第5章-8 冒険の始まり
「これ本当に低LV層向けに作る予定だったのかな?」
「だいぶ凝った構造だな」
「嘘っ! プラチナ鍵が必要な宝箱⁉ ちょっと待って、今空けるから」
「おい、お前ら……」
新ダンジョンを先行プレイしに来たプレイヤーよろしく。後ろを行く若者三人はもはや観光気分だった。それをノールは呆れ気味に見ていた。
「とは言いますが、今のところ順調ですな。モンスターがいないおかげで足止めもされませんし、何より外部からの妨害もありません」
前方で今回は盾を構え、後ろとは熱量があり余るくらいの警戒態勢で進んでいるジョコンドが、姿勢とは裏腹な安堵の言葉を告げる。
「モンスターの配置はまだ済ませてなかったようだな。このまま運営が動かなければいいんだがな」
「上の誘導が効果をもたらしてくれていればよろしいのですが」
ジョコンドが漏らしたのは地下遺跡に行く前の話。
イーの拠点にいる人たちが、自分たちにも何かできることが無いかと尋ねてきた。その際に編み出したのが囮作戦だ。
帝都ゼインヒルド周辺で何か対抗出来ないかと試みる連中を演じることによって、NV社の注意を反らす作戦だ。無駄な抵抗を見て嘲笑うNV社を正しく足元から掬う形で、転覆させる作戦だ。
「とはいえ、ずっとあの周辺にいるのも危険だからな、俺たちがさっさと何とかしねえとな。おい、遠足組! さっさと行くぞ!」
「あぁ」
「今行くよ!」
「……空じゃん……」
ノールに一喝された三人は本来の目的を思い出して速足で前線に戻った。
「ダンジョンの構造は外から中央に向かっていく円形型らしい。今はそうだな、門を潜って大通りに出た辺りか?」
「てことはもう結構近いの?」
「モンスターがいないと本当に楽ですな」
ノールは先に入手していたマップの構図を思い出しながら歩を進める。その道筋は安全そのもので、ミシェルとジョコンドはそれを有難がる。
「……」
普段はその輪に加わることが多いハールが無言で周囲を見渡す。その姿はすごく冷静であり、その奥底には焦りがあった。
「セシリを探してるの?」
「落ちた先がここなら、いるかもしれない」
帝都ゼインヒルド地下遺跡は名前の通りゼインヒルドの地下にある。
今は天井を古い石と謎の光源を放つ宝珠で覆われているが、先日の事件の際はここが天窓のように開かれ、飲み込まれたものがここまで落ちてきているかもしれない。
「ここは前日まで無かった場所だ。コピーや貼り付け先が今まで無かったんだからある訳が」
「そういうこと言わないの! ローファンタジーはそんな機械仕掛けに作られて無いって言ってたでしょ? 0%じゃないなら希望を捨てないで!」
「おっおぉ……」
ノールが身も蓋も無い説明をするやいなや、反論してきたのはまさかのミシェルだった。ノールは消極的な意見を述べたことに反省すると同時に、ミシェルの変化を見せつけられて言葉を失った。
「あそこに階段が見えるね、ジョコンド」
「今までとは違って、どうやら上階に上がる為の階段のようですな」
遺跡と言うエリア内で上下する階段が多数存在する中で、パオロは今までにない長い階段を発見する。それを見てジョコンドはあることを確信する。
「ここが例の王宮時計台に続く道か?」
「だろうな。どんな感じで地上に出るかは分からんが。予定だと中央庭園の横に流れている水路の石畳から出る予定らしいぞ」
王宮時計台は王宮の中心部にある庭園の真ん中に建てられている。定期的に行われる季節イベントは基本的に掲示板が置かれている中央公園周辺で開催されるが、その次に多いのがこの王宮時計台周辺のスペースだ。今思えばその理由は王宮時計台がアップデートの配信元だったからなのだろう。
「よし。これから先は何があるか分からん。気合入れろよ」
ノールが皆に目を向けて声をかける。
「時計台以外何も無い可能性だってあるんだよね?」
「そうなりますと破壊する方法が絞られてしまいますな。遠方に強力な攻撃を加えることが出来ますのは、ノールさんのみですからな」
重要な部分だけを残して他は削除する。今のVRローファンタジーを仕切っている人たちならやりかねない。
「時計台が動くように仕組まれてなきゃ、ただの的さ」
それに対してノールは何の心配も無いと胸を張る。
「行くか」
「だな。時間、電力、全部有限だ」
五人は意を決し、最終決戦の場に赴く。




