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モノノケ少女 モノ子さん!  作者: 名御異 湯呑
可愛いあの子はモノノケ少女
7/9

そのなな

 男は座席を立って歩き出したが、

 どうやら幸向たちの方向に向かっているようだ。


(あ、どこいくんだろ? 駅はまだ先なのに)


 などと考えていると、男は幸向たちの座席の横で立ち止まった。


「あの……菓子……ねえ……?モノ子……さん……?」


 幸向はそこから声が出ない。

 菓子ねえはむむむと唸りながら、何やらリュックをごそごそしている。

 モノ子は、行きの時と変わらず頬杖をついて外を眺めている。


「き、君……こっち……おいで……」


 男が身をかがめて幸向の顔を覗き込む。


(ひぃいー! 怖い怖い!)


 幸向、顔を逸らす。

 近寄られて分かったが、明らかにこの世の者ではなかった。


「おー、あったあった。なぁおっさん」


 菓子ねえが男に呼びかける。

 その声に応えるように、男が首だけぐりんと反転させ、

 菓子ねえの方を向いた。

 男は、驚いたように少しだけのけぞった。


「……ウチの目の前で何さらしてくれとんじゃ」


 ドスの利いた声でそう言いつつ、菓子ねえが男の顔に何か貼り付けた。

 男は少しだけ身を震わせると、そのまま硬直。

 やがて、弾けるように霧散した。


「全く、成仏せえ。ウチとモノ姉に気付かんほど人恋しかったんかなぁ。

 ってモノ姉、完全に気配消しとるし……

 ごめんな、こなちゃん。怖かった?」


 菓子ねえの手にあるそれは、いかにもなお札。

 白い長方形の紙に、赤い文字で梵字のようなものが書き連ねられている。


「かかか、菓子ねえ~!何アレ! 何アレ!

 やだやだやだ、これからずっとあんな事が起こるの!?」


「こ、こな、こなちゃん、ちょ、ちょっと落ち着きぃや」


 幸向が涙目で菓子ねえの肩を掴んで揺さぶる。

 

「お、落ち着いてなんかいられないよ!」


「大丈夫、大丈夫やから! ちょっと落ち着きぃ!」


 菓子ねえの言葉に反応して、ようやく幸向が菓子ねえから離れる。


「おー、首痛……」


「菓子ねえ、ホント? ホントに大丈夫なの?」


「お姉さんに任せなさい。まずは、はいコレ」


 菓子ねえが先ほどのお札と、首から勾玉を外して幸向に渡す。


「あ、ありがと…あれ、お札はともかくこの首飾り、大事なものなんじゃ」


「せやなぁ、ひい婆ちゃんの頃からの由緒正しいお守りや。

 ウチも婆ちゃんから受け継いでん。大事にしいや?」


「え、受け取れないよこんなの」


「ええってええって。それ、霊感のある人が持つと力を発揮する強力な魔除けでな。

 それがあれば、ああいう弱っちい類は近寄れへんなるやろ。

 次にお札。帰ったらもっとあげるわ。使い方は分かるな?

 初回無料やで? 感謝しぃや」


 幸向はしばらく貰ったもの……特に勾玉を眺めていた。

 それを首につけてみる。

 不思議と、何か温かいものに包まれるような安心感があった。


「うわぁ……すごい」


「お、分かるか。流石やな。ウチはもう感じんなってもたけど……」


 強力な魔除け、というのは本当の様だ。

 幸向は、慈しむかのように勾玉を撫でている。


「さて、こなちゃん」


「ん、なに?」


「これからの事を整理しよか」


「これからの……事?」


「せや。まずはその霊感。

 安心しい。元がおらんなったからいずれ元に戻るわ」


「ほ、ホント!? また嘘じゃないよね!?」


 幸向が身を乗り出して菓子ねえに詰め寄る。

 さすがに菓子ねえもたじろいだ。


「うぉう、またって何やねん。

 ホンマやホンマや。ただな、どれくらいかかるかは分からん。

 十年もの間アレに憑かれとったわけやしな」


「でも、ずっとこのままじゃないって分かっただけでも良かった……」


 幸向の目から、ポロポロと涙がこぼれた。よほど安心したのだろう。

 菓子ねえが、無言でしばらく幸向の頭を撫でてやる。

 モノ子も、二人に気付かれないようにチラリと幸向を見て、

 また外を眺め出した。


「よしよし、落ち着いたか? 万が一お守りがあってもあかんようであれば、

 お札をペタリ、や。ウチ謹製やからな? 効果はお墨付きやで」


「でもいいの? お守り貰っちゃって……」


「せやなぁ、まぁ、霊感がなくなったら返してくれたらええ」


「そうじゃなくて、菓子ねえに何かあったら」


「ウチもう霊感ないしなあ。それにこなちゃんは神様の憑いとる間、

 なんもなかったやろ? ウチはな……」


 菓子ねえがちらり、とモノ子を見遣る。

 モノ子が『何か用か』とでも言わんばかりに菓子ねえの方をちらとだけ見た。


「いひひ、こんなんともう20年以上一緒や。さっきのおっさんの反応見たやろ?

 モノ姉の気配が体に完全に染みついてしもとるわ」


「た、確かに」


 幸向は昨夜を思い出す。

 あんな、手を抜いているどころではない、ほんの小さな動作で、

 弱っているとはいえ神様を一撃。

 しかも穢れまで払っているらしい。

 改めてモノ子の常識はずれの強さを思い知った。


「さてとこなちゃん。ここからが本題や」


 おほん、と一つ咳払い。

 改まった様子で、菓子ねえが語り出した。

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