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モノノケ少女 モノ子さん!  作者: 名御異 湯呑
可愛いあの子はモノノケ少女
1/9

そのいち

 彩樫(あやかし)町に住むその少女は不幸であった。

 名前は不香田幸向(ふこうだこなた)

 誕生日は六月六日。

 年は十六。もう少しすれば十七。高校二年生。

 身長は百六十七センチ。

 ショートヘア。

 体重は伏せる。やや痩せているとだけ言おう。


 幸せが向かってきますように、

 幸せになりますように。

 そんな願いで両親がつけた名前。

 しかしあだ名は不幸ちゃん。

 親しい友人には『ふーちゃん』などと言われる。

 せめて『こなた』ベースであだ名をつけろといつも言っている。

 あまり効果はない。

 昔から不思議と運の悪い少女であったが、最近は特にそうだ。


 陸上部では短距離の選手。

 昔から運動神経はすこぶるよく、部内でも足は一番速い。

 中学の頃は大会でも上位に名を連ねることが常であった。

 だが今はない。なぜか?

 大会の直前になると病気をしたり怪我をしたり…

 他校との交流試合などではそのようなことはない。

 なので他校からは謎多き存在となっている。

 何のことはない、不幸なのだ。


 本を読むことが好きである。本屋はよく行く。

 だが今は少ない。なぜか?

 好きな作家の新刊が出るので、買いに行こうとすると売り切れている。

 色んな店を回っても、よくて目の前で最後の一冊が売り切れる程度。

 ようやく見つけたとしても、今度は財布を落としていた。

 仕方なく買ってきてもらっても、うっかり父親にコーヒーをこぼされたりした。

 何のことはない、不幸なのだ。


 頭も決して悪くはない。

 本を読むことが好きなだけあり、特に国語が得意だ。

 だが理系科目が苦手というわけでもない。

 つまるところ、文武両道というやつだ。

 しかしテストの成績は振るわない。なぜか?

 テスト期間になると、いつも風邪をひくのだ。

 這うようにして学校に出てきてテストを受けると、当然そんな点数になる。

 何のことはない、不幸なのだ。


 ここまではあくまで一例。

 流石に命にかかわるような危険なものはないが、

 こうした小さな不幸せは挙げればきりがない。


「はあ、不幸だ」


 幸向がため息をつく。このような事は慣れっこではあるが。

 ちなみに財布を落としたのは今日の出来事であるが、今回が初めてではない。


 それはそうと幸向は最近、後ろから視線を感じる。

 部屋の中で一人きりでいるときでもだ。

 しかし霊の類は信じない性質なので、あまり気にしていない。

 だが財布をよく無くすので、

 視線から隠すようにお金などを服の中に隠したりしてみた。

 すると無くならなかった。

 ただ幸向はそれについて、しめしめ、としか感じていなかった。

 自分の物なのに。

 アh……ポジティブな少女であった。


(駄菓子屋にでも寄って帰ろっと)


 練習はというと、これまたさっき足首を捻ったばかりだ。

 タイムキーパーくらいは、と練習に参加していたが、

 サッカーボールを頭に受けたり、野球ボールを頭に受けたり……

 いるだけで心配だ! と帰還命令を受けたというわけだ。


「こんにちはー」


「お、こなちゃんまいどー。どしたんこんな時間に?」


「まいどー菓子ねえ。いや今日は部活休んで」


 菓子ねえとは、お菓子のおねえさんである。

 駄菓子屋『アヤカシ駄菓子店』店主。関西出身。

 幸向のセンスがおかしいわけでなく、みんなからそう呼ばれている。

 二十代の半ばらしい。

 身長は高く顔もスタイルもよし。

 幸向はこぶりな自分の胸といつも比べてしまう。


 切れ長の瞳は狐のお面を彷彿とさせる。なのできつねえと呼ぶ子もいる。

 たまに『コンコーン』とありふれた狐の鳴き真似も披露する。

 ノリのいいお姉さんだが、どことなく飄々としていて、

 人を化かしそうな感じは狐を彷彿とさせる。

 狐のイメージはあっているな、と幸向はいつも思う。

 いつも首に掛けている青い勾玉が更に不思議な雰囲気を醸し出す。


 幸向はこの駄菓子屋がお気に入りであった。

 ここに来ると、なんとなく落ち着くというかなんというか。

 それに、ここにいる時だけは大した不幸もなく過ごせるのだ。

 座敷で長居することも多々ある。


 平日にここに来るのは珍しい。

 いつもは部活が終わるころには店は閉まっている。

 なので顔を出すとき時はいつも休日。

 今日はなんとなく新鮮であった。

 不幸ちゃん不幸ちゃんとまとわりついてくるガキンチョもいない。

 だが、


(あれ……誰だろうあの子)


 見慣れない少女が後ろを向いて立っていた。

 背丈は百四十センチほどであろうか。

 半そでの黒のクレリックシャツに膝まである黒いプリーツスカート。

 ソックスもふくらはぎ程度まであり、これだけはかわいらしい淡い桃色。

 黒ずくめの格好に、特に襟の白が際立っていた。


 髪は簡単に後ろで結ばれているが、ほどけば腰ほどまではあるのだろうか。

 狐の顔をあしらった、何ともかわいらしい髪留めで結ばれている。

 濡れたような黒髪がつやつやと眩しい。


(濡れ羽色って、こんな色の事かな)


 幸向は自分の髪と比べて、少し落ち込んだ。

 髪はそれなりに手入れしているつもりだった。


(まぁいいや、ラムネ買お)


 幸向は胸ポケットから千円札を取り出すと、カウンターに置く。


「菓子ねえ、ラムネいっこ」


「はいな、まいどあり。もう飲むん?」


「飲む飲む」


 菓子ねえがラムネを開けてお釣りとともにカウンターに置く。

 幸向は胸ポケットに小銭をしまうと、ラムネを手に取った。

 胸ポケットに小銭を入れるのも随分慣れた。


(ん?)


 ふと視線を感じたのでそちらを見遣ると、先ほどの少女が幸向を見つめていた。

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