第3章-5 生まれ変わる意思たち
「おい。あったぞ!」
ハールのもう一つの得物は街から遥か遠く離れた場所にあった。標高400メートル近いアズガルド鉱山よりも高い位置まで飛び上がっていて、そこからとんでもない勢いで射出されたシールドシュートだったからこの辺まで飛ばされても当然だった。
「良かったな、池に落っこちて無くって」
「いや、この場合落ちてた方が良かったかもな」
ハールは赤土の荒野地帯に落とし物にしてはでかすぎる円形の物がポツンと落ちている状況を見て、ある憶測を立てた。
「ミシェルの奴、あの盾すら持ち上げられないほど筋力に振ってないのか?」
ハールはフレンドシップの盗賊姫の非力なステータスに気付いた。イーが盾を持てないならまだしも、一応肉弾戦の術を持つ盗賊、ましてやその上級職である怪盗が盾の一つも持ち上げられないことに呆れ果てていた。
「持っていけなかったから、置いていったのでは?」
「できればそうあってほしいが」
ハールは諦めた感じで盾に近寄る。
「んしょっと」
両手で両端を持ち、力を込める。
普段片手で取り扱っているだけあって、盾は軽々と持ち上がった。
果たしてそこには、ミシェルが仰向けの姿勢で待ち構えていた。
「…………」
その顔は燃え続ける熱にやられたのか赤面していて、体は小刻みに震えていた。
「あぁ……。すまん。遅くなった」
ハールは確率的に低い、いや0ではあるが、謝罪することにした。
「馬鹿ぁぁぁ‼」
そして大穴を引き当てることも無く、予想通りの反応をされる。
ミシェルは立ち上がった瞬間、素早く走り出す。
向かった先は、荒野の中でたくましく生きているからっからな樹木の後ろ。
「いや、まぁ、あの……。あのままじゃミシェルが飲み込まれるのも時間の問題だったから、あの時はあれが最適解だと思ったんだ。言い訳になっちまったけど、乱暴なことしたって俺だって思っているし。だから」
「来ないで! 見るな! 馬鹿! エッチ!」
ハールが何とか取り繕うとすると、ミシェルからありったけの罵詈雑言が飛ぶ。
「本当にすまなかったと思ってるんだ! だから隠れるような」
「あほ。お前は分かってないのか?」
「ノール。これは俺の問題だ、邪魔を」
「お前の問題じゃないだろ。寧ろ、ミシェルの問題だ。身動き取れなかったせいでお花摘みに行けな」
ノールがハールを止めにかかる。ミシェルが何故怒っているのか理解したノールは直接的な説明を避けるよう努力した。しかし、木陰から物凄い勢いのナイフが、ノールの首元すれすれの位置目掛けて飛んできたことによってそれは中断された。
「…………待ちましょうか~?」
デリカシーの無い男たちに、普段なら何も気にしないイーがその場を制すのだった。




