表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の方舟 = Star-Ship ARK =  作者: 杉森 真
4/11

(03)Information ①

 

 出航時の慌ただしい儀式も一段落。時間的にもゆとりが出てきたところで、SSアーク号が処女航海に出るまでの経緯と、移民団の編成や自慢の新型スターシップについて紹介しておきたい。


 22世紀末、世界連邦航空宇宙局(WASA)は火星の移民施設の拡張建設を急いでいた。移民施設第一号『MARS CITY-01』は巨大な人工空間で、かつて『ワールドハウス』と呼ばれていた構想をベースに具現化した。

 直径が約300mにも及び、地上100m高さに気密性の丸天井をもつドーム型。ドーム内の人工大気を維持すると共に、火星の寒冷な夜を凌ぐための巨大な温室となる。

 

 移民団長である私の父は、かつて火星開拓スタッフの中核を担い。あの不運な探査船事故が起こる定年間際まで、その重責を遂行していた。父は小惑星探査で有名な有人探査船タイタン号の船長だったが、探査事故の後遺症で入院生活が長くなり、定年間際にその任を解かれた。


 当時父は、アステロイドベルトで『宇宙の遺跡』を発見したと口癖のように言っていた。しかし精神科医の診断では、事故で脳に受けた電磁波のショックから来る精神性ストレス障害とされた。

 その時WASAの指令本部は、父の話を後遺症からくる幻覚として処理した。


 父が語る宇宙の遺跡に残されていた謎の惑星の記録の話を、私も少し聞かされたことがある。

 高度な科学文明をもつ氷の星には、放射線を出さない量子エネルギー、巨大なドーム型都市、スーパー量子コンピュータ、反重力宇宙船、新生児の人工培養、そして、惑星の大爆発など、驚異の世界が満載であった。更には、地球人類の起源にも繋がるという救世主の活躍、等々。まるで、宇宙の神話でも聞いているようだった。


 確かにどれも信じ難い摩訶不思議なものだが、幻想とは思えない。科学的にも興味深いものばかりで、今後時間に余裕ができたら詳細を聞かせてもらうつもりだ。


 退職した父は、地球に帰還するためCOSMO ISLANDに寄航した。するとそこで待ち受けていたものは悲惨な現実だった。

 火星開発に勤しんでいた十年足らずの間に、政治情勢は激変。西暦2201年の年明け、時の政府『世界連邦』は崩壊した。


 20世紀に端を発する放射能による生態系汚染も深刻化していた。放射性元素という悪魔の粒子が持つ真の恐ろしさも知らず。利益至上主義の経済社会で、軍需産業も蔓延はびこる中、人間の貪欲な探究心は核開発競争を続けてきた。


 20世紀の世界大戦では、人類最初の『原爆』が試された。悪魔の火玉は、極東と呼ばれた地域の小さな島国に投下され、二つの大都市を壊滅させた。

 更には、平和利用の謳い文句の下、21世紀まで猪突猛進開発された『原発』は信頼性を喪失。原発の安全神話は崩壊したと言われたが、そんなものは初めから絵空事で、原子力の安全性など人間の驕りだったのだ。今でも語り継がれている三大原発事故がそれを物語っている。


 これら核開発の惨劇は、長年に亘り広範囲な放射能汚染を招いた。核分裂の連鎖反応によって増殖した放射線は無限に空間を汚染し、見えざる悪魔の激昂は、DNAを破壊し生命を地獄のどん底へと突き落とすのだ。


 原子爆弾『原爆』、原子力発電『原発』。この両者は、悪魔の顔の表裏で原理本質は同じものだ。

 トラを檻の中で飼い馴らして野生を封じ込めたとしても、ひとたび檻が崩壊すれば、トラは野生の本性をむき出しにする。原子力も同様で、野生の本能を持つ自然界の一部であり、扱いを誤ると生命にその牙を剝いてくる。人間はすべての自然に対して畏敬の念を忘れてはならない。


 前述の通り、悪魔の手先と化した愚かなテロリストによる環境破壊は地球規模で広がり、北半球を中心に四大陸は壊滅状態に陥った。アダムの林檎の如く悪魔が人間に授けた知恵は、パンドラの箱を開けてしまったのだ。

 悪の教典から編み出された悪魔の兵器は天空までも焼き尽くし、溢れ出た悪魔の『見えざる洪水』は、命を地獄の底へと呑み込んだ。


 父は、悪魔の洪水から逃れるために、病魔に侵された老体に鞭打って再び宇宙へと旅立った。

 私の父は、本船の提督ヨハン・エイロン(Johan Aron)その人である。最愛の妻ユリア(Julia)と共に、希望を胸に新天地を目指している。


          ★ ★ ★

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ