そっちに行ったぞ
都市近郊の農園に、その依頼があったのは幸運だった気がする。
だがこの依頼、思いのほか大変だったようだ。
「そっちに行ったぞ!」
「はい!」
俺は走ってきた黒い球状の物体を虫取り網でとらえる。
今回は上手くいったと思いながらすくい上げたそれを、バケツの水の中に放り込む。
こうすると動きが止まるのだそうだ。
そうするとまた誰かが、こちらに果実が走って来たのを告げる。
だから俺はそれを再び虫取り網でとらえた。
ニャコ達は今三人で別の場所で収穫を手伝っている頃だろう。
そちらの木の方が、逃げ足が遅いらしい。
ただ逃がしが早い方が美味しいそうだが。
「食べたくない、絶対に食べたくない」
俺は小さく呟きながらそれを追いかけまわす。
この“ララレの実”という物は、俺の握り拳一つ分くらいの大きさの黒くて丸い果実だ。
だが、この果実にはよく伸びた鳥の足のような形をしたものが二つ付いていて、地面に熟して落ちると、二足歩行をして逃げるのである。
何でも、より遠くまで移動できれば、陽の光を独り占めできるからだそうだ。
生物の進化に関して一つ賢くなったような気がしたが、多分気のせいだろう。
やがて水の入ったバケツ一杯に木の実を集めた俺は、他の場所、つまり果物の集積所に持っていく。
ここの農園は、すぐそばに加工の工場があって、そこに運ばれるそうだ。
なのでむいた後の殻は無料でもらえるらしい。
事前に聞いたので間違いないのはいいとして。
「おい、そっちに行ったぞ」
「はい!」
新しいバケツに水を汲んでいた俺は急いで虫取り網で、果実を捕まえる。
この依頼、戦闘よりも体力を使うんじゃないかと俺は思いながら、明日以降の筋肉痛の予感に震えたのだった。