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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第二章 ラプソディ 〜炎夏に訪れる暴風雨〜
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19話 クラッシュオーバー

和訳『正面衝突』

 スマホを奪われてしまっている晴希と連絡を取る手段として、僕は電話番号を書いた紙を手渡すと、何故か晴希が頬を赤らめながら、照れているのに気付いた。


「私達……何か逢い引きしてるみたいで、ドキドキしますね」


「逢い引きっ!? まっ……まあ、夏稀の目もあるし、外ではあんまり使わない方が良いとは思うけど、緊急時にはココに連絡して」


 見付かったら何をされるか分からない以上、夏稀と和解するまでは連絡は控えた方が良いのかも知れない……晴希もそれは理解してくれた。


 パン屋出た後、僕達は夏稀に見つからない様に分かれて帰宅した。


 自宅に戻り、ベットで横たわっていると、さっき程までの夢の様な時間を思い出しては、僕はニヤけていた。


 一緒に見た花火……

 晴希の笑顔……

 二人で書き込んだ短冊板……


 この日、夢へ落ちてゆく僕の顔は穏やかだった。



 ― 翌朝 ―


 目を覚ました僕が誘われる様にパソコンを立ち上げると……なんとオンラインゲーム(モーニングローリー)が復活しているのに気が付いた。


「もっと早く復旧してくれてれば、晴希も僕もこんなに苦労せずに済んだのにな」


 そう愚痴を溢したが、内心は嬉しかった。これでゲーム内で晴希と連絡を取る事が出来るからだ。早速、メッセージボックスを開くと晴希からのメッセージが届いていた。


【おはよ直樹さん。ゲーム復旧してて良かったです。ただ少しまずい事になってて……】


【何かあったの?】


 話を伺うと昨夜、晴希がバイトを休んだ事を不信に思った夏稀が、どうやら探し回ってたらしい。晴希の家にも何度も来たようで近所の人の話だと、かなり怒っていた様だ。


【今日はシフト一緒だし、確かにまずいか】


 昨夜の事がバレれば、きっと僕はまた病院送りだろう。心配した晴希が、バイトを休む様に促して来たのだが……

 僕はこれ拒否した。


 夏稀と和解を考えているなら、遅かれ早かれ衝突は避けられないし、ココで避けてしまえば今後も逃げ腰になってしまうと思ったから……



 ― ミカゲマート ―


 バイト中も不安そうな目で見つめてくる晴希に、僕は大丈夫だと手振りをしながらアピールしていたが、内心……不安で仕方が無かった。


 バイトを終えると駐車場には腕を組みながら、仁王立ちで待ち構える夏稀がいた。晴希は説得すると言って、先に一人で出て行ってしまったが……


「昨日は、バイト休んでどこに行ってたんだよ」


「やっ……ヤダなぁ。具合が悪くなっちゃって家で寝てただけだよ」


「家の前で、俺があんなに叫んでたのにか? おい、さっさと出てこいよ。女に任せて自分は隠れてるつもりか?」


 適当な言い訳をしながら何とかやり過ごそうとする晴希だったが、夏稀は嘘を見破ると……怒りの矛先が僕へと向けられた。


 その眼光は鋭く、足を止めさせるには十分、脅威だったはずなのだが、今の僕の心を折るには至らなかった。それは、晴希への強い想いが突き動かしていたのかも知れない。


「だっ、駄目だよ直樹さん。今、出てきたら……」 


「ふん、手間取らせやがって……テメェは昨日、ハルと一緒にいたんだよな?」


 まさに、一触即発……


 怒りは頂点へと達した夏稀の眼光は更に鋭さを増し、まるで獣の様に僕を威嚇してきた。いつ飛び掛かって来ても可笑しくない緊迫した状況の中、僕は屈っする事も無く、真っ向から向かい合うと……


「ああ……僕が誘ったんだ。君が僕達の邪魔ばかりするから……」


 僕は嘘をついた……

 怒りの矛先を自分だけに向かせる為に……


 僕の思惑通り夏稀の怒りは僕にだけ注がれる事になった訳だが、ココから先が正念場だった。


「一度ならず二度までもハルに手を出しやがって……後悔しても遅ぇからな」


「いい加減にしてくれよ……僕達は真剣なんだ。晴希の事が本気で好きなんだよ。もう僕達の恋路を邪魔はしないでくれよ」


 真夏の熱帯夜に晴希への想いを乗せてぶつかり合う二人……ヒートアップしていく僕達を止めるのは最早、不可能であった。


「止めてよナツ……直樹さんもこれ以上煽っちゃ駄目だよ」


 仲裁に入る晴希の声は僕達には既に届いとおらず、益々エスカレートしてしまう。痺れを切らした夏稀が胸ぐらを掴み掛って来たが、僕は動じる事もなく強い眼差しを向けた。


「テメェ……」


 目の前にいるのは一度、病院送りにさせられた相手……本当は足も鋤くんでいたし、今すぐにでも逃げ出したかった。それでも立ち向かえたのは、他でもない晴希を想っての事だった。


「殴って気が済むなら、好きなだけ殴れよ。そんなんじゃ、僕の想いは変わらないって事を証明してやるよ」


「ハルの事を何も知らねぇ癖に、よくも抜け抜けと……テメェだけは許さねぇ。今度こそあの世に送ってやるよ」


「これ以上、争うのはやめてよ……ねぇ!!」


 殴り掛かろうとする夏稀の腕を必死で抑えていた晴希の目からは、涙が溢れ落ちていた。そんな晴希の泣き顔を目の当たりにして少し怯んだのか夏稀は振り上げた拳を下げると……


「チッ覚えてろよ……今の言葉、一生後悔させてやるからな」


 夏稀が腕を振り払うと、掴んでいた晴希はバランスを崩し倒れてしまった。そして、夏稀は近くにあった空き缶を思いっきり蹴飛ばすと、そのままバイクに乗って行ってしまった。


 宣戦布告……どうやら僕は、とんでもない奴を敵に回してしまったのかも知れない。


 そんな様子を心配そうな目で見つめてくた晴希に対して、僕は優しく頭を撫でると……


「ははは……約束破ってごめん。年甲斐もなくつい熱くなっちゃった。でも大丈夫、何があっても晴希の事は、僕が守るから……」


「……直樹さん」


 気が付くと僕は晴希の事を抱き締めていた。


 さっき程まで我慢していた恐怖が一気に襲い掛かって来たのか、その手は小刻みに震えている。


 きっと夏稀への恐怖へと打ち勝てたのは、晴希への絶対的な愛……僕の中では何よりも強く、心を突き動かす原動力となっていた。



 ― 数日後 ―


 あの日を境に夏稀が晴希の前に現れる事は無くなり、舎弟達も監視も無くなったのだが……そのあまりの静けさが逆に不気味であり……まるで嵐の前触れを予期していた。


 そして、晴希の夏休みが差し迫った頃……再び事件が起こったのである。



 ― ミカドマート ―


 僕が事務所へ着くと早速、呼び出しがあった。テンダイが申し訳無さそうな顔で迫ると……


「すまないね。草原君に折り入って、お願いがあるんだけど……」


「あっ、大丈夫ですよ。何ですか?」


 話を伺うと今日からまた新しいアルバイトが増えるらしい。晴希も慣れてきたので、教育係をお願い出来ないかとの事であった。


「全然、大丈夫ですよ」


 いつもの事だろうと、快く教育係を引き受けたしまったが、これがアルバイト始まって以来最大の落とし穴だった事を……僕は、まだ知る良しも無かった。


 引き継ぎを終えると、テンダイと共に新入アルバイターが入って来たのだが……その姿を見て、僕は後退りしながら驚愕していた。


「今日から一緒に働いて貰う事になった小湊(こみなと) 夏稀(なつき)さんだ。教育係の草原君も宜しく頼むよ」


「くくくっ……宜しくな。()()()()


 ――何で、夏稀がバイトに?


 波瀾の展開に僕は唖然となり、その只ならぬ雰囲気に不安と恐怖を感じずにはいられなかった。

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