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第21話 潜入

 一行は、旅館に着いてチェックインを済ませると、隣り合った和室を2部屋確保した。

 片方は知佐と紗織の女性陣、もう片方は翔たち男性陣だ。

 荷物を部屋に運び込むと、翔はふらっと部屋を出て行った。


「ちょっと準備してくるから、寛いどいて。」

 気の抜けたような伝言の通りに、部屋に残った三人はお茶セットでお茶を淹れて寛いでいた。


「タカくんの、超霊感って、痛いと?」

「痛いというより、締め付けられてる感じです。」

「カンじるのは映像ダケか?音やニオイは?」

「今の所、映像だけです。」


 ダニエルとレオナルドは、これまで翔に遠慮していたのか、ここぞとばかりに質問攻めにする。

 容赦ない質問に曝されながらも、崇継は楽しかった。

 翔も含めて、こういう人たちとはこれまでの人生で遭遇した事はない。

 辛く危険な逃避行ではあったが、自分の新しい扉が開いていくような新鮮な感覚を覚えていたのだ。


 その頃、隣の部屋では、こちらも女性陣がお茶セットで寛いでいた。


「さぁちゃん、大丈夫?疲れたでしょ。」

「ちいちゃんこそ、私のおもり大変でしょ?」

「私は何もしてないわ、というか、何もできない。」

 知佐が自嘲気味に言った。


「そんな事ない! ちいちゃんは皆が動きやすいようにいつも気を使ってるもん。」

 紗織の言葉が胸にしみる。


 紗織の頭を撫でながら、優しく言った。

「ありがとう。」

「私だけは、ちいちゃんの味方だからね!」

「ありがとう。 じゃあ、私もどんな事があっても、さぁちゃんの味方。」

「約束だよ!」

「うん、約束!」

 そう答える知佐の表情には僅かな陰りがあった。


「私も…、戦いたい。」

 紗織の言葉にハッとしたように頭を撫でる手が止まる。

「私も、戦いたい!」


 突然の襲撃からこっち、目の前で沢山の命が散っていくのを見て、やりきれなくなったのだろう。

 その気持ちは分かるが、これ以上紗織のような少女を血みどろの世界に巻き込んではいけない。


「さぁちゃんも、今日の戦いを見たでしょ。」

「うん。」


 正確には、見たのは煙幕と閃光弾だけだったが、普通の相手じゃないのは容易に想像できた。

「相手は普通じゃないの、もう私たちの手に負えるような相手じゃないのよ。」

 知佐は自分の無力さに忸怩(じくじ)たる思いを抱いていたが、その口惜しさを押し殺すように言い聞かせた。


「…うん。」

 そんな知佐の気持ちを察したのか、紗織もしぶしぶ従う。

 少女なりの気遣いが嬉しくて、知佐は紗織を抱きしめた。

 突然の抱擁に紗織は驚いたが、今まで自分をこのように扱ってくれた人は居ない。

 緊張した体を緩めるとギュッと知佐を抱き返した。



「ただいま~。」

 1時間ほど経った頃、翔が男性陣の部屋に戻って来た。

 女性陣も集合して、どこからか調達してきたミッキーマウスのトランプで、呑気にババ抜きをしている。


「お帰り~、なんばしよったとね?」

「これさ。」

 翔は手に持っていた小石を見せる。


「???」

縛石錠前(ばくせきじょうまえ)

「ナンだ? 説明シロ。」


「人が触れたモノには、僅かながら気…というか、痕跡(こんせき)が残ってるんだよ。」

「ほうほう。」

「で、その気が残ったモノで、その人の周囲に特殊な陣を張ると、その痕跡を使って、動きを監視できるんだ、それが<縛石錠前>。」

「あいつらん周りに石蒔いて来たとね?」

「違うよ、境内の周りを囲って来た。

 これで、あいつらのうちどちらがが境内を出ればすぐに、この小石が教えてくれる。」

「ヘェ、便利ダナ。」


 レオナルドは感心していたが、軽く触れただけの痕跡なんてものは半日もすれば消えてしまうので、実際の所使い道がない。

 翔にしても、使うのは今回が二度目だ。


「さて、暗くなる前に、役割を決めておこう。」

 ちょうど皆は車座に座っていたので、崇継とダニエルの間に座り込む。


「潜入は隠密行動だから、全員でって訳にはいかない。

 潜入するのは、俺とダニエル、あと…タカ。この三人だ。」


「タカくんも行かせるの?」

 知佐が難色を示す。


「俺もダニーもお宝には縁がない、目指すものが(降天菊花)かどうか分からないんだ。」


 すかさず崇継が加勢する。

「僕も本物を見たことはないけど、分かる可能性が一番高いのは僕です、行かせてください!」

 崇継にこう言われては知佐も引き下がらざるを得ない。


「潜入組以外はここで待機、マズい事があれば連絡するから、だれか一人は交代で起きておくようにしといてくれ。」

「はい!」

 紗織が元気よく答えた。

「潜入は夜十時だ!それまでは各自体を休めるように!」



**********


「何だ、これは?」

 犬山が怒りに肩を震わせる。


「なぜ、こんなモノがここにあるのじゃ。」

 盲目の老人が、盲しいた目を、傍らに立つ男に向ける。


「知らん、俺が聞きたい位だ!」

 吐き捨てる様に言ったその男は、ここの宮司だろうか白装束が夜目に眩しい。


「みかど様はお嘆きになるぞ。」


 その言葉に、宮司は一瞬身を固くしたが、すぐに横柄な態度に戻った。

「俺が来た時にはすでにそうだったのだ、それを隠す為に俺がどんな苦労を…」


 犬山が肩をいからせて近づいてくる。


「おい、やめろ。」


「みかど様はお嘆きになる。」

 犬山は宮司の男の両肩を掴んで持ち上げる。


「や、やめろー!」

 宮司は半狂乱になり白装束がはだける程に暴れ出した。

 裾からは黄色い液体を漏らしている。

 犬山の口が犬の様に盛り上がると、(わめ)き散らす宮司の口を噛み千切った。



 …時刻は夜の十時。

 かつて、皇統を危機に至らしめたその地が、再び皇統に危機をもたらすのか。

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