2
2
2
水霧線は、水沢から霧鳥郷を繋いでいるローカル鉄道である。一時間に一本程度、通勤時間帯でも一時間二本しか通っていない。しかし、三人は運が良い事に、わずか五分程待ってすぐに電車がきた。三両編成の短い車両だ。夏休みだからか、時間が早いからか、降りてくる乗客は本当に数える程度である。また、乗り込む乗客も三人の他には、行商姿のおばあさんが一人と、サングラスにマスクをつけた初老の男性が一人の計五人しかいないようである。三人は、向い合せの適当な座席に腰を掛けた。
「朝御飯食べてきた?」
ケイイチが、おもむろにリュックサックの中をかき分けながら言った。
「俺も持ってきたよ。」
タマキがそう言ってコンビニのおにぎりを取り出す。
「あーっ! 俺持ってくんの忘れたーっ!」
ショウゴが頭を抱え込んだ。ショウゴのリュックの中はお菓子でいっぱいだ。
「お前、お昼はどうするんだよ?」
タマキがわざとらしく聞く。
「昼はコンビニか・・・ 適当な所でなんか食べればいいかな、と思ってさ。」
ショウゴは頭を抱えて悔しがっている。
「持ってくんの忘れたじゃなくて、最初から忘れてたんだろ?」
ケイイチが突っ込む。そして、
「ほら、これやるよ。」
と言って、おにぎりを差し出した。手作りのおにぎりである。
「お前、絶対に忘れてくると思ってさ。俺が作ったんだからありがたく食べろよ。」
ケイイチがニヤニヤ笑っている。ショウゴはおにぎりを受け取り、
「サンキュウっ、悪いなぁー。」
と言って、頬張った。次の瞬間、
「うっ!」
と、ショウゴが固まった。
「お前、・・・この具・・・何?」
「梅干し」
ケイイチはあっけらかんとして答える。
「贅沢言うなよ。貰いもんだろ?」
タマキはコンビニのおにぎりを食べながら、ニヤニヤと笑っている。
「おにぎりの具は梅干しに決まってるじゃんか。」
そう言って、ケイイチは美味しそうに自分のおにぎりを食べている。
ショウゴは梅干しが嫌いなのだ。小学校の頃から、梅干しだけは大の苦手で、タマキもケイイチも知っている。それで二人してニヤニヤ笑っていたのである。
「これを機に、お前も梅干し食べれるようになるんじゃないか?」
タマキが笑いながら言う。ショウゴはそれを見て、
「分かったよっ!」
と、おにぎりを無理矢理口に詰め込み、持っていたペットボトルのお茶で流し込んだ。
「おおぉーっ」
二人が同時に声をあげた。ショウゴは少しむせながら言う。
「意外と美味しいじゃない? ・・・ところで他の具ってないの?」
「無い!」
ケイイチは即答。わざと美味しそうにおにぎりを食べ続けている。
まあ、梅干し入りとはいえおにぎりを頂戴したし、後はお菓子で口直しをっと。ショウゴはリュックからお菓子を取り出した。それを食べながら窓の外を見る。建物が随分少なくなって、代わりに田んぼや森などの景色が増えてきた。
ふと、タマキが言った。
「さっきから思ってたんだけど、あの客怪しくないか?」
「あのばあさん?」
ケイイチが言う。
「もう一人の方だよ。」
タマキが言う。
ショウゴは、座席から少し身を乗り出してみた。あれから何駅か止まったが、今の所降りるひとも乗る人もいない。その為、すぐにあの男性の姿が確認とれる。その男性は、サングラスとマスクをつけたままの姿で、仕切りに時計を見ては窓の外を見る、といった動作を繰り返している。確かに怪しい。
「あんまりジロジロ見るなよ。気付かれるぞ?」
タマキが静かに促す。
「何かの犯人かな?」
ケイイチが言うと、タマキが突っ込む。
「何の犯人だよ?」
「強盗事件とか? もしかしたら殺人事件かも・・・?」
ショウゴが言うと、タマキがあきれ顔で突っ込む。
「そんな奴がこんな所にいるわけ無いだろう?」
「じゃあ、なんで怪しいなんていうんだよ?」
「べつに・・・ ただなんとなく思っただけだよ?」
三人とも、この手の話は結構好きなので、その話題で話しているうちに、
「次は終点の霧取郷。お忘れ物ないようにお気を付け下さい。次は終点、霧鳥郷」
という、車掌のアナウンスが流れた。三人は、慌てて食い散らかしたモノを片付け、持ってきたゴミ袋に入れた。そうこうしているうちに、電車は霧鳥郷の駅に付き、三人は電車を降りた。行商のおばあさんと例のサングラスの男もこの駅で降りた。
ショウゴが、何気に腕時計を見ると、午前六時四十分であった。
続く