表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/78

第04話 博多のスケコマシ

2019年(平成31年)4月5日

~福岡~


 服部翔は、浮気調査の報告のため、春吉にあるマヌ・カフェを訪れていた。

 公共スペースの禁煙化が進む中、珍しく喫煙が可能なこの店は愛煙家のオアシスだ。

 値段の割にいい豆を使っており、深夜までやっているので、翔もたまに仕事終わりや飲んだあとにお世話になっている。

 翔自身は喫煙者ではないが、浮気調査の依頼主に合わせて、この店を選んだ。


 三階の落ち着いた雰囲気の席で待っていると、セミロングの明るい髪をした太めの女性がラテを載せたトレーを持って階段を登って来る。

 白いロングのスカートにGジャンを羽織っているが、豊満な胸に邪魔されてボタンは締まり切らない。

 女性は店内を見回し、こちらを確認すると軽く会釈しながら近づいてきた。


「わざわざご足労いただきありがとうございます。」

 軽く会釈を返して向かいの席を促す。


 彼女は、この前のリサの件の依頼主だ。


「今日はちょっと寒いですね。」

 いきなり旦那の浮気の事実を突きつけるのは躊躇(ためら)われたので、おためごかしに気候の話をする。


「えぇ…、それより」

 固い表情のままで、調査結果の提示を求めてきた。

 彼女からすれば、まだわすかに希望を持っているだろうから当然だ。


「それでは早速…。」

 言いながら、テーブルの上に乗せた茶封筒を彼女の方に滑らす。


「そちらが調査結果になります…。」

 封筒の中には、SNSでのやりとりのコピーや、ご丁寧にスマホに保存していた行為中の写真などの決定的な証拠が入っている。


「ありがとうございます。」

 そう言って女は封筒を手に取ってみたが、中を見るのには勇気が要るようだ。


「持ち帰ってからご覧になりますか?」

「いえ、こちらで。」


 覚悟を決めたのか、封筒の中の写真を手に取ると、ハッと息を飲んだ。

 よりにもよって行為の最中の写真だったのだろう。

 依頼主の女は写真を封筒に戻すと、唇をかみしめて怒りをこらえているが、小刻みに震える肩からは動揺が隠し切れない。


 「お辛いでしょうね。」

 優しく声を掛けると、彼女の目から大粒の涙が零れ出した。


 浮気調査で唯一気に入らない点があるとすれば、結果報告だ。

 大抵の場合は、このように泣き崩れるか怒り狂うか、はたまた意気消沈して無反応になるかで、いずれにせよ冷静に報酬の話ができるまでなだめないといけない。

 かと言って、下手にアドバイスをする訳にもいかないので、結局は「お気持ちはよくわかります。」とか「お辛いでしょうね。」位しか言う事はないのだが、時に相手が女性の場合、心の混乱と翔の優しげな雰囲気の相乗効果で、開き過ぎる位に心を開いて、果ては肉体関係を求めてくる事がある。


 今回がそうだ。


 最初は悲しみに打ちひしがれて旦那との想い出などを離していたが、それが段々と怒りに変わり、ついには私も浮気してやるという気持ちになったらしい。

 女の瞳に欲情の炎が灯るのを感じ取った翔は、とろけるような笑顔で切り出した。


「奥さん、ここではなんですので、最近出来た個室でスイーツビュッフェ食べられる所で、もっと話を聞かせていただけませんか。」

 女の方は、一瞬戸惑いを見せたが、翔の瞳の奥にある獣性に惹かれたのか、無言でうなずく。

 あとは成り行きに任せて自分の欲求を開放させるまでだ…。


 情事の名残(なごり)が残るベッドの上で、荒い息のままもたれかかっている女を優しい手付きで仰向けにすると、翔は起き上がって布団から出た。

 冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し喉を鳴らして飲む。

 荒い息をのまま放心状態で仰向けになっている女の様子からは、うっ憤を晴らすような激しいプレイに満足しているのか、それとも後悔の念を感じているのかは伺えない。

 ベッドに腰かけ女の頭を撫でると、太ももに頭を載せて来たので、飲みかけのペットボトルの水を飲ませてやった。


「これで私も旦那と同罪ね。」

 そう呟いて照れたように微笑む彼女を見て、少しだけ胸が痛んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ