アンナの一日
「隊長、先方がやたらとご立腹だったようですが」
「仕方ないさ」
妖世歴、2019年6月7日。ナイヴィ帝国領第5山岳地帯休憩所にて。
移動用の地鳥(地を飛ぶように走る生き物、飛べない)に跨り、私たちの護衛任務が始まった。輸送用のヘリで任務地へと降り立った私達は早速依頼主一団の下へと赴き、挨拶を行った。が、何故か向こうはご立腹というか不満げ。
任務内容は、依頼主達を山岳地帯の先にある街へまでの護衛任務だ。なので、我らトキヴァーリュ王国騎士団は私を含む10人の小隊を編成してよこしたのである。この近くの山岳地帯はオーク達の山賊団やら、巨大魔獣やら出没するので、戦闘狂集団であるトキヴァーリュ王国へと依頼したそうだ。
「それでなるべく大勢をよこせと念を押されたので、任務内容を吟味しつつもその内で可能な限りの大勢を送った。だが向こうにとっては少数に見えたらしい」
長い髪を纏めて帽子にしまいこんだ今回の隊長が締めた。その補足を合図として我々は出発する。地鳥の上で揺られながら私は溜息つく、何故ならトキヴァーリュ王国騎士を10人で少ないなんて、こちらからすれば笑いものどころか苦笑ものだ。
「連中、戦争でもする気ですか? このメンツで足りないとか、私たちが11人以上も出したら小規模の街の一つくらい制圧どころか消滅も容易いですよ?」
「知らない、という事さ。無知が罪とはよく言ったものだな、まあ此処の近辺に出没するオークの山賊団は最近頻繁に暴れているから潰して問題ないと本国からも言われているし、確か手配書も出てたはずだ」
「皆殺しでも構わない、と?」
「ああ。尤も、連中くらいのだと、生かしておくと言うのは羽虫から羽だけを千切るようなものだ。多分、うっかり殺してしまうと思うぞ」
隊長は物騒なことを平然と言ったが、事実な分否定しにくかった。ある程度の実力があると、生かしたまま潰すのが難しくなる。
武器だけ落とせばいいのだが、うっかり武器破壊のおまけで体に刃を入れるとショック死するし、と言うか血管斬ると大体生き物は死ぬし、そうでなくとも胴体真っ二つの時点で高確率で即死だ。完全に実力が無いなら睨んだ程度で怯んだり恐れをなして逃げていくが、半端に実力があるとそんな間もなく襲ってくることもある。
等々と、ため息交じりに考えながらどたどたと山岳地帯を超えていくと、視界の隅に何かの物影が混ざった。
「隊長、今崖の上に」
「そうか、ではアナストレイシェ頼む」
「Yes、leader」
命令を受けたので、地鳥に指示を出しつつ背の上に足をかけて跳び上がって視界の隅に映った存在がいるであろう方角へと向かっていく。そこに飛び降りてみれば、案の定そこにはオークの一団がいて。
「私はトキヴァーリュ王国騎士団所属、王位継承権第278位アナストレイシェ・トキヴァーリュだ。お前達、こんな所で何をしている?」
「て、手前こそ」
「ああ、いやいい。すまない、ちょっと待て」
癖で態々名乗ってしまったが、術式使って確認とればいいじゃないか。私は術式で隊長に確認をとる。その間になんか襲ってきたが一応抜剣して受け止めた。なんか驚いた声が聞こえるが、それよりも確認だ。
『ああ、そいつらだ間違いない』
「殺してもいいですか?」
『おいおい、我々は仮にも文明人だぞ。隊長格以外には用はない、そいつだけは霊体化していようと喋れる状態にしておけ』
隊長の言葉と共に力比べをしていた相手の首を刎ねる。オークの豚面が宙を舞い、鮮血が吹き出す。私は一先ず残ってる方に向いて。
「おい、リーダー格はどいつだ? っておい、こら」
話を聞こうとしたら何故か激昂したオークが3、4体ほどこちらに突っ込んできた。ので武器を破壊する、と思ったら雑に振った為にオークの図太い肉体が一瞬で両断されあっと言う間に血の海が出来上がる。
そう言えば構成員の殺害許可はどうなっていただろうか、確か問題なかったはず。と言うか私たちに手配書を渡すと言う事は、皆殺しで構わないと言う意思表示で問題ないはずだ。
私達に賊の盗伐を依頼すると言うことは、つまりは抹消以来と受け取って何も問題なんて無い筈だ。と言うことで最後の確認だ、連中の中でリーダー格を見つけ出せばいい。山賊団の首領なら最適だが、違っていてもこの、なんだ? 分隊? まあこの一団を纏めている奴さえ見出せば万事解決だ。
「おい、お前らのまとめ役は誰だ!?」
一先ず近くの数人を血糊を払うついでに切り殺し、問いを投げる。何故か反応の悪い連中ではあったが、急にはっとなってはとあるオークの一人が指さして。
「こ、こいつ、こいつです!」
「分かった」
理解し、踏み込んで距離を詰め一気に周囲の者達を皆殺しに。山賊の連中とか正直かける情けとかは知らないし、もう一気に殲滅して一人残しておけば十分、だよね?
「おいこら、無用な殺戮は控えろと。ふむ、言ってないなすまん」
「おや隊長、追いついたんですか?」
何か言いかけたような気がするオーク達をさくっと全員切り殺し、残る一人のリーダー格の喉ぼとけに切っ先を突き向けて牽制すると隊長がスタっと降りてきた。どうやら同じように地鳥の上から跳んだらしい。
「ああ、先方に説明してな。今、念の為に移動速度を抑えてもらった」
「ああ、私を迎える」
「山賊の待ち伏せを警戒してだ。で、こいつか?」
「はい」
隊長は私の頷きを見ると抜剣し、オークの首筋に刃を当てて。
「私はトキヴァーリュ王国騎士団所属、王位継承権第107位のアイリス・トキヴァーリュだ。一応、小隊の命を預かる小隊長と言う身分だ。ああすまないが一応言っておくが、覚えておく必要はない。貴殿には山賊のアジトまで案内を頼みたい」
「て、手前、素直に吐くと」
抵抗の意思を見せたあたりで隊長の眉がぴくんっと動くのを目にする。あれは面倒に思ったから何かあったら殺す目だ、こいつ自身の価値がないと思ったら即座に首ちょんぱする、人殺しの獰猛な瞳と視線だ。ひゃーおっかなーい。
「ああ、ところで君。この様子を山賊の親玉は映像術式で見ていたりするのか?」
「え? あ、ああ! 今頃お前らの事なんてとっくに」
あっちゃー。いっちゃったー。
言わんでも良い情報を言った為に、哀れにもオーク首の刎ねられた。滑るような、美しい刃物の線は芸術とさえ言えるだろう。隊長が振るった剣は、あまりにも流麗かつ無駄がなく洗練されていたのでオークは自分が死んだことに気付かぬまま首が飛んだ筈。
隊長はすぐに術式を展開して周囲を探ると、とある方向を睨み付けつつ羽織ったマントを翻しながらそちらの方へと足を向け。
「来いアナストレイシェ、元凶を取り除く」
「Yes、leader」
隊長殿に名指しで呼ばれたのでお供することに。あ、そうそうそれとついでに。
「あ、長いと思うので私は短くアンナでも構いませんよ?」
「そうか、ではゴミ処理に向かうぞアンナ」
と言うことでサクッと私たちは山賊たちのアジトまで移動した。にしてもあっさりと見つかり過ぎてるな、変な話、今の今まで何で誰にも見つからなかったんだろう。
「この辺りの岩山は巨大生物が彼方此方穴をあけてしまったのが原因で穴倉が多い。連中もそこを利用して頻繁に引っ越しを繰り返しているのさ」
「なるほど、ではそれもこれで終わりですか」
「ああ、ところでアンナ。じゃんけんをするぞ」
「え? はあ、まあ」
隊長に言われ、私はグーを出す。隊長はチョキ、それを見て呆気にとられるも若干悔しげに隊長は私に背を向けて。
「貴様の勝ちだ、アンナ。戦功はくれてやろう」
「え、は、え!?」
「親玉以外は皆殺しで構わん。生き残りが多いほど都合が良いとは聞いているが、構ってらるか」
「はあ、まあ、了解です」
こちらに背を向けて言い切った。いやさ、じゃんけんで勝った方に戦功とか、おいおい。まいっか、とりあえず私は山賊たちのアジトに潜入する。奥までやってきて、周囲に人の気配を感知して私は一言。
「トキヴァーリュ王国王位継承権第278位アナストレイシェ・トキヴァーリュだ。頭はどいつだ?」
「ブフフ、俺だ」
自己紹介ありがとう、取り巻きもういいぞ。即座に魔壊閃を二発撃って取り巻きを二人殺し、更にわらわらと出たので一気に殲滅するべく握る剣に若干力を籠めて。
「吹き飛べ、魔神界滅閃!」
一気に都合14発の魔壊閃を放ち、結果として50人前後のオーク山賊団構成員を細切れに変わり果てた。さあて、奴さんの反応はっと。何故か震えて白旗振ってた。おいおい、この程度かよ山賊団。いや分かるけど、気持ちよっく分かるけどさ。
もっと悪党の気概ってモノを見せてくれてもいいんだよ? もうちょい激しく抵抗しても、いや一瞬で仲間50人以上も死体に変えられたらこうもなるか。
「アンナ、制圧したか」
「ご要望通り、犠牲者はざっと50名です」
「凄いじゃないか、此処の規模は160名規模のオークが犇めいていると聞いたのにたった50名の死体で済むとは。半数以上はかたいと思っていたぞ、流石は陛下におっと、すまん。これは禁句か。後始末は引き受けよう、お前は先に護衛へ戻っていろ」
「Yes、leader」
隊長が術式を弄りながらの支持出しを受けて私は早速アジトを後にし、要請を呼び出して元の護衛ルートへと戻った。一時休憩中に戻ってきたようで、私が乗ってた地鳥も無事だ。と言っても、愛着はない。任務の縁で支給されたものも同然だ。
私は先方に隊長が野暮用で暫く抜けると素直に伝えると、ものすっごい不満そうな意見が。いや言い繕うのは止そう、クレームを叩きつけられた。理由は、人員の欠如だ。
「そんなざまで、此処を抜けられると思っているのか?」
「我々ハ、貴様達ニ決シテ安クハナイ金ヲ支払ッテイル筈ダ」
あ、ぶっちゃけ言ってマジ余裕です。あと数人裂いても片手間に出来ますよ。なんて、そう言ったらなんて言うんだろこの人ら。
とまあ、なんと言うか、私はお客様であるドワーフとリザードマンにぶった切られました。私は慣れたくもないのに慣れ切った営業スマイルでそれらを聞き終えると溜息を飲み込むように水を飲む。
「アンナ、随分と言われちまったな」
「なら助け舟くらい出してくれないか、アーロン」
剣の手入れを行っている同期の同僚のアーロンが冷やかして来た。うざい。
「そう嫌そうな顔すんなよ」
「すまない、嫌そうではなく嫌な表情を浮かべていた筈だった。もっと嫌悪感がストレートに伝わる表情作りを心掛けよう」
「厳しっ」
アーロンは肩を竦めた。こちらとしてはオークの脂ぎった血を浴びすぎて若干居心地が悪い、さっさと風呂に入りたいものだ。血の匂いなんて、そもそも私達には既にどうでもいいものだし。
そんなことをしている内に休憩が終わり、護衛を再開。地鳥に跨るとゴーグルをつけた女性副官殿が地鳥ごとこちらに寄ってくる。
「副官の任を受けたアンリエッタだ。アナストレイシェ、アイリス隊長の代わりに私が指揮を執る」
「Yes、leader」
「で、隊長は」
「脂ぎった山賊崩れの集団の事後処理です」
「宜しい、では我々も行動するぞ」
互いに伝えるべきことを伝え合い、出発。あー、早く帰って同士本(異世界においては同人誌と呼ばれている)かきたいー、かったりー。しかしそんな事をぶつくさ言っても任務は直に終わると言うわけではないのである、諸行無常。
こんな感じで岩山を通り抜けていく。地鳥の足音と馬車の揺れる音だけが続く。アーロンは地鳥の上で剣の手入れをまだ行っている、クライアントが若干切れ気味だからやめろと言いたいんだがなあ。
いやまあ、彼の気持ちはよくわかる。だってそれしかすること無いんじゃやるもんなあ、気持ちよく分かるぞ。まあ、絶対あり得ないのがいざと言う時の備えだろうな。私達にとって、この辺にいる連中の相手なんて最悪そこらも枯れ枝で十分、いや枯れ枝ですら過剰かもとすら言える。適当に紙を折って丸めた棒で丁度良いのではとすら言える。
紙装備か、この辺の連中なら紙製武器で10人規模の小隊はある意味適切だ。ああ、そんくらいの舐め装備で十分に緊迫した戦いが出来る事だろう。でもへし折れた紙の剣直しながら戦うのかったるいなぁ、でもその方が連係学べるし良いのかも知れない。訓練科目増えるのはあれだが、こいつらたまに連係の『れ』の字すら知らねえだろって時があるからなあ。
なんて無駄な思考続けていると気付けば地鳴りが、やっばこれ面倒なやつだ。なんて思っていると岩盤ぶち破って巨大昆虫が出てきた。馬車の中は悲壮感丸出しの大パニック、こっちは欠伸交じりにのんびり屋のランスが。
「だれ、行きます?」
「では言い出しっぺの法則で行きますか、ランス」
「やだよーモード行ってくれよー」
学生時代から若干ウザいくらい爽やかなモードが剣の調子を見ながら言ってのける。髪をふぁさってやるの止めろ、昔からその動きウザいとしか思ってない上にお前の位置私の目の前なんだよ本気でやめろウザったい。
「それは無理な相談さ。耳を澄ませてごらん? 何か聞こえないかい?」
「もう一匹来るな、後続は私が対応するからお前ら好きに料理しろ」
アンリエッタ隊長代理が剣を抜いて出てきたもう一匹へ向かった。そこへすかさずアーロンが手を挙げて。
「俺、クライアントの安全確保に回りまーす」
「あーずーるーいー、俺もそっちー」
「ではアンナ、僕らでもう一匹を片付けよう。どうやらやる気十分見たいだしね」
「あ? 切るぞ手前」
いきなり話振ってんじゃねえよ、殺意出してんのは単純におめーがウザいからだくそが。適当な先輩と絡んだ同士本異世界で売るぞコラ、お前の水中訓練見てたからお前で本かけんだからなおっと良いネタが脳裏によぎったこれは速攻で仕事を終わらせて帰ろ。
そうと決まれば護衛を連中に任せて早速地鳥を走らせる。そこに普段無口のガウェンが寄せてきた。
「君も来るのかい? 良いよ、僕らで華麗に倒そう」
「む」
「無駄口もいい加減にしろ、一人一刀で始末するぞ」
返事は鞘と刃の摩擦音、目の前に現れた化け物に向かって三方向で強襲を仕掛ける。すぐに地鳥の背に足をかけて乗り、魔壊閃を放ってその上に飛び乗り天高く飛翔して、頭上へと移動。
飛ばした剣圧から飛び降り、直後に二人が剣を振るって見事に化け物の体が二分される。そこでふと、美男子と野獣の同性愛本のネタが過ったが後で精査しよう、今はネタより仕事だ! いや、ネタが大事! 絶対大事! でも死ぬから一旦停止だ私!
一先ず、怪物の頭上に魔壊閃を放つ。見事怪物の頭はばっくり割れて気持ち悪い体液をぶしゃーっと噴出した。うーわきんも、私はそのまま着地してアンリエッタ隊長代理の方へと振り向いたが。
「終わったか。こちらは解体終了だ、あとで業者に引き取ってもらおう」
「おお、見事な巨大昆虫の解体済み死体ですね。高値が付きますよ」
手助け不要どころか、絵を描くように解体してら。さて、雑魚掃除も終わったので地鳥を呼び寄せてってこら暴れるな。気持ち悪い体液付いたからって嫌がってんじゃねえよ、これも仕事だろ?
睨むと地鳥は直におとなしくなった。よーしそれで良いんだ、最初から素直になっていればこっちだって優しく。
「アンナ、気持ち悪い体液浴びたから地鳥に嫌がられてやんの」
「三枚下ろしにしてまくぞアーロン」
「わりーわりーあーおっかね」
そういった感じでバカも黙らせて任務再開だ、護衛任務もゴールが見えて来たしもう直ぐだ。おや? そう言えばクライアントの方々がだんまりだな。何かあったのかと思ったら、荷車の奥に引っ込んで震えてた。そんなに怖かったのかな、こちらの落ち度だな。
と思っている内にやっと町に着いた。っと、そこに何と体調が待っていたよ。びっくりだ。
「おお、無事だったか。欠員はいるか?」
「残念なことに一人もいません、順調すぎました」
「クライアントの方も無事か、それは良かった」
隊長が荷車の奥で震えているクライアント達に近付くと全員例外なく震えて縮こまった。そして隊長が営業スマイルを浮かべていると、彼らは震えながら金を渡してそそくさと荷車を街に入れていった。その時、彼らが震えた声で。
「あ、あれは人間じゃない、バケモノだ」
「ワ、我々ハ、バケモノヲ呼ンデシマッタ」
などと呟いていた。思わず今更ですかとか、やっと気付きましたとか、知ってから頼めよとか、ぶっちゃけ突っ込みどころ多過ぎたがまいっか。いつものことだしね。
「おい、貴様ら! 帰還だ、早くヘリに乗れ!」
隊長が一喝し、私達は振り向くとそこにはヘリが降りてきた。やっと仕事終了か、かったるかったーこれで帰れるわーやっと風呂に入れる。私はヘリに早速乗り込んで奥の席に座る。
「うっわずりー、みんな疲れてんのに一人だけ席とったぞあいつ」
「黙れアーロン、アンナは山賊団の相手に奮闘した。160人中たった50人の犠牲で抑えたんだぞ、凄い戦果だ」
「すげえ、皆殺しにしなかったのかよ。アンナ、お前そんなに器用だったのか!? 」
バカが喧しい、ぶっちゃけ疲れたから反応なんてしたくない、さっさと帰りたいんだ。周囲にもその空気と思いが伝わったのかあっさりと周りは静かに座り込んだ。やがてヘリは飛び立ち、私達の本拠地であるアヴァロン城へと向かった。
ヘリから降り、一同解散を言い渡されて本日のお勤めが終了したので私は上に羽織っていたマントや軍帽を纏めて妖精達に渡し、早速社員食堂ガラテンへと向かい、今日は夕食としてB定食を注文したのだった。すぐにB定食を受け取って席に着き。
「お、アンナお疲れってなんか臭くねえか?」
「うるさいですよガウェン先輩、これ以上余計なことを口にするのならラント先輩との背徳的な本を描いて異世界の同士本交流会で売り捌きますよ?」
「そ、それは、俺にどういう実害をもたらすんだ?」
先輩は引き気味返して去った。まあ、もう既にこの世界で売っているのだが、別に良いよね、本人にも読ませたし。反応は割と悪くなかった、と言うか男同士で背徳的な行為をしていることよりも、剣術以外どうでもいい人達的には寧ろ絵の上手さが勝ったらしい。
ある意味での公認だ、その後『自分たちはこんな事をする間柄ではない』とか抜かしていたが知るものか。この世は、妄想した者が勝つのだ。
そうしてさっさと仕事を終わらせ、食事も済ませた私は踵を返してアヴァロン城の社員温泉ことカリバーン浴場へ向かい、速攻ですることを終わらせて社員寮アロンダイトを目指す。
地をかけ、低空を跳び、真っ直ぐに家路につく私。風を切って走るのはやっぱ楽しいね、軽く魔法で壁作って音速突破してるけど。
「ふんふんふーんふん、ふふふーん、ふふふふーんふーふんふふーん」
ああ、家に帰れるって良いわーテンション上がるー。
「ふふふーん、ふふふーんふーんふーんふふーん」
社員寮の入り口に立ち、自分の部屋の前までそのまま跳躍して辿り着き、鼻歌交じりに鍵を開けて自分の部屋へと帰宅。一先ず仕事着は集めといて、明日妖精達にでも渡そう。
さってさて、冷却術式の中に突っ込んでおいた麦酒を取り出して映像器を起動させた。何故って? 決まってる。
「さあって、昨日の深夜アニメ見るかーっ」
今日もアニメ見て、同士本のネタにする為だよ! 今日の疲れと共にぐいっと麦酒を飲み込んだ。
え、後半と前半の空気の違い? トキヴァーリュ人だから仕方ない。