった言葉にマズいと思ったのか、ハッとした表情で口を塞いでしまった。


 ――やっぱり、そうなのか。


 僕の睨んだ通り、この騒動にはどうやら晴希のお祖父さんも関わっているらしい。晴希に嫌われて振られたのでは無い事を知ると僕の中でやり直したいと思う気持ちが、より一層強くなった。


 ――もう迷わない。


「頼むよ。僕には晴希が必要なんだ。だから……」

「ダメ……お願いだから、それ以上は言わないで……」


 僕が自身の気持ちを言葉にしようとすると、晴希は遮る様にして、それを拒んだ。


「晴希……」


「ごめんね。聞いちゃったら、もう後戻り出来ないから……先に私の話を聞いて欲しいの」


 晴希の口から語られたのは、衝撃的な事実だった。



 ― 7年前(晴希 小学5年生) ―


 晴希の両親が亡くなった事で、慶恩寺家との政略結婚については一旦、白紙に戻されたらしい。


 それが、晴希の母の最後の望みだったから……


 ところが……


「晴希の結婚の取り交わしは、全て儂が責任を持って引き継ごう……白紙は無効じゃ」


 折角、白紙になった政略結婚を強引に押し進めて来たのは……なんと晴希のお祖父さんだったらしい。


「ふははは……逃しはせんぞ、晴希」


 ・

 ・

 ・


 これは晴希に取っても想定外の出来事で、まさに絶望の第二章の幕開けだったのかも知れない。


「つまり冨幸との結婚に賛同している晴希のお爺さんは当然、僕達の関係を良く思っていない……って事?」


「良く思われていないだけなら良いの、あの人の執着心は異常で、目を付けられたらきっと……」


 理由は分からないが、お祖父さんは異常なまでに慶恩寺へと固執しているらしい。何でも結婚の障害になる者に対しては徹底的に嫌がらせを繰り返し、二度と立ち直れない様にしてしまうんだとか……


「私が一人暮しを始めてからは、あの人の呪縛からも解放されたと思っていたのに、こっそり恋愛していれば、絶対バレないって思ってたのに……」


「…………」


 何でも晴希は、家の周りや学校付近には極力、僕を連れて行かない様に注意を払っていたらしい。


「でも無駄だった。あの人は、私の部屋に盗聴器を仕掛けていたの……全部、筒抜けだったんだよ」


 関係がバレてしまった今、僕を救うには、もう別れるしか無いと思い込んでいた晴希……どうやら、これは苦渋の選択だった様だ。


「そんな事……」


「直樹さんは知らないからだよ。あの人の恐ろしさを……」


 晴希は異常なまでに怯えている様だった……いったい過去に何があったのだろうか?


「もしターゲットにされたら、直樹さんも立花先生みたいに……ううぅぅ」


「立花先生?」


 そんな憶測飛び交う中で、晴希の口から語られたのは衝撃の事実だった。



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