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モノノケ少女 モノ子さん!  作者: 名御異 湯呑
可愛いあの子はモノノケ少女
2/9

そのに

(うわ……)


 思わず幸向は見つめ返してしまった。

 年の頃は十三~十四と言ったところか。

 その年頃にありがちなニキビなど一つもなく、肌は雪のような白さ。

 大きな二重の瞳に小ぶりな鼻、唇も大きすぎず小さすぎず。

 眠たげな眼と見つめあうと、なんだかこちらも眠くなる。

 そんな少女が幸向を見ていた。


「こなちゃん? どしたー? 虫でもおるんか?」


「は? いや虫って! 違うよあの子あの子!」


 幸向は菓子ねえとひそひそと会話する。


「あの子って、あそこの真っ黒な子か?」


「そうだよ! 何なのあの子! すっごいかわいいんだけど!」


「うーん……こなちゃん……いや……」


 菓子ねえは少し考え込む。

 

「あの子な、ウチの姪っ子やねん」


「え!? 菓子ねえそんなのいるの!?」


「おるわ! ウチゃ天涯孤独か! 姉貴の子供や!」


「姉貴……」


(あ、そういえばお姉さんがいるって話してたな…)


「ごめんごめん、そういえば前にそんな話してたね」


「せやろ? 全く……お金倍貰うで?」


「あーでもなんか思い出してきたけど…

 甥っ子がやんちゃで困るって話じゃなかったっけ?」


「……いやな、やんちゃで困る甥っ子の話をしたことはあるけど、

 手ぇのかからん姪っ子の話はしたことなかったやろ?

 その甥っ子のお姉ちゃんや」


「ふーん、なんか焦ってない?」


「いやいや、気のせいやろ」


 珍しく狼狽える菓子ねえを見た幸向であったが、

 そこに付け込んでどうこうしよう、というような性格ではなかった。


「ま、いいや。あの子の名前は?」


「へ? 名前? いやそんなんええやろ別に」


「良くないよ! 挨拶くらいしたいじゃん!」


「えぇ……えーっとなあ……」


「何か今日変だよ菓子ねえ。来ちゃまずかった?」


「そうやなくてやな……まぁええ、あの子な、『モノ子』っていうねん」


「ものこ?」


「そうそう! えーっと…………萌っていう字に、

 名前によく使われるあの乃っていう字に子供の子や」


「こう?」


 幸向はカウンターを指でなぞって字を書く。萌乃子。


「せやせや。変わった名前かもしれんけどな」


「でも、この名前私は好きだな」


「お、さよか? それはあの子も喜ぶわ」


「よし、行ってくる!」


「あ、ちょ、こなちゃん!」


 幸向がモノ子に近寄り、少し体を屈めて目線を合わせる。


「こんにちは、萌乃子ちゃん」


「……」


 モノ子、黙して語らず。

 ただただ幸向を見つめるのみだ。


「えーっと……」


 幸向が困ったような笑顔で菓子ねえを見る。


「その子な、人見知りやねん。知らん人とはよー喋らんねや」


「そっかぁ……」


「ほらモノ子、奥行っとき。ごめんなこなちゃん」


「いや、そんな別に……」


 モノ子は小さく頷くと、カウンターに向かって歩き出した。

 

「あ、そうだ!」


「おぉ? 今度はどした、こなちゃん」


「菓子ねえ! ラムネもう一本頂戴!」


「もう喉乾いたん? まぁええわ、まいど。開けるで?」


「うん!」


 モノ子を追い越して急いでカウンターに向かい、

 お金を払ってラムネを受け取った幸向は


「はい、どうぞ!」


 モノ子に向かってラムネを差し出した。


「……」


 モノ子、やはり黙して語らず。

 だが差し出されたラムネを見つめること数秒。

 そっとラムネを受け取った。

 ぷくぷくと泡立つのを見たり、中のビー玉をころころと転がしている。


「ちょいちょいこなちゃん。親のしつけでお菓子はあんまり…」


「えー、せっかく駄菓子屋に来てて、何もないって可哀想!」


「いや、そらまあそうかもやけど……後でウチがあげとくし……」


「いいでしょ! 私が買ったんだから!」


「うぅーん、確かにもう売ってもーたしなぁ……」


「ね? ね? 菓子ねえってばぁ~」


「あーもう、しゃあないなあ……」


「やった! さ、萌乃子ちゃん、おばさんはいいから飲んでごらん?

 欲しかったんでしょ~? ふふふ」


「お、おば……!」


「え、萌乃子ちゃんのおばさんでしょ?」


「ぐぬ……まぁええわ……」


 そんな問答をしている間に、モノ子はラムネに口をつけていた。

 ラムネを傾け少しだけ口に流し込むと、

 驚いた顔をして口からラムネを離し、一息ついた。


「……びっくりした」


 モノ子、初めて口を開く。

 幸向がやけに嬉しそうな顔で語り掛ける。


「炭酸飲むの、初めてなの?」


「タンサン……? ラムネじゃなくて……?」


「ラムネにね、炭酸が入ってるの。

 そのしゅわしゅわってのはね、炭酸が入ってるからなんだよ?」


「……飲むの、初めて」


「そっか……美味しくなかった?」


「……美味しかった」


「そっかぁ! よかったぁー!」


 幸向が喜びのあまりぱちんと手を叩く。

 流石のモノ子も少しばかり目を見開いて、

 驚いているかのような表情をしていた。


「あ、ごめんね。びっくりした?」


「……そういうのじゃないけど」


「そっか! じゃあ次は……」


「……ありがと」


 そう言いつつモノ子は、ててて、とカウンターの奥に走っていった。

 呆気にとられる幸向だが、すぐに笑顔になる。

 と、笑顔のまま菓子ねえを見遣ると、こちらは目を大きく見開いて、

 更に大口を開けて呆気にとられたような表情だ。


「菓子ねえ? ホントに今日変だよ?」


「あぁいや、何でもないねん……」


「それより、人見知りって言っちゃってー! お礼も言えるいい子じゃん!」


「お、おぅ……ウチもめっちゃ驚いたわ……」


「そうなの?」


「まぁなあ……で、まだ何か買っていくん?」


「あーいいかな。この後、本買いたいし。無いと思うけど……

 とにかく、そろそろ帰るね」


「おう、ほなまた来てやー」


 こうして幸向は駄菓子屋を後にした。

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