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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第三章 ノクターン 〜秋空に沈む太陽と昇る月〜
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40話 エディセミネイティング

和訳『恋の螺旋階段』

 ― 晴希の家 ―


 ピンポーン……


「はーい。今、行きまーす」


 チャイムを鳴らすとバタバタと廊下を走る音……扉が開くとそこには、可愛いウサギ柄のパジャマ姿を着た晴希が出て来た。


「あれっナツ? こんな時間にどうしたの?」


 平然を装っている晴希だが、酷い顔をしていた。目は泣きすぎて兎の様に赤く充血しており、あまり寝れていないのか下瞼には大きな隈も出来ていた。


 きっと僕の事で、相当苦しんでいたに違いないのだから……


「話がある……入って良いか?」

「それは、構わないけど……」


 夏稀は誤解を解く為にも、僕から聞いた事を包み隠さずに全て話してくれたらしい……それが一番、晴希にも分かって貰えると思ったからだ。


「じゃあ……直樹さんは無理矢理、襲おうとしていた訳じゃ」


「ああ……それは全部、晴希の勘違いだよ」


 真相を知った晴希はホッとした顔をしつつも、勘違いで僕に手を上げてしまった事を後悔していたらしい。


「私……カッとなって、直樹さんに酷い事をしちゃった」


「それは、別に良いんじゃ無いか? 身体には手を出していなかったけど、二股掛けてたのは事実だからな」


 初めは心配そうな顔をしていた晴希も、夏稀の言葉に元気を貰い、徐々に笑顔を取り戻して行った様だ。


「まあ、本人も反省しているみたいだし、俺が原因を作った様な物だから許してやって欲しい」


「分かった……でも直樹さんは、これからどうするつもりなんだろう」


「それは……」



 ― 30分前 ―


 スーパーの事務所で夏稀が僕へと問い掛けた。


「誤解を解けたとして結局、草原さんはどっちを選ぶんだ」


「僕は……まだ選べない。自分の心が良く分からブホォ……」


 あまりにも優柔不断な回答に怒りは頂点へと達した夏稀は、僕の頬を思いっ切り殴り飛ばした。


 そして、去り際に……


「一週間やるからよく考えてとけよ。次、また同じ事を言ったらその時は……覚悟しやがれ」


『…………』


 ・

 ・

 ・


「ったく、頭に来たからつい殴っちゃったよ。まあ、あの人の優柔不断さは今に始まった事じゃ無いしな。兎に角、一週間だけ待ってやって欲しい」


「うん……わかった。こんな遅い時間なのに、ありがとね。それと、ナツにお願いがあるんだけど……」


 夏稀の話を、真剣な眼差しで聞き入っていた晴希は、少しホッとした顔をしていた。



 ― 自宅 ―


 夏稀が定めた期限は、一週間……上手く説得出来るかは別として、僕は決めなければならなかった。


 晴希と亜紀……

 どちらを選ぶかを……


 世間体を考えるならやはり亜紀だろう。


 優しくて包容力もあり、年齢も近い……気も合うし、何より一緒にいて安心出来る理想の女性なのだから……


 ――だけど、僕には晴希がいる。


 勿論、晴希も素敵な子だ。可愛くて明るい……僕の太陽だ。あの眩しい笑顔に照らされると、自然と暖かな気持ちになれる。


 だけど晴希はまだ、女子高生……僕は、良くても周りからの目は気になってしまうだろう。


 僕が目を覆いながら、苦悩していると……


 チャラチャラン……


 突如、僕のスマホが鳴った。どうやら晴希からメッセージが送られて来た様だ。


晴希【夜分遅くにすみません】

晴希【今から少し、電話しても良いですか?】


 僕は少し戸惑いながらも、二股していた事に謝る為に晴希と電話をする事に決めた。


「もしもし、直樹さんですか? 昨日はその……理由も聞かずに、叩いたりしてすみませんでした」


 勘違いをして叩いた事を晴希が謝ると、僕は目を強く瞑りながら後悔した。


 ――先に謝らなければならないのは、僕の方なのに……


「僕の方こそ、その……ごめん。最低な奴だよな、本当に……」


 夏稀との買い物をデートと勘違いしてヤケになっていた僕は、結果として晴希を裏切って、お見合いへと踏み切ってしまった事を後悔していた。


 そんな僕の謝罪を聞いた晴希の反応は……

 とてめ意外な物だった……


「そんな事、無いよ。亜紀先生は憧れの先生だし、直樹さんが好きになっちゃうのも、分かる気がするから……」


 晴希の様子が何か可笑しい。


 いくら相手が憧れの女性だったとしても、好きな男性に二股を掛けられて、許す事など到底、出来無いからだ。


 だが晴希は、亜紀の事を否定するでも無ければ、僕の事を批難するでも無く……まるで二人の関係を肯定しているかの様に振る舞ってみせたのだ。


「ふふふっ……私なら大丈夫だから、例え直樹さんが亜紀先生の事を選んだとしても、きっと応援してあげられるから……私の事は気にせずに、ちゃんと好きな人を選んで欲しいの」


「晴希?」


 やはり、まだ怒っているのだろうか?

 それとも、これは諦めなのか?


 まるで自分の事など、どうでも良いと言った様子で話し掛けて来る晴希には、何とも言い表せない違和感があった。


 ――晴希の心には、もう……僕は映っていないんじゃないか?


 晴希の心はココに在らず、既に別の方へ向いてしまっているのでは無いかと、不安や悲しみに打ちひしがれた僕は……静かに肩を落とした。


「晴希の方こそ、他に好きな人とかいたら、僕の事は気にしないで良いからね」


 ――僕は……いったい何を言ってるんだ。


 動揺していたとはいえ、こんな事は絶対に口にしてはならなかった……晴希の心が益々、遠退いていってしまうからだ。


「うん、わかった。ありがとうね、直樹さん」


 電話を終えた僕は、ずっと後悔していた。何故、晴希の事を好きだと、言ってあげられなかったのかを……


「はぁ……」


 僕は己の不甲斐無さに悔いると共に、深い溜め息を吐いた。


 遠ざかる晴希への想い……

 襲い来る強い空虚感……


 このジレンマの中で僕の心は……

 激しく揺れ動いていた。

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