第5章-6 冒険の始まり
「マジか」
「だいぶ広がっているな」
「帝都が、完全に、消えちゃった……」
VRローファンタジーに戻った四人は、パオロからの指示でまずは帝都ゼインヒルド――が良く見える丘陵に来ていた。
そこから見た帝都ゼインヒルドに昔の面影は一切ない。
暗黒のアリジゴクが地で渦を巻き、暗闇の影が帝都全体を覆うその姿は、ブラックホールに近い。
「昨日までは何とか四方正面門近くまで行けたらしいよ。今朝になってからは外壁どころかお堀さえ暗闇に飲み込まれて、闇は更に浸食を続けてるみたいなんだ」
「容量を開ける所の問題じゃねえってことか」
VRローファンタジー廃止と言っても過言ではないやり口に怒りが込み上げてくる。
「あの中で、まだセシリが生きてるかもしれない……」
ハールが下向きな考えを止め、帝都ゼインヒルドを見据える。
「あれを止めない限りどうにもならないわよ。で、まずは拠点に戻るの?」
「えっ⁉ なんとかできるんじゃないの⁉」
策があると聞いていたパオロが突然の戻る宣言に困惑する。
「確かにやろうと思えば今からでもできる。だが、俺らがやることには大勢の犠牲を生む」
「犠牲?」
「そうだ。これはVRローファンタジーの未来を決める戦いだからな。皆にも聞く必要性がある、なんせ」
ノールは帝都ゼインヒルドを鋭い目で見る。その視線は全体ではなくある一点を見据えていた。
「VRローファンタジーをNV社から切り離すんだからな」
時は、朝食時にまで遡る。
「切り離す?」
「んぐんぐ。あぁ、そうだ。あいつらが好き勝手できないようにリンクを断つんだ」
ノールの口から出た対策は想像を絶するものだった。NV社に操作されないようにする。まるで子供からおもちゃを取り上げるかのような言い回しだが、そんな簡単なもので無いのはそこら辺の知識を持っていない友晴たちでも理解できる。
「てか、そんなことどうやってできるって分かったんだ?」
美咲がやろうとした襲撃よりも説得力はあるがその根拠がどこにあるのかが疑問だった。
「んなの美咲の十八番を使ったまでだ」
「なんかあたしのこと悪く言ってない⁉ それ!」
「あぁそうだな。なんせ盗みだからな」
美咲が訴えかけてきたのに否定もせずに典仁は笑った。
「なるほど……ハッキングですか」
「昔は悪ガキだったからな」
典仁は隠す気なく答えた。
「VRとは言え、やっていることはそこらへんのサイトと一緒さ。情報を盗むのは簡単だったさ」
「すげえな……典仁さんにそんな秘められた力があったなんて」
「ただの変人じゃなかったのね」
「ひでぇ言い様だな」
美咲はよく理解していないが、ハッカーは立派な犯罪者だから、変人と呼ばれてもおかしくはない。
「で、それはどうするの?」
やり方が分かったらしいが、それをどうやってやるのかが気になって三咲は問いかける。
「VRにはそれぞれ指示を送る際に通る経路みたいな物があることが分かったんだ。そこを破壊してしまえば、NV社はVRローファンタジーに干渉できなくなる」
「ってことは……」
「あの闇が止まるのね!」
典仁の説明に、希望の光が見えた。
「それだけではありませんな。もしNV社との繋がりが切れるのならば、今後彼らの嫌がらせに悩まされることが無くなるのでは無いのでしょうか」
さらに、それだけではないことにジョコンドが気づく。
これまでスレーンド、アズガルド、ゼインヒルドと犠牲を出してきた。もし、今の侵食が収まったとしても、次の都市がいつ狙われてもおかしくはない。
エマージェンシーやモンスターの急襲には慣れている冒険者でもごめん被りたい今回の件。それを未然に防げることは願ったり叶ったりのことだ。
「そうだな。だが」
典仁はいい兆しを見せ始めた矢先に水をさした。
「NV社から引き剥がされることは良いことばかりじゃない。俺たちがやることはVRローファンタジーの編集機能を引き剥がすことでもあるんだ。そうすればアップデートはない、不具合が生じれば直すこともできない、予備の部品があるわけでもない。VRローファンタジーは初期のカセットゲームに成り下がるんだ」
最新も最新のMMOがドット世界の据え置きゲームに変わる。
「そして、忘れてはならねぇのは。このゲームは、俺たちだけの物じゃない。俺たちの意思で壊した世界の責任を背負えるか? 何も改善しないゲームマスターになる決意はあるか?」
ローファンタジー内で壊れた柵や家などは直そうと思えば、木材があれば直せる。
けど、例えばポリゴンの損傷が起きて、突如ポリゴンの隙間が現れたとしても、プログラマーでもエンジニアでも無い、ましてや直にパソコンに触れ合ってきていなかった友晴たちには到底無理な話である。
「直せない所が壊れたらそれまでだ。フィールド内のエリア間に歪が出来ればそれ以降の階層には行けなくなるし、スキルにバグが見つかったらそのまんま。生命に関するバグ何かは致命的だ。最悪俺たちはVRで生きることが出来なくなる」
VRで生きられない。
そうなれば、今のような生活が永遠に続くことになる。それもパオロやジョコンドの経済力が成せる業であり、いつまでもつかは分からない。
「だから聞く必要性があるんだ。もうVRには行けるのか?」
波止場付近に波力発電を幾つもつけておきましたので、午前中は大丈夫でしょう。もうじき太陽光発電も開始されるでしょうから、午前中は万全でしょう。パオロ様も既にVRローファンタジー内にログインしております」
典仁が結論を述べ、ジョコンドに準備が出来ているのか問いかけた。ジョコンドはそれに頷いた。
「なら行くか。今後のローファンタジーを決める為に。取りあえずこれ食べてからな」
そう言って、典仁は残ったトーストを一気に食らい尽くすのだった。




