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モノノケ少女 モノ子さん!  作者: 名御異 湯呑
可愛いあの子はモノノケ少女
6/9

そのろく

 二人はモノ子に追いつき、モノ子と並んで森に入る。

 かつてここで迷った時は、幸向自身どれくらい走ったのか分からなかったが、

 モノ子はまるで道が分かるかのように、すいすいと木々の間をすり抜けていく。

 五分ほど歩いただろうか。それはあった。

 あの時と変わらず、朽ち果てた小さな祠がそこに佇んでいた。

 ふと、横を見るとすこし遠くの方にキャンプ場が見える。

 当時は周りは森しかなかったのにだ。

 改めて、幸向の背筋に嫌な汗が流れた。


「かしの」


「はいはい。ほいよ、モノ姉、こなちゃん」


「何これ?」


 菓子ねえがリュックからお菓子を取り出す。

 それを大まかに三等分すると、モノ子と幸向に配った。


「なにって、神様にお供えや」


「お供え? ……嫌だよ……あんなの神様のわけないじゃん」


「……神様だよ」


 モノ子がポツリと呟く。


「……そう、こなちゃんを襲ったモノはれっきとした神様や」


「おかしいよそんなの! 神様って人を助けてくれるものじゃないの!?」


「まぁ、神は人の祈りに応えるものやな。例え祟り神でも」


「じゃあ神様ですら……それにお供えって……」


「いや、ちゃうねん。ただ忘れてしもたんや。

 長い間誰にも祀られず、神様としての役割や、自分のかたちさえもな。

 稀に、ほんまに神様が宿っとる祠がある。

 そういうものは大体神社の中とか、人目に付くとこにある。

 人の祈りが絶えることはまずあらへん。

 けどな……誰も来んなった祠自体はよくあるけど、

 ほんまに神様が宿っとる祠でそれはまずいねん。人恋しさに害をなす。

 せやから、ウチらでお参りしたろっちゅうわけや」


「でもさ……」


「気持ちは分かるけど、ほら、お供えしとき。」


 菓子ねえに言われ、しぶしぶ祠にお供えをする幸向。

 モノ子と菓子ねえがそれに続いた。


「よし、じゃあお祈りや。手ぇ合わせてな……」


 その場にしゃがみ、手を合わせ、目を閉じる。

 菓子ねえも、そしてモノ子も。


 ―ありがとう―


「え?」


 確かに、そう聞こえた気がした。

 思わず、菓子ねえの方を見る。

 菓子ねえが、片目を開けて悪戯っぽく笑った。


「よかったやん、こなちゃん。さてと」


 菓子ねえが立ち上がる。そして祠を見ながら語りかける。


「神様、お仕置きはきっちりモノ姉から受けたみたいやな。

 こっぴどくやられたおかげで穢れまで払われとるわ。

 後は任せとき。知り合いに頼んで祠を直して、人目につくとこに移したるわ。

 せやから、もうおいたはあかんで?」


 ―ありがとう―


 今度ははっきりと聞こえた。


「礼はいらへんよ。その代わり、きちんと神様しぃや? ほな、帰ろっか」


「うん!」


「……」


 幸向は大きな声で返事をする。モノ子は無言でうなずいた。

 そうして三人は、帰路についた。

 祠は、菓子ねえが知り合いに頼んで修復、移設をするらしい。

 具体的にははぐらかされたが、『そういう事』の専門がいるらしい。

 費用は知り合いが持つから心配ないそうだ。



 ―所変わり、再び電車の中―



「菓子ねえ」


「ん? なんや」


 多少日差しは和らいだが、まだまだ明るい。

 長い時間あの場にいたようであるが、実際は一時間ほどだ。

 再び、三人は電車に揺られていた。

 電車の中は、乗客がもう一人いるのみ、ほぼ貸切だ。


「なんか、妙に詳しかったよね? 

 それにそういう知り合いがいるって……」


「あー。まぁモノ姉が見える時点でウチ霊感強いからなあ。

 いや、強かった、やな。

 大学卒業するくらいまでは、結構色々あったねん。

 こういう方面の勉強とかもしたしな。」


「今はもうないの?」


「ないな。年が経つにつれ霊感がすっかり薄れてしもてなぁ。

 霊感の強い人間の側やと、未だに多少は影響受けるけどその程度や。

 ただひい婆ちゃん曰く、モノ姉だけは死ぬまで見えるらしいわ」


「霊感の強い人間って……もしかして私?」


「せや。姿を消しとるモノ姉が見えるくらいやからなあ」


「で、でも私あの神様が見えるまで今までそんなこと一度もなかったよ!?

 やだよ、お化けとか見えるの!」


「あー、それなぁ、隠してもあれやから言うけど、ちょっちまずいねや」


「……え?」


 幸向の頬に、つぅ、と冷や汗が流れる。


「こなちゃんな、もともと霊感がないねん。全く」


「でしょ!? だったら!」


「もともと、な。

 でも、あの神様と約束して憑かれてしもたやろ。

 その影響で、じわじわとこなちゃん自身に歪な形で霊感が憑いた」


 歪な、と言われて幸向は息をのむ。

 少なくとも、不吉な意味であることは理解できた。


「生まれつき霊感のある人は、ある程度そういうモノに対して抵抗力がある。

 そもそも、ほんまに霊感ある人の数は少ないし、

 歳とってきたら慣れてきて、大体の人はシカトするか避けるしな。

 反対に無い人はそういうモノが見えへんし、

 そのモノの力がよほど強くない限りは、『向こう』から関わりようがない。

 つまり、『こっち』と『あっち』が直接関わることはそうそうないねん。

 まぁ今回のは腐っても神様。だいぶ弱ってはいたけど……

 こなちゃんがまだまだ小っちゃかったのを差し引いても、

 霊感ない人を自分の結界に引きずり込めたのは流石やな。」


「でも、憑かれるっていっても、したのは騙されてした『約束』だよ?

 魂を取ってくださいって『お願い』したわけじゃないよ?」


「『約束』と『祈り』は似とる。

 こなちゃんの『約束』に応えるという名目で、

 ある程度の力は取り戻した。それが騙すような形で得たものでもな」


「ひどい! あんなの、約束とは言わないよ! 無理やりだったもん!」


「でもな、約束してしもたのは事実や。

 そんなわけで、とうとうあの神様が見えるくらいまで霊感が高まった。

 でも、抵抗力はない。要はお互いの悪いとこどりやな」


「悪いとこどり……で、でもあの神様が見えるまでは、

 そんな心霊的なの一回もなかったよ!?」


「神様の先約があるからな。そんなんにそうそう手ぇ出さん。

 皮肉な話やけど、ある意味では護られとったっちゅうわけや。

 そもそも神様がおいたせんかったら、その必要すらなかったわけやけど」


「えーと……こんがらがってきたけど……

 神様は祠に帰ったんだよね?じゃあ、その護りってもしかして」


「せや、もうあらへん」


「じゃあ、これからの私って」


「うーむうむうむ……まぁ心霊現象が多発するやろな。

 色んなモノが視えることになるはずや」


「……嘘、でしょ?」


「嘘やあらへん。例えばあの乗客、ずーっとこっち見てへんか?」


 そう言われて幸向は乗客の方を見遣る。

 乗客は背の高く顔色の悪い四十代くらいの男。

 幸向を見つめていたので、すぐにばっちり目が遭った。

 なんとなく気まずくなって、すぐ目を逸らした。


「見られてるけど、ずーっとなの? 私ってそんなにかわいいかな」


「なんでそうなるねん! 自意識過剰か!

 まぁ確かにかわいい顔はしとるけど……ってちゃうちゃう。

 ほんまにもう、鈍いなぁ……まぁ鋭いよりはええか。

 変に不安を煽られると向こうの思う壺やし。

 まぁええ。アレな、幽霊や」


「え」


 幸向、硬直。

 菓子ねえの顔を見つめたまま。

 しばらく静寂が流れた。

 ふと、幸向の視界の端で男が立ち上がった。

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