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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第一章 プレリュード 〜出会いは春風と共に〜
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 4話 モーニングロッキー

和訳『翌朝の後悔』

 チュンチュン……チチチチッ……


 小鳥の囀ずる声……

 暖かな陽射しに照らされて……

 僕は目を覚ました。


 ココは、自宅のベッドの上……

 体を起こすと、頭が酷く重かった。


 どうやら昨日の飲み過ぎが原因で、二日酔いになってしまったらしい。


 ボーっとしたまま、暫く天井を眺めていると……


「あっ!!」


 何かを思い出したかの様に飛び起きた僕は、慌てて辺りを見渡したのだが……そこに、あの女子高生の姿は無かった。


「ふぅ……」


 僕は肩を撫で下ろすと、ホッとした様に軽く息を吐いた。


 ――昨夜のやり取りは、全て『夢』だったんだ。


 モテない男の煩悩が生み出した欲望に満ちた夢……


「夢だったんなら、キスぐらいしても良かったのかもなぁ」


 僕が、そんな呑気な事を考えていると…… 


 トントントントン……

 ジャー……

 カシャラカシャ……


 キッチンの方から何やら音がして、食欲を(そそ)る様な良い匂いまでも漂っている。恐る恐るキッチンを覗いてみると、そこには昨日の女子高生『晴希』がなんと料理を作っていたのだ。


「美味しくなぁれ!美味しくなぁれ!!……ふふふっ」


 目の前に広がっていたのは……

 非日常的な光景……


 スッーー……ガタッ!!


 これはきっと何かの間違いなんだと、僕が現実から逃れる様に、襖を閉めようとすると……動揺して音を立ててしまった、。


 音に気付いた晴希は持っていた菜箸を置くと、満面の笑みで振り返りながら……


「あっ、直樹さん。おはようございます、すぐに朝食にしますからね」


「なななっ……なんでいるの!? それに朝食? 」


 ――何か、急に名前呼びにもなってるし……


 状況を飲み込めていなかった僕は、頭を抱え込みながら記憶の糸を辿るが、全く思い出す事が出来ない。すると、晴希は体をモジモジとさせながら、上目遣いで僕に近づき……


「何でって……昨日、あんなに愛し合ったじゃ無いですか私達。直樹さんったら私の事を押し倒してあんな事やこんな事まで……うふふっ」


「あっ……ああぁ…………」


 僕は言葉を失った。


 欲望のままに、この純粋な少女を汚し……

 その身体に一生、癒えない傷を……

 つけてしまったのだから……


 不安……後悔……絶望……深い罪悪感に(さいな)まれた僕は、まるで屍の様に青白く顔色を変貌させると……


「ごめん、晴希ちゃん。僕は、とんでもない過ちを……この罪は一生掛けて償うから、だから……」


 僕はその場で膝をつくと、床に頭を擦りつける様にして謝まった。本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。


 そして、そんな僕を見た晴希は……


「ふふふっ……冗談ですよ。昨日は直樹さんが寝ちゃったから、エッチな事は何もしてません」


「へっ? あっ……そうなの。てっきり酔った勢いで襲ったんじゃ無いかってヒヤヒヤしたよ」


 ――晴希との間には、何も無かったのか。


 その事実が分かっただけでも胸が空き、僕は肩の荷が降りた様にホッとしていたのだが……


「ベットへ移動させる時に、キスをせがまれたのには、流石に焦りましたけどね……えへへっ」


「そっ、そんな事をしていたのか。ごめん、かなり酔ってたから……」


 手を合わせながら謝る僕を見て、クスクスと笑っている晴希だったが、ふと何かを思い出すと今度は頬を赤らめながら、再び突拍子もない事を言い始めた。


「じゃあ、直樹さんも起きた事ですし、その……昨日の続きをやりますか。はいっ、私の乙女を奪って……」


「ダァー!! もうやめてくれー」


 夢じゃ無かったのは良かったけど……いや返って夢だった方が良かったのかは分からないけれど、この日から晴希との奇妙な関係が始まる事になった。


「付き合いたい気持ちを証明しろって言ったのは、直樹さんの方じゃないですか。どうして、そんなに拒むんですか?」


 どうしても僕と交際したかった晴希は『愛の証明』を途中で引き止められた事に納得がいかないらしく、顔を(しか)めながら迫ってきたのだが……


「えっ、あっ……だから、その……」

「もしかして私の事……嫌いですか?」


 先程までとは打って変わり、今度は不安そうな顔をしながら俯く晴希を見て……僕は内心、戸惑っていた。


 ――嫌いな訳が無い……


 だけど、相手は女子高生……


 すぐに帰せなければトラブルにもなり兼ねない状況で、このタイムロスは命取りでもあり、手をグッと握り締めながら、僕は再び説得を試みたのだが……

 

「好きとか嫌いとか、そう言うんじゃ無くってさ。その……晴希ちゃんがしようとしてる事は、結婚を前提としたカップルとかがやる事だよ。本気だって事は十分、分かったからさ」


「じゃあ、付き合ってくれるんですか?」


 必死の説得も虚しく、一向に折れる気配の無い晴希に……僕は内心、焦っていた。


「いや……その……僕なんかが彼氏じゃ格好つかないと思うけどな。晴希ちゃんの両親だって、きっと悲しむと思うよ」


 晴希の気持ちは嬉しかったが、僕もココで食い下がる訳にはいかなかった。何故なら認めてしまえば晴希と……現役の女子高生と交際をスタートする羽目になってしまうからだ。


 世間体もあり、それだけは絶対に避けなければならなかった。


 すると晴希は……


「両親は、私が小学生の時に亡くなったの。だから……全然、気にしなくても大丈夫ですよ」


 一瞬、悲しそうな顔した晴希だったが、両親の事を悟られたく無かったのか取り繕った様な笑顔で大丈夫だと返した。


 その作られた笑顔の先で晴希が何を思っていたのか、急に心配になった僕は再び頭を下げると……

 

「ごめんな。辛い過去を思い出させちゃったみたいで……でも晴希ちゃんには、もっと自分の体を大事にして欲しくてさ」


 晴希を心配するのには理由(わけ)があった。それは幼い頃に僕も交通事故で父を亡くしていたからだ。


 片親だけでも辛かったのに両親ともなると、絶望的だった事は容易に想像がつき、僕は晴希の事を放って置く事が出来なかった。


「晴希ちゃんは可愛いんだし、僕なんかよりも素敵な人が、きっと現れるから……だから……」


「ふふふっ……優しいんですね。私、直樹さんの事を益々、好きになっちゃいましたよ」


「だからぁ……」 


 素直に優しさを受け止める晴希と……

 踏み込む事を恐れ、受け入れられない僕……


 僕達の想いは平行線を辿り……

 すぐに、答えを導き出す事は出来なかった。

 

「あっ、そうだ!! 昨日、泊まらせて貰ったお礼に朝食を用意させて貰いました。良かったら冷めないうちに召し上がって下さい」


 すると晴希は笑顔でご飯を装い、手渡してくれた。早起きして朝食を用意してくれたのは、嬉しかったのだが……


「ありがとう、晴希ちゃん。だけど、これ以上ココに居られるとマズいんだ。僕も女子高生を連れ込ん出るなんてバレたら、近所で噂になっちゃうしさ」


「大丈夫です。直樹さんが食べる所を見届けたら、ちゃんと帰りますから……」


 結局、何の解決にも至らなかった訳だが、朝食を見届けたら帰えると言う晴希の言葉を信じ、僕は食事をする事にした。


 本日の献立は……

 綺麗に焼かれた『目玉焼き』

 味の良く染みた『大根の味噌汁』

 鮮やかな緑が際立つ『キャベツのソテー』


 オーソドックスだけど色合いも良く、栄養バランスも考えられた見事な朝食が並べられていた。こんなに美味しそうな朝食を食べるのは、いったい何年振りだろう。


「それじゃ、頂きま……ん?」


 僕が朝食を食べようと口を開けると、両手に顎を乗せた晴希がジーっと眺めていた。


 ――何か見られてると、食べづらいな……


 晴希の視線は気になったものの、食べ終わらなければ、この状況は何も変わらないと、僕は味噌汁の椀を手に取り、口へ運んだ。


 ――ん!?


 口に含むと広がる味の奥深さ……大根の茹で加減から塩加減、出汁の旨味に至るまで全てが絶妙で見事なハーモニーを奏でていた。


 まさに至高の逸品……晴希の料理の腕は、それ程までに洗練されていた。


「おっ、美味しい……こんな美味しい味噌汁は初めてだよ。晴希ちゃんは、料理が上手いんだね」


「ふふふっ……冷蔵庫の物を勝手に使わせて貰いましたけど、喜んでくれたなら良かったです」


 晴希の朝食は、お世辞抜きにしても本当に美味しかった。勿論、味噌汁だけじゃない……他のおかずも味付けや焼き加減はどれも絶妙で、ひょっとしたら実家で小料理屋を営んでいる母よりも、料理の腕が達つかも知れないと僕は舌鼓を打っていたのだが……


 ――このままじゃ、まずいよな……


 ふと現実に戻ると僕は非常にまずい状況に直面している事に気が付いてしまった。


 確かに食事が終われば、今日は帰ってくれるのかも知れない。でも、こんなにも好意を持たれていたら、いつ押し掛けられても可笑しくは無いのだ。


 根本的な解決を求め、悩んだ末に僕が導き出したのは、意外な打開策であった。

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