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星の方舟 = Star-Ship ARK =  作者: 杉森 真
3/11

(02)Bridge

 

 私は、宇宙日誌の初記録を済ませると、足早あしばやにブリッジへ戻った。


「チーフパイロット、直ちに、減速、反転」

 キャプテンシートに腰をえるや否や指示を出した。


「ラジャー! SSアーク号、姿勢制御開始します」

 ベテランパイロットのマイケル・シダーヒルは、素早い応答で制御操作に入った。


 宇宙船はゆっくりと反転し、船首の向きを180度変えた。

 いよいよ月軌道を離れることになる。


「月軌道離脱1分前」

 コスモナビゲーターのケイト・フォレストがカウントダウンに入った。


「了解! 直ちにコスモ・ドライブに入ります」

 マイケルは素早くエンジン切り替え操作を開始した。


 彼は、WASAのパイロットの中でも、屈指くっしのフライト経験を持ち、宇宙飛行士指導教官の資格を持つ。彼の操縦テクニックときたら、まるでマジシャンのような華麗なる手さばきで、誰もが脱帽する。


「いよいよ。出発だな!」

「ハイ! キャプテン」

 黒い前髪からのぞくケイトの大きな瞳には、光るものがキラリと浮かんでいた。


 この時、私の心の中には緊張感と期待感が同居し始めた。

 私にとって、火星までの飛行は初めてで、正直不安もある。でも、ベテランパイロットのマイケルをはじめ、優秀なクルー達にも恵まれており安心だ。また、提督である父やフライト・エンジニアのスミノフ博士を筆頭に、各分野の専門家の存在がある限り非常に心強い。


 そして、何よりの心の支えは、私の大事な天使が一緒にいることだ。彼女は、私の右腕となって宇宙航行をナビゲートしてくれる存在で、……というのは建前たてまえで、実は、今後の人生行路じんせいこうろも、彼女と一緒に歩みたいと思っている。



 さて、月軌道を越えると、星間航行せいかんこうこうコスモ・ドライブに移ることができる。宇宙船は加速度飛行モードで宇宙航路に入るのだ。


【Attention ! Attention ! 人工重力生成。アストロブーツはオフになります。Attention ! Attention ! 】

 早速、マザーコンピュータからアナウンスが流れた。


 不自由な無重力のおりから、ようやく解放される。

 月軌道までは加速度飛行は許可されないため、船内は無重力に支配される。電磁式のアストロブーツという足枷あしかせを着けることで、重力の代用をさせている。

 だが、これからは地上と同等の重力が働くことになる。私たち地球生物にとって、慣れ親しんだ1Gは、快適に過ごせるので何よりもありがたい。

 今夜は、久々に本物の温水シャワーでも、ゆっくり浴びてリフレッシュするとしよう。


        ★ ★ ★



 今日の宇宙日誌の記録は、少し長くなりそうだ。途中半とちゅうなかばだが、私は記録を切り上げ、ブリッジへ戻ることにした。

 処女航海となるSSアーク号の巡航状況を逐次ちくじ確認するためで、……と言うのは口実で、私の大事な天使の顔を、少し見たくなったというのが本音だ。


「お疲れ様です! キャップ」

 OPEルームに入室するや否や、愛しい声が耳に届いた。この声は、いつも私の心を癒やしてくれる。

 ブリッジ中央に構えるキャプテンシートの隣で、ナビケーター席に座るケイトから、ねぎらいの言葉であった。


「ケイトこそ、お疲れさん! よく分かったね?」


「分かるわよ! 足音で……」

 振り向いた天使の笑顔が、私にはまぶしかった。


「それは、それは……」

「何年? 付き合ってんのよ! ワタシタチィ」


「それも、そうだ!?」

 私は、苦笑いを隠すようにうつむき加減で、後頭部を何度も掻いた。


「……ところで、宇宙航路は順調かい?」


「ええー、まさに、順風満帆じゅんぷうまんぱんよ!  ……この新型宇宙船、サイコウ!」

 ケイトは、声を弾ませこぶしを突き出し、親指を立てた。


「そりゃー勿論さ、自慢のスターシップ、だからナ!! ……って言うか? コスモナビゲーターが、優秀だからさぁ!」


「あらっ、お世辞のつもり? 今は、オートクルーズ中よ!」

 ケイトは笑顔をふりまくが、どこかその目は泳いでいた。


「あっ、そっか? 新型のオートパイロットの安定感は、バツグンだね?」

 私は、照れ隠しに慌ててその場をつくろった。


「長い宇宙航路も、始まったばかり。……腕の見せどころは、これからよ! 任しといて、この優秀なナビゲターに!」

 真顔で答えるケイトであるが、その目は三日月形に笑っていた。


「ありがと! それは頼もしいかぎりだ。……では、後はよろしく!」

「ラジャー、キャプテン!」


 私は、ブリッジを後にすると、宇宙日誌の続きをるために、ハウスへと戻った。

 私の大事な天使の笑顔から、今日も元気を貰うことができた。どんな良薬にもまさる心のビタミン剤だ。

 

 



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