表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の方舟 = Star-Ship ARK =  作者: 杉森 真
7/11

(06)Warning ②

 

 私は口火を切ったマイケルと共に、MEDルームに足を運んだ。

 クルー達の要望を伝えながら提督の考えを確かめてみると。


「わしは、神では、ないぞ……」

 病床に横たわる父は、苦笑いの表情からジョークを繰り出した。


 今日の父は、顔色もよく容体も安定しており安心した。父は上体を起こすと言葉を続けた。

「皆さんのお気持ちは有り難い。でも、今のわしは、隠居同然の身だ。皆で話し合って、船長が決断したまえ」


 父の考えは、基本的に船長の判断が最終決定だという信念を持っていた。

 だが、ここはクルー達の強い要望も考慮して、提督の助言を仰ぎながら判断を下すことで了承してもらった。

 その時、同行した大きな口はつぐんだままで、ただ頷くだけだった。


☆MEDルームを出ようと戸口に差し掛かった時――――――

 父は背中越しに、リーダーとしての心構えを授けてくれた。

 非常事態や緊急時で最も大事なことは、冷静さと信頼感だ。

 技術面では、専門知識が豊富なフライト・エンジニアの助力を得よ。

 リーダーである船長は、精神面でクルー達の支えになることが肝心。


 私は目から鱗が落ちるほど、心も洗われる思いで御言葉を受け止めた。背を向けたまま大きく頷いてから、提督の下を静かに去った。



 父が抱える病とは、『宇宙白血病』である。長期間に亘り、宇宙放射線に曝されたのが発病の原因だと言う。

 火星基地開発の中核を担っていた父は、長年の無理が祟ったようだ。宇宙放射線が絶え間なく降り注ぐ火星環境は、想像以上に過酷であったのだ。火星基地の開発スタッフに課せられたリスクは、予想外に大きかったと言うことだ。


『目に見えない敵ほど、怖いものはない』

 最強の防護服となる宇宙服をもってしても、完全には防ぎ切れないのである。放射線というのは、その強さだけが問題なのではない。少ない線量であっても、長期間に亘ると積算被曝量が問題となるのだ。


 任務に忠実な父は、リーダーとしての立場から野外活動に率先して携わっていた。昔気質の父は、古くからの率先垂範という言葉を絵に描いたような人物で、その勇気と情熱には脱帽する。


「宇宙線だらけの宇宙空間で、放射線が怖くて、やってられるか!」

 これが父の口癖だったと、開発スタッフたちは口を揃える。


 しかし、そんな昔気質の父だったからこそ、今も命は救われているというのも事実である。

 父は、危険を伴う小惑星有人探査に、隊長として自ら志願し、幸か不幸か探査船事故が起こってしまった。その事故からくる後遺症は、皮肉なことに、重病を発見する引き金となった。


 仕事を三日と休むことがなかった父が、一週間もの間意識不明の状態が続いた後、一月余りの入院生活を強いられることになった。その間、様々な検査が実施され、病巣が見つかり宇宙白血病と診断された。そんなお蔭もあってか、手遅れにならずに余命も延びたのだ。


 航空医官の母の話では、安静を保っていれば、現状では命の心配までには至らないと言うから一安心だ。肉親としての心配だけではなく、提督としても生き延びて貰いたい。

 人類の未来は彼の明晰なる頭脳と豊かな経験にかかっている。



☆ミーティングを再開すると―――――― 

 同行したマイケルが提督の言葉を伝えた。

 すると広いMEETルームが、あっという間に信頼感と安堵の空気で満たされた。


 結局のところ、新たな対策を講じるよりも、既存の安全装置をフルに活用する事にした。そして、何よりも大事なことは、スタッフ同士が信頼し合うことを確認した。

 だが、最後に技術面の課題としてコスモ・ドライブを止めるか否かの問題が残った。それはCF-PREの強力なプラズマ噴射と、強大な太陽放射との相互作用が未知の領域だからである。


「ストームを振り切るのは、無理です。出来るだけ太陽から離れることです」

 フライト・エンジニアの意見が飛び出した。


「同感だ! 太陽風の放射線密度は、距離の2乗に反比例する」

 天体物理学者の補足が加わった。


「……と言うことは、フルパワーですね?」

 間髪を入れる間もなく、チーフエンジニアが結論を出した。


「皆さん、貴重な意見に、感謝します」

 私は臨時ミーティングの散会を宣言した。


「ラジャー。キャプテン!!」

 全員の声が一つに重なり合うと、混声合唱張りに見事なハーモニーを奏でた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ