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私の処女を奪って下さい  ~僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第一章 プレリュード 〜出会いは春風と共に〜
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第1話 チェリーボーイ

本編開始です。

第一章は引かれ合う二人を描いた章となります。

 目の前に突如、現れた白いワンピース姿の美少女は、サラサラとした長い髪の毛を靡かせながら近付いて来た。


 目の前で立ち止まると……


「良かったら私と……お付き合いして頂けないでしょうか?」


 突然の申し出に戸惑っていた直樹は、驚きのあまり……その場でただ俯いている事しか出来なかった。


 ゴクっ……


 鍔を飲み込み、恐る恐る顔を上げると……少女は直樹の答えを待つ様に、ただ真っ直ぐに見つめていた。


 その深く美しい碧色の瞳を見ていると、直樹の心はいつの間にか飲み込まれ……気付いた時には少女に見惚れていた。


「ぼっ……僕なんかで……本当に良いの?」


 傍から見たらあまりにも不自然な告白だったかも知れない……だが今宵、三十路を迎えたばかりの直樹は、この出会いが神様からの贈り物だったのだと疑いもせず、なんと受け入れてしまったのである。


 そんな直樹の前で少女は徐に瞳を閉じると……ぷるぷると震えながら何かを待っている様だった。


 ――まさか、これは……キス?

 

 生まれてこの方、誰とも付き合った事が無かった直樹に取って……これはまさに千載一遇チャンスだった。


 今を逃せば、キスなんて一生出来ないだろうと思い込んでいた直樹は、震える手を抑えながら優しく少女の体を抱き寄せたのだったが……


「?」


 ――意外とがっしりとした体?


 これは最早、着痩せのレベルでは無く、ズッシリと重みのある体はまるでゴムボールの様であり、突き出したお腹は直樹の腹部を激しく圧迫するのだった。


「何してやがる……離せ……離せよ。俺には男と抱き合う趣味はねぇ」


「!?」


 ――やはり何かが、おかしかった。


 可愛らしい少女が突然、中年オヤジの渋い声へと声色を変えると……世界が歪み出した。


 ボヤケてゆく視界……

 辺りに光が立ち込めると……

 急に世界が明るくなった。


 目が覚めると、そこは公園のベンチの上……なんと直樹は目の前にいた警察のおじさんの事を強く、抱き締めていたのであった。


「えっ? あの……どうして?」


「説明してやるから……まずは、この手をどけてくれんかのぉ」


 慌てて手を放した直樹は頭を何度も下げながら、平謝りした。辺りを見渡すと空はすっかり暗くなっており、時計の針は11時を指していた。


「全く、最近の若いのは……」


 このおじさん……どうやら酔い潰れていた直樹を気遣って起こしてくれた様だが、それにしては少し様子がおかしかった。


 その鋭く尖った眼差しは、心を抉る様にして直樹へと突き刺さり、さっきから無言でジーっと睨んでくる……いったい何があるのだろうか?


 そんな時、直樹に告げられたのは……衝撃の事実であった。


「実はそこの交差点で『引っ手繰り』があってのぉ。お前さんの脇腹にあるのが、被害者のバッグが似とるんだが……そりゃお前さんのかい?」


 慌て振り返ると、身に覚えの無いブランド物のバッグが直樹のすぐ横に置かれていた……当然、引っ手繰りなどに関与していない直樹は否定するのだったが、高圧的なおじさんに煽られると、激しく動揺し、視線を右へ左へとキョロキョロ動かした。


「あっ、いや……その……えっと……」


「ん? まさかお前が盗ったんじゃねぇよな? 取り敢えず、住所と名前……それから勤めてる会社なんかもを教えて貰おうか」


 寝起きと飲酒による激しい頭痛により、直樹の思考回路は完全にフリーズ状態……的確な言い訳が思い浮かばずにしどろもどろしていると、直樹の挙動を見て不審に思ったおじさんは……あろう事か()()()()を始めるのだった。


 三十路の誕生日に生まれて初めて味わう……最悪最低な体験。


 慣れないヤケ酒しながら人生のリスタートを決めた今日、この日……決して起こしてはなら無い、バットエピソードだった。


 直樹は青いヨレヨレのトレーナーの裾を握りしめながら、必死で説明した所、なんとか無実を理解して貰えたのだが……


 ――僕は警察に疑われた。


 ただそれだけで、直樹の心は激しくひび割れ、プライドはズタズタに切り裂かれた様な気分だった。


 すっかり意気消沈していた直樹だが、降り掛かる悲劇はこれだけではなかった。薄れゆく緊張感と共に襲い掛かる……激しい頭痛と吐き気。


 2軒……3軒とコンビニのトイレをハシゴしてゆくうちに味わう、深酒への後悔……


 ビュゥー


 4軒目のコンビニから出ると北西の方から風が吹いた……晩春にしては少し冷たいその風からはスゥーっと鼻を(くすぐ)る雨の匂いがした。



 宵時雨……


 ポツポツと落ちた雨粒が地面に斑模様を作り初めると直樹は絶望の二文字が頭を過った。


 未だ治まらない激しい吐き気……冷たい雨にまで晒されたのでは堪らないと家と帰る足を急がせた。


 直樹が口元を押さえながら、薄暗い路地へと差し掛かった、まさに時だった……


「うわぁ」

「きゃー」


 ドサッ……ドサッ……


 交差点で誰かとぶつかってしまった。


 尻餅をついた直樹のズボンは徐々に染みて、濡れた部分が濃い色へと変化してゆく……


「痛たた……」


「すみません。僕がぼーっとしてたから……お怪我は無いですか?」


「はぁはぁ……大丈夫です。私の方こそ、急いでてすみません。あれっ……どうして?」


 背中合わせで倒れていたので姿は見えなかったが、重り合った掌とその声から衝突したのは若い女性なのがわかった。


 直樹が女性の方へと振り返ろうとすると……


「あの女どこに行きやがった」


 遠方から激しく怒る男の声が聞こえた。


 女性はサッと物陰へ隠れると指差しをしながら直樹の方へと声を掛けて来た。


「あのぉ私……今、追われててその……そっちの道に行ったって言って貰えませんか?」


 事態を飲み込めないが、かなり焦っている様子の女性を見て、直樹は仕方無くら協力する事にしたのだが……


「!!」


 振り返ると直樹のすぐ後ろには赤と黄色……カラフルなスーツ姿を身に纏ったチンピラ男達が迫っていた。


 短髪のパンチパーマをした男達は、見つけた直樹に詰め寄ると……いきなり胸ぐらをグイっと掴み上げ、顔を近付けて来た。


「おい、そこのオヤジ。今、ここに女が逃げ込んできただろ? どっちに行ったか答えろ」


「……………」


 男達の表情には鬼気迫る物があり、あまりの気迫に目を合せる事すら出来無い。直樹は視線を横へと逸らす事で精一杯の抵抗をしていたのだが……


「テメェは何、知らばっくれてんだ。はよ言えや」



 明かに住む世界(ジャンル)の違う人間……その鋭い眼差しに晒されると直樹の額からは汗なのか、雨なのかも分からない程のみずが滴り落ちていた。


「…………」


 出来る事ならこんな奴らとは関わりたくない……今すぐにでも逃げ出したい。そんな状況だったのにも関わらず、ココに留まっていたのは追われてた若い女性を思っての事だった。


 直樹は欠片の勇気を振り絞り、震える指を抑えながら女性のいない方の道を指差した……これが今、出来る最高のパフォーマンスであった。


「テメェ本当だろうな? もし嘘だったら……ぶっ殺すからな」


 男達は目を尖らせながら掴んだ胸を更に引き上げると、恐ろしい重圧を掛けて来た。


 掴まれているトレーナーの襟がブチブチと切れそうな程、引き伸ばされると……直樹は無事に帰れる様に目を瞑りながら祈っていた。


 すると、直樹の体に……異変が起きた。


 目は虚ろ……青ざめてゆく顔には既に生気は通っておらず、口からはダラダラとだらし無くヨダレが滴り落ちてゆく……


 そして……


「おえぇぇ……うえぇぇ……おえぇ……」


 直樹は嘔吐した。


 泥酔による吐き気に加え、頸部圧迫(けいぶあっぱく)による締付け、男達が与える激しいプレッシャーに多大なストレスを感じていた直樹は耐え切れず……嘔吐してしまったのだ。


 目の前に広がる悲惨な光景に……

 今にも逃げ出したくなる様な悪臭に……


 男達は内心、焦っている様に見えた。


「うわっマジかよ。コイツ、いきなり吐きやがった……」


「おいおい、俺のスーツ新調したばっかなんだから、勘弁してくるよ……ほらっサッサと行くぞ」


 その場から逃げるように立ち去る男達を見て安心したのか、直樹はクタクタと力なく崩れ落ちた。


「はぁ……」


 男達の姿が見えなくなると隠れて様子を覗っていた女性は直樹の下へとスッと駆けて寄って来た。


「あのぅ……さっきは危ない所を助けて頂きありがとうございました……だっ大丈夫ですか?」


「大丈夫です。お見苦しい所をお見せして、すみま……へっ?」


 目と目が合った瞬間……

 直樹の世界は……

 時を止めた。


 整った紺色ブレザーに黒と紺のチェック柄のミニスカート、深紅のネクタイ……


 そこにいたのはなんと……

 『可愛らしい女子高生』だった。


 肩の丈まであるサラサラの黒いセミロングヘヤーは薄暗い外灯の中で雨露(あまつゆ)に濡れ優しく光を放ち、その白く透き通ったきめ肌は絹の様なしなやかさと繊細さが際立たせていた。


 吸い込まれそうな程に大きく……その美しい宝石の様な瞳に見つめられると直樹の胸は……嘗て無い程に高鳴っていた。


 ドックン……ドックン……


 胸を打つ度に加速する鼓動……訪れた落雷にも似た衝撃に息をするのも忘れる程、直樹は夢中になっていた。


 ――まさか……これが一目惚れなのだろうか?


 恋愛経験に乏しい直樹に取っては初めての感情……灼熱と化した想いは一気に燃え上がると心までも支配されてゆく様であった。


 ――思い切って、この女子高生へ声を掛けよう。


 直樹が決意した、まさにその時だった……


 ポツリ……


「うわっ……冷たっ」


 外灯の笠から落ちた雨粒が直樹の顔面へと直撃した。振り掛かった水を必死で払う直樹を見て、女子高生はクスクスと笑うと白いハンカチを手渡して来た。


「ふふふっ……良かったらこれ使って下さい」

「あっ……ありがとう」


 直樹は手渡されたハンカチで顔を拭き取ると次第に心が平常へと戻っていった。


 ――可愛いかも知れないけど……


 確かに可愛い……今まで出会って来たどの女性と比べても、目の前にいる少女は断トツで可愛いかった……だが相手は女子高生なのである。


 こんな未成年の子に手を出せば問題になる事は容易に想像がついた。冷静になって考えてみればこんな三十路の泥酔男など、きっと相手にもされないだろう。


 現実を見つめ直し、少しガッカリとしていた直樹は高鳴るこの気持ちも……きっとお酒のせいだったのだろうと自身に言い聞かせ、深い溜息を吐きながら静かに心を落ち着かせる事にした。


「あっ、そうだ」


 そんな直樹を他所に女子高生は何かを思い出した様に持っていたカバンの中を漁り出したのだった。

サブタイトル

『チェリーボーイ』


和訳は

『純真無垢』


初めて味わった職務質問の後に訪れた謎の女子高生との出会い。

二人の運命が今、動き出す。


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[良い点] 文体が美しい。プロローグが良かったです。 [気になる点] キャラクターバランス 情景描写は細かいが人物描写が不足気味 [一言] 総合評価 良 です。
[良い点] 一話を読ませて頂きました。 読みやすかったのです。
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