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1・どちら様ですか?

 入社五年目。毎月の残業時間は五十時間程度。彼氏いない歴イコール年齢の私、紀川結恵のりかわ ゆえは、今日も靴底の磨り減ったパンプスを引きずるようにして夜道を歩いていた。手にはビールと弁当が入ったコンビニの白いビニール袋。駅から徒歩十五分もかかる我が城、一人暮らしのアパートの部屋には当然のごとく灯りはない。


 鍵を開けて真っ暗な部屋に入ると、もわっとした室内干しの洗濯物の臭いが充満している。それだけではない。異様に暖かい。


「嘘?! 今朝ちゃんと消したのに!」


 慌てて靴を脱いで、狭い1DKの家の中へ飛び込んでいく。僅か四歩で目的地に到着した。頭上には、煌々と光を放つ小さな緑のパイロットランプ。ザ・エアコン稼動中だった。


「光熱費が……」


 思わず、へなへなと冷たいフローリングに座り込んでしまう。

 いくら勤め人とは言え、中小企業なんてサービス残業万歳状態で手取りはそれ程芳しくはない。よりによって高いプロパンガスが通じているこのアパートはエアコンもガスなので、丸一日つけっぱなしだった事実は如実に使用料明細へ反映されてしまうだろう。


「疲れてるのかな……?」


 今日はお手洗に行った際にパンストに伝線が走った。昨日作った会社の展示会ちらしのデータがバックアップファイル共々壊れてしまい、今日は復旧作業でほとんどの時間を費やしてしまった。昼ご飯の途中で課長からの呼び出しを喰らい、ランチは半分程しか食べれなかった。

 そう、今日はついていない。そして、疲れているのだ。


 だから、目の前のエアコンの排気口からギョロリとした丸くて白い目玉が一対、こちらを見つめているように見えるのも、きっと幻影にちがいない。


「どちら様ですか?」


 私はファンタジー小説が大好きだ。いつか自分の身にファンタジーな事象が起きるといいなと夢見ていたが、実際に起きてみると腰が引けてしまう。それでもなけなしの勇気と社会人としての矜恃を振りかざして、目の前の目玉に問いかけてみたのだ。


「見て分からないのかい? エアコンお化けだよ」


 しゃ……喋った!

 自分から尋ねておきながら、まさか返答があるとは思っていなかった私。悪寒と鳥肌が足元から頭の天辺に向けて駆け抜ける。


「ぎゃーーーー!!! 出たぁあああ!!!」




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