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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第二章 ラプソディ 〜炎夏に訪れる暴風雨〜
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26話 ツイストリング 

和訳『縒り合う絆の輪』

「お願いです……私の体は好きにして貰って構わないから、これ以上ナツと直樹さんを傷付けないで下さい」


「なっ? 何を言ってんだよ晴希」

「そんな事、させる訳ねぇだろ」


 晴希はどうやら僕達を守る為、犠牲になるつもりでいたらしい。そんな健気な姿を見て触発された僕達は、再び晴希の前に割って入ると両手を広げながら叫んだ。


「晴希は……僕が守る」

「ハルには、指一本触れさせねぇ」


 すると、バイクの群れを割る様にして、如何にも強そうな大柄な男が現れた。


「ふははは……良いねぇ()()


 高らかに笑う男の姿を見て、僕は顔を引き締め警戒してあたのだが、横にいる夏稀は違った……


「おっ、お前は……どうして、お前がココにいる」


 夏稀の顔からは一気に血の気が引き、瞬き一つせず、瞳孔は開いたままピクリとも動かない。ガタガタと震え出してしまった夏稀は、ブルブルと怯えるモルモットの様であった。


「まさか、お前が政斗の事を陥れたのか……答えろ、大和」


 目の前にいる『大和』は、無敵と謳われた政斗と、唯一渡り合う事が出来た猛者であり、『暴君獣(タイラント)』の通り名で呼ばれ、恐れられていた。


 その喧嘩の強さは、折り紙つきで逆らった者は瞬く間に動かぬ肉塊となったらしい。


「あはは……だったら、俺に逆らってみるか? そんな事よりツレの子、マジ可愛じゃん……こっち来なよ」


「きゃっ」

「バカっ、ハルに触れるんじゃねぇ」


 大和はその長い腕で晴希の手首を掴むと力任せに引き寄せたのだったが……再び、晴希に異変が起きてしまった。


 ――だっ……ダメ。私、意識が……


「ごめん……なさい……ごめん……なさい……ごめ……」


 以前、不良達に襲われた時と同じ様に、虚な目となった晴希は一点を見つめ続けながら、まるで取り憑かれたかの様にブツブツと謝り続けている。その様子は不気味で、寒気すら感じる程だった。


「何か気持ち悪い女だな。やっぱ、いらねぇわ」


 大和が手放したのを見計らって、夏稀が晴希を連れ戻すと肩を大きく揺さぶりながら……


「ハルしっかりしろ……ハル、返事をしてくれ」

「えっ?あっ……私、また……」


 夏稀の声掛けで正気に戻った晴希だったが、その顔は青白く見えた。


 ――晴希の身に、いったい何が起きたんだ?


「ナツ、晴希はいったい?」

「ハルは……病気なんだ」


「えっ?」


 僕が夏稀に問い掛けると、とんでもない事実が発覚した。何でも晴希の抱える病気は『男性嫌悪症(ミサンドリー)』 と呼ばれ、男性と接触する事でパニック障害を発症するらしい。


 小さい頃のトラウマが起因している様だが、今のところ明確な治療法などはなく、バイト中に手袋を付けていたのも、この症状を懸念しての事だった様だ。


「僕は、今までそんな事も知らずに……」

「そんな事を言ってる場合じゃないだろ。アンタは、晴希を逃がす事だけを考えてろ」


 病気の事も知らずに晴希と接触して来た事を悔やんでいると、夏稀が声を荒げながら叱咤(しった)してきた。


 僕が無言で頷く、夏稀が耳元で何かを囁いた……


「大和は俺が引き付けるから、アンタは隙を見て逃げてくれ……良い考えがあるんだ」


「いったい何をする気なんだよ?」


 すると夏稀は徐に服の中へと手を入れ、大和へと向かって行った。


「俺の親友に何してくれてんだよ」


 全力で殴りに掛かる夏稀だったが、大和はそのグローブの様な大きな手でいなすと、まるで子供でもあやす様に軽々と弾き飛ばした。


「くっ……」


「ふはははっ……鬼の副長もとんだ期待外れだったな」


 吹き飛んだ夏稀を見て、大声で笑いながら見下す大和だったが、夏稀は静かに立ち上がると着ていたシャツを一気に捲り上げた。


「てっ……テメェ、まさか……ぐはぁ」

「バーカ、余所見してるからだよ」


 油断したのか夏稀の『延髄切り』が炸裂すると、大和は前屈みに倒れてしまう。本来なら、一撃必殺の大技、立ち上がれる訳がなかったのだが……


「ふぅ……今のは、ちょっとヤバかったぜ」

「なっ!? 化物かよ」


 なんと大和は、立ち上がってしまった。これには、夏稀も目を見開き驚いていたのだが……


「俺は男同士、真剣勝負をしたかっただけなのに、こんな卑怯な手を使うとは興醒めだ。後は、リンチでも制裁でも、お前らの好きにすれば良い」


 大和が下がると同時に、数人の不良達が前に出ると夏稀を逃げられない様に囲んだ。


「良い気味だな、ナツさんよぉ」

「調子コいてるから、こうなんだぜ」

「今日こそ積年の恨み……晴らしてやる」


 不良達が一斉に殴り掛かろうとした時だった。一人のスケバン風の女が、夏稀を擁護する様に男達の前で手を広げ……


「もう止めなよ。今更、こんな事して何になるんだい。これ以上、痛ぶられるナツさんを見るの……アタイは嫌だよ」


 ザッザッザッ……


 そこには、目を疑う様な光景があった。


 スケバン女を皮切りに、不良の大半が夏稀を庇う様にして前に出ると……


「ナツさんがいたから、俺らはやってこれたんだ」

「ここで恩を返さずにいつ返すんだ」

「ナツさん抜けたのは寂しかったけど、俺らの中では、いつまでも憧れッスから」


「おっ……お前ら……」


 夏稀は腕で目を(ぬぐ)っていたが、滴り落ちる涙は止まらず、雨の様に地面へと落ちていった。


 普段から性格の厳しい夏稀は、確かに煙たがれる事が多かったのかも知れない……しかし、それは全て皆を思っての事。


 その筋の通った生き様に……

 頼もしさと、不器用な優しさに……

 みんな影では支えられていた。


 夏稀を庇っている不良達に、すっかり気を悪くした宍戸は倉庫から出てくるなり、大声で叫ぶ。


「テメェら何勝手な事をしてくれてんだ。今日は何の為に集まったと思ってんだ。夏稀君の卒業リンチパーティーだろ? 忘れたのかよ」


 不良達を煽る宍戸だったが……

 皆は口を揃えた様に言う……


「俺は、ナツさんにお礼を言う為に来たんだ」

「俺も、ナツさんに火の粉が降り掛るなら阻止しようと……」

「ナツさんは俺達の誇りだ。例え大和が相手でも俺達は屈しない」


 一致団結した不良達を見て、ついに我慢の限界を超えた宍戸は、その怒りをなんと大和へとぶつける。


「なあ大和さんよぉ、アンタはうちを乗っとる気で来たんだろ? この腑抜け共を野放したら名が(すた)りますぜ」


 両手を組みながら、傍観していた大和だったが、宍戸の話を聞くと、途端に呆れた様な顔となり……


「ああ、別に構わないぜ。俺は制裁なんてつまんねぇもんには興味はないし、今日も頼まれたから来ただけだからな」


「なっ……頼まれたって、いったい誰にですか?」

「ははは……俺に決まっているだろう」


 すると、暗がりから全身に包帯を纏ったミイラ男が現れた。

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