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「あの家が霧原さんの家よ?」
コトコが言うその家は、コトコの家と同じくらい大きい感じだが、この村には少し不釣り合いな現代風な建築である。二階建てのコンクリート製。ガレージには高級車が三台も停まっている。表札には大きく「霧原病院」と書いてあり、いわゆる町医者ならぬ村医者なのだろう。
「正直言うと、霧原さんとこって、ちょっと苦手なのよね・・・」
コトコはそう言って苦笑いをした。
「あまりいい評判も聞かないし・・・ でも、村で唯一のお医者さんだから、村の人もあまり強い事が言えないの。ダム建設の時だって・・・」
コトコはそこまで言うと、ハッとして言葉を止めた。少し深そうな話なので、誰も続きを聞こうとしなかった。その土地の問題は、その土地で解決するしかないのかもしれない。三人とも何となくそれが分かった。
「こんにちは。霧宮のコトコですが、妹達がお邪魔していると聞いたので、迎えに来ました。」
コトコがインターフォン越しに呼び掛けると、すぐにドアが開いた。
「あら、コトコちゃん、いらっしゃい・・・」
そう言って出てきたのは、二十歳前後の女性である。やけに細身で色もすごく白い。眼鏡を掛け、神経質そうに頻りに長い髪をいじっている。
「こんにちは、サヨコさん。うちの妹達が来てるって聞いたんですけど・・・ 来てますか?」
コトコがそう言うと、サヨコはコトコの後ろにいる三人に気付いたようで、
「来ているわよ・・・ ところで見ない顔が三人・・・ コトコちゃんのお友達かしら?」
と、力の無い声で言った。三人は慌てて、
「こんにちはっ!」
と、頭を下げた。サヨコはそれを見て、うっすらと力の無い笑みを浮かべた。
「今日は、お父様はいないの・・・ もし良かったら、あなた達も上がっていきませんか?」
「いえっ・・・! ごめんなさい、うちの霧木さんがお昼御飯を作って待っていてくれてますから、急いで帰らないと・・・」
コトコが少し慌てた様子で答える。すると、サヨコは残念そうな表情をしながらも、うっすらと笑みを浮かべて、
「今、トシヤと遊んでいるから、呼んでくるわ・・・ 上がって待っててくださいな・・・」
と、四人を促した。
コトコは、一瞬躊躇したようだが、三人がいる事で覚悟を決めたのか、素直に霧原邸に上がった。
「こちらへ・・・」
サヨコは奥に続く廊下を行くと、二十畳ほどもある広い応接間に四人を案内した。そして、
「今呼んで来ますから、この部屋で待っていて下さい・・・」
と言って、部屋から出て行った。四人は部屋の中央にあるソファーに腰を掛けた。
「すごい家だな?」
ショウゴが、部屋の中をキョロキョロと見回しながら言う。高級そうな家具が並び、その棚には、高級そうな置物や、お酒が並んでいる。壁には絵画が数枚掛けられており、いかにも金があるぞといわんばかりな感じである。
「やっぱり医者は儲かるんだな?」
ケイイチが言う。
「医者だから金持ちってわけじゃないと思うけど・・・」
コトコがサラッと流す。何となく意味ありげである。
「他人の家であまりキョロキョロするなよ?」
タマキが言う。
「いやぁ、こんな家に来る事なんて二度とないかもしれないしな? なんか珍しいものでもないかな?」
ショウゴは、そんな事を言いながら部屋を見回す。と、
「コトコお姉様。」
そう言って、小学校低学年らしい女の子が二人、サヨコに連れられて応接間に入って来た。双児だろうか? そっくりである。
「テイコちゃん、ネイコちゃん・・・ 今日はありがとうね・・・」
サヨコはそう言うと、二人の女の子の頭を優しく撫でた。
「すみません。二人がお世話になりました。」
コトコはそう言うと、二人の妹の手を取り、足早に応接を出た。それを見た三人は慌てて、作り笑いでサヨコに会釈すると、コトコ達の後を追った。
玄関で改めてサヨコに別れを告げ、六人は霧原邸を後にした。
「ごめんね? 昔は私もよくサヨコさんには遊んでもらったんだけど、色々あって疎遠になっちゃって・・・ なんか居づらいのよね?」
コトコが申し訳なさそうに言った。そして、手をつないでいた二人の妹達を改めて紹介した。
「この子がテイコでこの子がネイコ。一卵生の双児だからそっくりでしょ? さ、二人ともお兄ちゃん達に御挨拶しなさい。」
「テイコです・・・」
「ネイコです・・・」
二人は、始めてみる三人に対して、少し怯えているような感じで挨拶をする。三人も改めて名乗った。そして改めて二人の妹を見た。
テイコとネイコは本当にそっくりで、初めてあった三人には区別がつけられない程である。黒髪のおかっぱ頭と大きな瞳が印象的である。日本人形。三人の第一印象は一致していた。
「二人ともあの学校に行ってるの?」
ショウゴがなるべく優しく話し掛けるが、テイコもネイコも、コトコの背中越しに頷くだけである。
「お前怖がらせてどうすんだよ?」
ケイイチがそう言って、リュックから飴玉を二個取り出す。そして、二人に、
「こんにちは。宜しくね?」
と言って、飴玉を差し出した。すると二人は顔を見合わせて、コトコの顔色を伺う。そして、少し残念そうに言った。
「知らない人からモノを貰ってはいけないの。」
「うん、だからいらない。」
テイコとネイコはそう言うと、コトコのTシャツの裾を掴んだまま背後に隠れてしまった。
「二人とも。このお兄ちゃん達は、お姉ちゃんのお友達だから大丈夫だよ? ほらっ!」
コトコはそう言うと、二人の頭を撫でた。すると、二人は嬉しそうに笑いながら、初めてコトコの背後から出て来てた。そしてケイイチの手から飴玉を受け取った。
「ありがとう。」
二人同時に言うと、ステレオのようである。それを見たコトコはホッとした様子で言った。
「ゴメンね? 二人とも人見知りが激しいから・・・ でも、みんなは大丈夫みたいで良かった。」
「でも、本当にそっくりだから、僕達には区別がつかないな。」
タマキが言う。すると、コトコが笑いながら言う。
「初めて二人を見た人はみんなそう言うよ? でもね、二人の顔を良く見るとすぐに区別出来るよ?」
コトコが二人を並ばせる。
「ほら、テイコの右目尻には小さいけど、泣きぼくろがある。ネイコには左の目尻に泣きぼくろがあるの。わたし達はそんなの関係なく分かるけどね、初めて会った人達はこのほくろで区別してるの。」
三人は、テイコとネイコの顔を覗き込む。なるほど、確かに二人の目尻には左右逆位置の小さなほくろがある。
「これなら間違える事はないね? なっ? ショウゴ?」
タマキがバカにしたように言うが、ショウゴはまるで気付かない様子で「うん、うん」と頷いている。
「そろそろ、昼食の用意が出来てる頃じゃないかな?」
コトコが言った。タマキが腕時計を見る。十二時三十分を回ったところである。
「お腹も空いてきたし早く行こう!」
コトコはそう言って、妹達の手を取り、三人を促して自宅へと歩き出した。
続く