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第2章-1 世界の為の犠牲

 NV社が手掛けるVR管理施設カンボジア支部に新しい移住者が集められた。これによって東南アジア、オセアニア地方のVR入居率は80%を超えた。

 現実世界に於いて一番需要が高い電力関係の仕事で必死になって稼いだ人たちが、約50人位、VRの世界を今か今かと待っている。

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。健康診断、脳神経の検査を見事に通過された皆様を、これからVRニューセンチュリーへとお送りいたします」

 重役の一言に会場が沸き上がる。誰もがこの時を待ちわびていたことが手にとってわかる。

 ここにいる新たな移住者は全員VRニューセンチュリーを選んだ。

 オンラインゲーム調のVRローファンタジーや経済成長真っただ中の世界を再現したVR2000など、様々な世界をプランとして用意していたが、今まで現実世界で苦労をしてきた彼らが選んだのは食に困らず、病にもならない、自身のやりたいことにひたすら没頭できるVRニューセンチュリーだった。

「それではレヘンさん、こちらの方にどうぞ」

 一人のカンボジア男性が前に出る。赤道に近く、数年前から続く温暖化の影響で気温40度を超えることが珍しくないカンボジアにとってマイナス20度と言う真逆の世界に戸惑っている様子だ。このままVRではない別の世界に行ってしまうのではないかと、悪い想像が頭の片隅をよぎる。

「安心してください。寧ろ、下手に緊張されると脳波に異常をきたし、VRにうまく繋がれないかもしれません」

 脳につけるヘッドギアタイプの装置を持った研究員の人が宥める。

 実際にどうやってもVRに脳波が対応できない人間が出てくることは偶にある。一種のアレルギーのようなものだ。

 しかし、ハウスダストや食物アレルギーは克服するための治療法があるのに対し、VRのアレルギーに対する明確な治療法は未だに確立されていない。VRの中であれば都合のいいように弄ることも可能だが、そもそもVR内に入れないのであれば話にならない。

 その事実を知っていたカンボジア男性は最悪の展開を思い浮かべるも、研究員の言葉がいい緊張となってくれたのか、深呼吸一つすると共に、震えながらVRカプセルの中に身を納めることに成功する。

「ヘッドギアの装着完了」

「微弱電力の送出を開始します」

 研究員はもう何百万と繰り返した動作を行う。

「CITY-F、House-S-3272番への脳波転送を開始」

 そして予め用意された彼の部屋フォルダに彼の脳波を繋げる作業を開始する。これが成功すれば、そのフォルダが彼の住処となり、彼の人生となる。後は彼がこの鍵(VRカプセル)を利用して自分だけの部屋を模様替えして楽しむだけだ。

 ルーチンワークに近い作業が順調に進んでいた。後は脳波の異常を確認するだけ。タバコでも吸いたい気持ちでリラックスしながら、事の経過を眺めていた。

 その時だった。

「ん?」

 微かな異変が起きる。

「待て。これは⁉」

 脳波に拒否反応があったのか。移住者を囲む研究員は疑問の声にそう感じたに違いない。

 だが、彼が見ていたのは脳波では無かった。

 部屋の方に異常があった。

「エラー反応⁉ 何故部屋が既に埋まっている状態なんだ⁉」

 レヘンさんの為に用意されたはずの部屋に誰かが既に住み着いている。誰もがまずそう考えたが、それは絶対にあり得ないことだ。

 部屋にはそもそも彼専用のコードが設定されていて、彼の脳波だと認知されなければ開くことさえできない。

「脳波に異常があるかもしれない。装置から彼を切り離せ! それとすぐに医務室に、低体温症の対処も怠るな!」

 緊迫した空気に、残りの移住者が不安を募らせる。

 近所、親戚、親族などから聞いたVR移住とは異なる事態はひそひそ話とキーボードの叩く音が入交る不協和音を生み出した。

「申し訳ありません。レヘンさんの脳波異常の可能性か、機械トラブルなのかは、こちらで今すぐ判断でき兼ねません。ですので、本日はこちらが用意しますホテルの方へ滞在していただいて、後日またVR移住の方を行いと思います」

 VRカプセルから担架に移され運ばれるレヘンさんを心配そうに見守りながら、移住希望者たちはVR世界への移住を一日断念せねばならなかった。

 その解決策が出るまでの丸二日。彼らはホテルに監禁されることとなった。

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