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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
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49話 ロウオブライト

和訳『光の法則』

 ― 自宅 ―


 僕は家に帰ってからもずっと考えていた。

 晴希に振られた理由(ワケ)を……


『私と……別れて欲しいの』


 これが晴希の本心だと、どうしても思う事が出来ず、僕は去り際の悲しそうな顔を浮かべては悩んでいた。


 チャラチャラン……


 すると、スマホが沈黙を切り裂く様に突然、鳴った……確認すると夏稀からメールが届いていた。


【話したい事がある。すぐに公園まで来い】


 晴希に振られた夜……

 急な夏稀からの呼び出し……

 何か因果関係は、あるのだろうか?


 この突然の呼び出しに違和感があったが、僕は藁をもすがる思いで夏稀の下へと向かう事にした。



 ― 藤見が丘公園 ―


 僕が公園に着くと、ベンチで夏稀は項垂(うなだ)れていた。喧嘩でもしたのか……その頬は赤く腫れ上がり、手には包帯が巻かれている。


「その傷は……いったい何があったんだ。また、不良達に絡まれたのか?」


「アンタには関係無い。そんな事より、晴希が大変なんだ」


 眉を曲げながら必死に詰め寄ってくる夏稀は、何だか深刻そう顔をしていた。いったい晴希に何があったと言うのだろうか?


「晴希はまだ、アイツの呪縛から解放されていなかったんだ」


「??」


 焦っているのか、夏稀の話は全く的を得ておらず、僕は困惑を極めていた。一旦、夏稀を落ち着かせてから、順を追って話を聞くと……


「ナツの転校も、亜紀さんの異動も、全部アイツのせいだったなんて……」


「最低な奴だよ。今日だって俺はアイツに……いや、何でも無い」


「?」


 頑なに言葉にする事を拒む夏稀だが、その反応から冨幸によって傷付けられたのは、容易に想像ついた。


 ――あんなに強かった夏稀が、ここまで傷付けられるなんて……


「ナツ……僕の方からも、ちょっと良いかな?」

「??」


 僕は夏稀に、ありのままを話す事にした。


 突然、晴希から呼び出され、振られた事……

 晴希は何か思い詰めた様子だった事……

 去り際の悲しそうな顔……


「なっ!? アンタはそれで……はい、そうですかって聞き入れたのかよ」


「勿論、食い下がったさ。だけど、もう僕には関わりたく無いって……今でも晴希の言葉が信じられなくて……」


 ポタっ……ポタっ……

 

 その場で涙を溢す僕の姿を見て、夏稀は確信していた。これも、きっとアイツの仕業だと……


 冨幸へ対して、強い怒りを燃やす夏稀だったが、この時は考えもしていなかった。僕達の関係を脅かそうとしていたのは、冨幸だけでは無かった事を……



 ― 自宅 ―


 夏稀との会話を終え、家に引き返した僕は、別れ際の夏稀の言葉を思い出していた。


『ハルが草原さんの事を本気で嫌いになる訳が無いだろ。俺、説得してくるから……可能な限り繋ぎ止めてくれよ』


 ・

 ・

 ・


 言われるがままに、電話やメールで晴希説得を試みたが、全く反応は無かった。どうやら晴希は、自主的に拒否設定にしている様だった。


 オンラインゲームのメッセージ機能ならと、微かな望みを胸にパソコンを開いて見るが……晴希のログイン履歴は、3ヶ月前から止まったままだ。


 バシッ


「もう、どうしたら良いんだよ」


 何も出来ない事に苛立ち、僕がちゃぶ台を思い切り叩くと、掌が痛んだ。ジンジンとした手を握り締め、冷静さを取り戻した僕はもう一度、パソコンに向き合うと……


 ――もう見て貰えないかも、知れないけど……


 僕は、ゲームのメッセージ機能を使い、晴希への思いを書き記した。



 ― 翌日 ―


 夕方になり、僕はバイトへと向かった。晴希と一緒のシフトと言う事もあり、その足取りは重く……まるで鉛の服でも来ているかの様だった。


「えっ? 晴希、休みなんですか?」


 スーパーに着くと、バイトのおばさんから晴希が休みになった事を聞いた。どうやら体調不良を理由に休んでいる様だが……この日を境に晴希が、バイトへ来る事は無くなった。


 帰り道……スッカリ鬱ぎ込んでしまった僕が、公園の前を通ると、そこに見覚えのある姿を見つけた。


 ――あれは……亜紀さんだ。


 亜紀は一人、ブランコ座りながら夜空を見上げていた。そんな亜紀の横へ並ぶ様にして、僕もブランコに座ると……


「あれっ……直樹さん?」

「お久し振り、亜紀さん」


 僕に気が付いた亜紀は一瞬、目を丸くして驚くと、いつもの笑顔で返してくれた。


 優しい月明かりの様な……

 亜紀の笑顔は……

 不思議と僕を癒やしてくれた。


 きっと亜紀に晴希の事を相談するのは、筋違いだろう。だが一人で抱え込む事に、限界を感じていた僕は……思い切って相談してみる事にした。


「…………」


「ごめん。やっぱり、今のは聞かなかった事に……」


 困った顔をしている亜紀を見て、相談を取り止め様とした僕だったが、亜紀はその重くなった口を開くと……


「私、その誓約書の行方なら知っていますよ」

「えっ?」


 晴希達の担任だった事もあり、誓約書の存在を亜紀は知っていた。亜紀も誓約を解消させようと、論争を繰り返した様だが、家庭の事情もあり結局、説得する事は出来なかったらしい。


 そして、煙たがれた亜紀は、学校側の命令で、異動を余儀なくされてしまった様だ。


「晴希ちゃんの誓約書は……」

「えっ? それじゃ……」


 どうやら誓約書は、僕達が全く予想だにしなかった場所に保管されている様だ。



 ― 晴希の実家 ―


 暗い顔をしながら、実家へと帰省した晴希は、一番奥にある書斎へと足を進めた。そこには車椅子に乗った貫禄あるお爺さんが、晴希の帰りを心待ちにしている。


「…………」


「おかえり、晴希。儂の言い付けは、ちゃんと守ってくれたか?」


 ダンッ


 怒り心頭の晴希は、書斎の机に手を叩き付けると、お爺さんを激しく睨み付け、声を荒げた。


「アンタの言う通り、別れて来たわよ。これで直樹さんには手出ししないって、約束して」


「ああ……良いとも。お前が儂に従うのであれば、約束は守ろう」


 どうやら晴希が僕を振ったのは、このお爺さんの陰謀だった様だ。しかし何故、そんな事をさせたのだろうか?


「衰退する春日野家を恢復(かいふく)させるには最早、慶恩寺と繋がる他ない。ロクな義息子(むすこ)では無かったが、最期に良い仕事をしてくれたよ。こうして孫娘と慶恩寺を結んでくれるのだから……」


 どうやら、晴希のお祖父さんは家柄や格式を守る為に晴希を慶恩寺へと嫁がせる気でいるらしい。


 ――この人に、私の気持ちなんて分かる訳が無い……


 そんな身勝手なお祖父さんの事を、晴希は嫌っていた。両親が亡くなり、保護者となってからもずっとだ……


「じゃあ、私は行くから……」


「晴希よ……お前は春日野家の人間だ。この誓約書がある限り、お前は決して逆らえない事を肝に銘じておくが良い」


「…………」


 タタタッ……バタン……


 晴希は突然走り出すと、扉を勢い良く閉めた。その目からは、ポロポロと涙が溢れ落ちていた。


 晴希だって本当は……

 僕と別れたく無かったのだから……


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