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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第一章 プレリュード 〜出会いは春風と共に〜
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13話 ガールズノーライフ

和訳『生涯童貞宣言』

※今回は箸休め回なので、気楽に御覧ください。

 昨夜、なかなか寝付けなかった事もあって、昼頃まで僕は、布団の中でグダグダとしていたのだが……


 チャラチャラン……


 スマホから着信音が響いた。

 恐らく、晴希からだろう。


 晴希への想いが膨らみ過ぎて、オーバーヒート気味だった僕は内容も確認せずに、そのまま寝てしまったのだが、夕方になっても鳴りやまないスマホに、違和感を感じた僕が恐る恐る手に取ると何通ものメールが届いていた。


 その内容とは……


【緊急招集】


 ― 紅樺(べにかば)駅 ―


 電車を降りた僕は猛スピードで駆けていた。額から流れる汗は宙へ舞い、夕焼け色が透けて綺麗に輝いている。それは、まるで弾ける琥珀の様でもあった。


 僕が向っていたのは……魔導集団『中年童貞の集い(ファントムグリフ)』のアジトだった。


 魔導集団と言っても、別に魔法を使える訳でも、手品が出来る訳でも無い。実際のところ中年童貞(マジシャン)達が集まり、和気藹々(わきあいあい)と愚痴を言い合うだけの飲みサークルだ。


 メンバーには、それぞれ戦隊ヒーローを彷彿とさせるようなコードネームがつけられており、一番若輩者(じゃくはいもの)の僕は、こう呼ばれていた……


若葉の童貞(ピュアグリーン) 草原』


 傍から見たら、かなり痛いネーミングだと思われるが、僕自身は案外と気に入っていた。


 この日は、僕の30歳の誕生日を記念してリーダーの安倍(あべ)自宅(アジト)へ招いてくれたのだが、メールを見逃していた事もあって集合時間を30分も遅れていた。


 ピーンポーン


「すみません、遅れてしまって……」

 

 アジトでは四十代童貞達(ハイマジシャンズ)が険しい面持ちで立ち並んでおり、僕の顔にも緊張が走った。


「おせぇぞ『ピュアグリーン 草原』主賓(しゅひん)が遅れるとは何事だ」


「いっ……」


 甲高い怒鳴り声と共に現れたのはリーダーの安倍だった。時間に遅れた事もあり、鬼の様な形相で睨みつけると、僕を激しく罵倒した……怒髪天を衝くとは、まさにこの事を言うのかも知れない。


 あまりにも突然の事に、スッカリ怖気づいてしまった僕は何とか安倍の理解を得ようと、勇気を振り絞りながら弁解を試みたのだったが……


「すみません。でも、メールを気付いたのが夕方で、どうしても間に合わなくて……」


「言い訳すんじゃねぇ。だいたいお前はなぁ……」


 苦し紛れに言い訳をした事で、逆に安倍の怒りを買い火に油を注いでしまった僕は、暫くの間、立ったまま説教されてしまった。


 確かにスマホを見ていなかった僕も悪いが、当日になって思い付きでイベントを企画する安倍にも、全く否がない訳では無い。


 

 ― 5分後 ―


 主賓にも関わらず、俯きながら涙を流している僕を見て、流石に言い過ぎたと感じたのか、頭を掻きながら笑い出した。


 リーダー『情熱の童貞(マスターレッド) 安部』


 メンバーの中では、最年長の五十代童貞(ワイズマン)であり、ねじり鉢巻に夕陽に照らされて赤銅に輝く、ピカッピカのスキンヘッドが特徴の小太りなおじさんだ。


 気さくで面倒見が良く、僕達に取っては親分みたいな存在だったが、怒りの沸点が低いのが玉に傷だった。


 その後、他のメンバー達に慰められ僕が落ち着きを取り戻すと、安部は気を取り直して皆に号令を掛ける……


「今日は我等が盟友(めいゆう)『ピュアグリーン 草原』が無事三十路(みそじ)を迎え……晴れて三十代童貞(ローマジシャン)となった」


 まるで演説でもする様に語り出した安倍だったが、数人のメンバーがウツらコクりしているのを見兼ねて早速、乾杯の音頭へと移行する事となった。


「もう良いや……お前ら全然、話聞いてねぇし、乾杯すんぞ。サッサと準備しやがれ」


 プシュ……

 コポッ……

 プショ……


 まだ、霜のついた缶ビールを片手に取ると一斉に立ち上がり、僕達はビールの蓋を開けた。


 そして……


「新たなるマジシャン誕生と更なる発展を祈り……ガールズノーライフ」


「ガールズノーライフ!!」


 これは、ファントムグリフでは恒例の乾杯の合言葉(じゅもん)で今宵、マジシャン入りを果たした僕を皆、温かく迎え入れてくれた。


「美味いだにぃ」

「最高でござるな」


 手に持ったビールを一気に飲み干すと瞳を閉じ、僕がその余韻に浸ってると次々とマジシャン達やって来て……


「ははは……ついに草原君も仲間入りてござるか」

「おおおっ……おめでとう草原君」

「阿倍さんの傲りだし、遠慮はいらんだにぃよ」


 かなりお酒も入っているからか彼等は上機嫌だった。首に腕を回したり肩に寄りかかったりと、いつもよりも手荒い歓迎を受ける僕だったが、その表情は明るかった。


「ありがとうございます。皆さんには本当に感謝しています」


 久し振りのご馳走を前に、楽しく飲んでいるメンバー達とは裏腹に、僕は複雑な想いを抱えていた。


 そう晴希の事だ……


 みんなを騙している罪悪感から中々お酒に手が伸びず、暗く(しな)びた様な顔で僕は静かに飲み食いしていた。



― 2時間経過 ―


 殆どのメンバー達は酒に飲まれ……

 スッカリと出来上がっていた。


 そして、気付けば妬みや恨みが入り交じる恒例の愚痴大会。お酒のペースもドンドン加速してゆき、宴は益々、エスカレートしてゆく……


「あの若僧め、惚気話ばっかりしやがってよ」

「ハハハ……リア充爆発しろでござる」

「モテ男は、撲滅でシャイネス」

「なんか良い気持ちだにぃね」


 モテない男の末路は傍から見たら、かなり見苦しい光景だったに違いない。


 人間、こうはなりたく無いと思いつつも、こうやって愚痴を吐き出す場所も必要なのだと僕は、ただジッと皆の愚痴に聞き入っていたのだが……


「おい草原。お前も今日から正式に『中年童貞の集い(ファントムグリフ)』の一員になったんだ。抜け駆けしたら()()()殺すからな」



激情の童貞(バイオレンスブラック) 佐武』


 黒ジャージ姿で胸に光るゴールドネックレスがトレードマークの角刈り痩せ型のチンピラ風の男……


 普段は物静かな性格をしているが、恋愛話や酒が入ると、人が変わったかのように周りへと当たり散らす気難しい人だ。


「さっ、佐武さん。僕が抜け駆けなんてそんな事……あっ!!」


 言葉とは裏腹に……思い出したのは晴希の()()()()だった……


『私の乙女を奪って……』


 既に抜け駆け未遂をしてしまっていた事もあり、佐武の言葉に、僕は激しく動揺してしまう。


 そのな時だった……


「まあまあ……佐武さん。今日は草原君の記念すべきお祝いですし、ここは穏便に……穏便にね」


 そんな僕を見兼ねたメンバーの1人が仲裁へと入ってくれた。


博愛の童貞(ピースホワイト) 城崎』


 少し茶色掛かった長い髪に白いシャツ、黒縁の四角い眼鏡が特徴のイケメンだ。性格も穏やかで、いつも纏め役を買って出てくれているのだが……今日は相手が悪かった様だ。


「おぃ、城崎……テメェこそ、何シラフ決め込んでんだよ。お祝いなんだろ? 良いから飲めよ、ほらっ」


 お酒は弱いからと拒否する城崎であったが、佐武は強引に口へと一升瓶を押し込むと……城崎の顔は見る見るうちに赤くなってしまい倒れてしまった。


 そんな城崎の様子を見て満足したのか、佐武は部屋の隅へと移動すると、静かに一人で晩酌を始めるのであった。



 ― 3時間経過 ―


 安部と僕以外のメンバーは床に寝そべり、大イビキをかきながら酔い潰れていた。あれだけ浴びる様にお酒を飲んでいたのだ、当然の結果と言えるだろう。


 その様子を呆れた様子で傍観していた安部は、眉をハの字に曲げながら、ため息を吐くと……


「良い歳して酒に呑まれやがって……しょうがねぇヤツラだな。コイツらはウチに泊めてくけど、草原は大丈夫なら帰れ、布団も6枚しか無いしな」


「あっ、はい。今日はありがとうございました。このご恩は一生……」


「いちいちオーバーなんだよお前は、まぁ気を付けて帰れよな」


 安部に感謝しながらも、騙している罪悪感から心がモヤモヤとしてしまい、スッキリとしない思いで帰路へとついた。


 ビュゥーー……


 少し湿った南風は、春の終わりを知らせると共に、静かに夏の訪れを告げる……初夏の風。


 暑さと待ち受ける試練に、僕の心は熱く焼かれていくのであった。

ご覧頂き有り難うございます。

第一章は、これで完結となりますが、如何だったでしょうか?


『第二章 ラプソディ 〜炎夏に訪れる暴風雨〜』も引き続きお楽しみ下さい。


【ファントムグリフの構成員】

五十路童貞(ワイズマン)(リーダー)

情熱の童貞(マスターレッド) 安倍


四十路童貞(ハイマジシャン)

激情の童貞(バイオレンスブラック) 佐武

博愛の童貞(ピースホワイト) 城崎

・???

・???

・???


三十路童貞(ローマジシャン)

若葉の童貞(ピュアグリーン) 草原

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロローグの入り方が上手いと思います。綺麗な文体で思わず見惚れました。サブタイのセンスが良すぎる気がします。何をしたらそんなにセンスの良いサブタイが思いつくのかが分からない。羨ましい限りで…
2020/08/19 23:58 退会済み
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